国の経済規模を表す「国民総生産(GDP)」は、消費+投資+政府支出+純輸出から求められる。この4要素のうち、好況・不況の引き金ともなり、またその影響を受けやすいのが投資である。というのも投資は未来に関わるものであり、金融政策や事業者の将来への見通し次第で変動するからである。
投資には、有形資産に対する「有形投資」と、無形資産に対する「無形投資」がある。しかしGDPにカウントされるのは有形投資のみで、無形投資は含まれていない。無形資産は、企業の財務諸表(バランスシート)にも表れない。
無形資産とは、物質的なモノではなく、アイデアや知識、社会関係といったものを指す。具体的に挙げると、次のようなものである。
・スターバックスの「店舗マニュアル」
・アップルの「デザイン」と「ソフトウェア」
・マイクロソフトの「研究開発」と「研修」
・グーグルの「アルゴリズム」
・コカ・コーラの「製法」と「ブランド」
・ウーバーの運転手の「ネットワーク」
今世紀に入って、この無形資産を把握しようという試みが経済学者のあいだで始められた。
当時、世界で最も時価総額が高かったのはマイクロソフトで、2006年における市場価格は2500億ドルだった。財務諸表を見ると総資産は700億ドルほどで、うち600億ドルは現預金や金融資産であり、工場や設備といった伝統的な資産はたった30億ドルだった。これはマイクロソフトの資産全体のわずか4%に過ぎなかった。時価総額と比べれば1%である。1%の有形資産で100倍の企業価値を生み出す世界は、本書のサブタイトルにあるように、「資本なき資本主義」の世界と言ってよいだろう。
各種データやアンケートを使った経営学者の研究は、徐々に洗練されてきている。その結果、米国だと1990年代半ばには、無形投資が有形投資を追い越したと推定されるようになった。
無形資産は、有形資産とは異なるふるまいを示す。その特性を一言でまとめると「4S」となる。すなわちスケーラブル(Scalable)で、その費用は埋没(サンク:Sunk)していることが多く、スピルオーバー(Spillover)する傾向があり、お互いにシナジー(Synergy)を持つということだ。
順番に見ていこう。たとえばデジタル化された音楽やソフトウェアは、一度オリジナルを作ってしまえば、質的にまったく変わらないコピーを低コストで作ることができる。つまり無限に拡張(スケールアップ)できる。こうした無形資産の性格を「スケーラブル(拡張可能)」という。
これは航空機エンジンのようなモノにおいても、その設計という無形資産(知識)に着目すれば同じように言える。一度設計を完成させれば、その知識は繰り返し使用できる。
こうしたスケーラブルという特徴を生かし、あるカテゴリーの業界で支配的な地位を占める巨大企業が生まれてきている。グーグルの検索アルゴリズムが最高であれば、他の検索エンジンを使う理由があるだろうか?
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