マリス博士の奇想天外な人生

未読
マリス博士の奇想天外な人生
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マリス博士の奇想天外な人生
出版社
早川書房
出版日
2004年04月09日
評点
総合
4.5
明瞭性
4.5
革新性
5.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

分子生物学に真の革命を起こした人物、キャリー・マリス博士。彼は風変わりというレベルを遥かに超えた、あらゆる意味で型破りな研究者である。研究者の評価は往々にして執筆した論文数によって決まる業績主義であることが多いが、マリスはアカデミズムの塔にこもる大御所教授のイメージの対局に位置する人物だ。

実際、マリスは有名大学やエリート研究機関といったアカデミックな場所で定職に就いたことは一度もなく、彼が書いたまともな学術論文は数えるほどしかないという。研究を離れてファーストフード店で働いていたこともあったほどだ。そして、良い波がくれば波乗りに興じるサーファーでもある。

本書ではマリスをめぐるさまざまな噂の真相が密に語られている。そして、本書に目を通せばそのほとんどの噂が大筋で本当のことだったということが分かるだろう。マリスは世間における自分のイメージというものをはっきりと自覚しており、あえて偽悪的に、あえて露悪的に自らを語っているところが印象的だ。その点で、浮世離れした天才でもなく、イッテしまっているトンデモ学者でもない。

本書を読み終えれば、マリスが実に愛すべきチャーミングな人物であることを知るだろう。そう語るのは、本書の訳者であり名著『動的平衡』『生物と無生物のあいだ』の著者でもある福岡伸一氏だ。組織、権威、科学・・・世の中のあらゆることに対する、彼のうらやましいまでの自由さを、本書から感じ取っていただきたい。

著者

キャリー・マリス
1944年ノース・カロライナ州生まれ。幼い頃に化学の楽しさに目覚め、寛大な母のもと、さまざまなアブない実験を繰り返す。ジョージア工科大学卒業後に就職したシータス社の研究者時代に、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を発明。この業績が認められ、1993年にノーベル化学賞を受賞。無類の女性好きやサーフィン狂としても有名で、各メディアで話題になる。現在は四人目の妻ナンシーとともに、カリフォルニア州ニューポートビーチ在住。(本データは刊行された当時に掲載されていたものです)

本書の要点

  • 要点
    1
    サーファーがノーベル賞。大発明は純粋な好奇心と一瞬のひらめきから成る。
  • 要点
    2
    人間は長い年月をかけた進化の過程で、身体に必要な栄養とそうでないものを決めてきた。自分の利益のため、飛躍した論理をさも正しいかのように振りかざす人の意見など聞かず、本質を見極めることが大切だ。
  • 要点
    3
    地球規模で物事を考えると、人間なんてそもそもちっぽけなもの。自分が置かれた状況のなかで、肩の力を抜き、やれることをやっていくことから全てが始まる。

要約

分子生物学界を揺るがした世紀の発明、PCR

vkovalcik/iStock/Thinkstock
大発明は純粋な好奇心と一瞬のひらめきから成る

DNAとはなにか。遺伝子の精妙なメカニズムを理解することの意味は、単に医学に役立つということにとどまらない。この地球上に誕生した我々の文明の未来がどのように複雑な連鎖を描いて伸びていくのかを理解することにもつながるというのだ。私たちの身体の細胞の中にあるDNAは、私たちの歴史そのものなのである。

ヒトのゲノムは三〇億個の文字列から成り立っている。遺伝子研究では、この中から特別な文字列を探し出すことが必要だ。しかし、人間よりも何兆分の一も小さいDNAを物質として取り扱うためには、必要な文字列部分のコピーを膨大に増やさなければならない。その数なんと一〇億コピー以上だ。マリスが発明したPCR(polymerase chain reaction) は超微量のDNAを検出し、それを短時間で何十億倍にも増幅することを可能にさせた。

この方法は遺伝子疾患の診断にも有効であった。PCRを使うことで個人の遺伝子の中から病気を見つけることができ、さらに犯罪捜査でも力を発揮する。微量の証拠品、たとえば精液、血痕、毛髪から犯人が誰かを言い当てることができるのだ。

このように、マリスによって発明されたPCRは分子生物学のあらゆる分野に革命をもたらした。特筆すべきところは、この発明は当時誰もが知っていた既知の現象を組み合わせてなされたということである。さらに、この世紀の大発明は当時付き合っていた彼女とのドライブの間に突然ひらめいたというから驚きだ。そして、マリスはこのPCRの発明によりノーベル化学賞を受賞することになる。

「科学とは楽しみながらやることだと信じてきた」ノーベル賞受賞講演でマリスはこう語ったという。PCRの発明も、子供の頃、サウスカロライナの田舎町で遊びでやっていたことのほんの延長線上にあった。PCRは、分子生物学に革命をもたらしてやろうと考えて発明されたわけではなく、むしろ、当時素人同然だった自分の実験に必要な道具として発明された。

「もし自分がしようと思っていることについていろいろな知識をもっていたら、それが邪魔になってPCRは決して発明されていなかっただろうと思います」。そう、それは純粋な好奇心と遊び心がもたらした発明だったのだ。

現代の健康志向は論理が飛躍している

blackboard1965/iStock/Thinkstock
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要約公開日 2014.08.25
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