GPIF

世界最大の機関投資家
未読
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世界最大の機関投資家
著者
未読
GPIF
著者
出版社
東洋経済新報社
出版日
2014年07月17日
評点
総合
3.2
明瞭性
3.0
革新性
3.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

「GPIF」とは、日本国民の年金を運営する「年金積立金管理運用独立行政法人」の略称であり、130兆円もの資産を抱える世界最大の機関投資家でもある。安倍政権はこの組織を変革すると宣言しているが、日本国民はそもそもGPIFが何かを知らない。本著は、GPIF元運用委員を務めた著者が、組織について国民に知らしめ、その改革議論に積極的に参加させることを目的としている。

本著では、様々な制限がかかる組織の特殊性を指摘し、投資リターンを最大化するためには、政府はGPIFの運営ポートフォリオ自体には不干渉であるべきであると説く。また、政治的な思惑を背景に「日本株の買い増し」にGPIF改革の議論が終始している現状にも警鐘を鳴らしている。

現状に対して、GPIFがどのようなポートフォリオを運用すべきか、またその投資の軸は何かといった改革案も含まれている点は注目に値する。中でも、日本株の保有は現状の6分の1に減らす一方、外株を買い増し、実体経済の割合とほぼ同等にすべきとの主張は新鮮だ。

また、著者は投資戦略におけるリスク水準は国民が決めるべきであると提案する。リスク分散についても現状よりも明確な数値を提示し、「安全かつ効率的」という漠としたGPIFの運用目標を、改革議論で明確なものに置き換えていくことを目指すという。

国民がGPIFのあり方について「真摯に」議論する機会がありえるのかに関しては具体的な提案が無いとはいえ、GPIFという組織と、改革議論への理解を得るには適した良書である。

著者

小幡 績(オバタ セキ)
1967年生まれ。1992年東京大学卒。大蔵省(現財務省)に入省、99年退職。2000年IMFサマーインターン。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。2003年より慶應義塾大学ビジネススクール准教授。行動派経済学者として知られ、TV出演、雑誌への寄稿多数。「GPIFの運営の在り方に関する検討会」メンバー。2014年4月までGPIFの運用委員会委員を務める。

本書の要点

  • 要点
    1
    GPIFは公的年金運用という組織の特殊性から、運用に際して制限が多い。本来リターンの最大化を目指すには、政府は運用に関して不干渉であるべきだ。
  • 要点
    2
    望ましいGPIFのポートフォリオは、次のようなものではなかろうか。年金支払用の日本国債30%分を持ち切り前提で保有し、残り40%をインカムゲイン戦略のため、グローバル債券と不動産などの収益狙いの資産を入れる。20%はキャピタルゲイン戦略で、グローバル株式が中心となる(日本株はそのうち最大でも10%)。残りの10%はオルタナティブ戦略に当てるのだ。

要約

GPIFとは何か?

GPIFは公的年金運用のための組織

GPIFのように、独立行政法人という形をとりながらも公的に運営され、全国民に加入義務を追わせ、破綻の際には公的資金で救済することが暗黙の前提となっている機関は世界でも稀である。国民に委託されて運用を行っているGPIFのポートフォリオは、債券への配分比率が60%と非常に高い。

GPIFは政府系ファンドであり、顧客は国民(形式的には資金を委託している厚生労働大臣)である。一方で厚生労働省は監督官庁でもあり、顧客と上司が同一の環境ではガバナンスが効かないのが一般的である。また、GPIFに関する法律では「運用は、安全かつ効率的に行われなければならない」と規定されている。こうした環境下では「ベストパフォーマンスを達成しているか」といった具体的評価軸が存在しない。

GPIFの曖昧な権力構造が問題
lukas_zb/iStock/Thinkstock

GPIFの権力構造は非常に曖昧である。理事長は存在するが、運用委員会、投資委員会がそれぞれ大局的・局所的に投資の判断を下している。GPIFの心臓部である運用部門は、良い民間のファンドを選定することが仕事であり、ファンドオブファンズと同じ構造になっている。

独立行政法人化のプロセスの中で、コスト削減を図る流れがGPIFにも及んでいたが、GPIFのような成果が運用益という形で目に見える組織であれば経費削減一辺倒ではなくても、戦略的に社内投資を行うという道があっても良いのではないかと、著者は説く。

例えば、立地が悪くかつ簡素すぎるオフィスの影響もあり、世界最大の機関投資家であるにも関わらず、優秀な人材を採用できていないことは問題だ。

GPIFの運用利回りの数値目標は間違っている

GPIFの投資の方針は、厚生労働大臣からの指示である中期目標に規定される。この方針をもとに、有識者が審議会の中で議論し、財政検証のプロセスを経て具体的数値が決定されるのである。この運用利回りの目標数値には問題がある。

第一に、年金の健全性を国民にアピールするために、政府が意図的に楽観的な数値を盛り込んでいる可能性があり、信頼性に欠けている。第二に、経済前提の分析や議論で、実体経済と資本市場を強引に結びつけているものの、実際には無関係のものを連関させている結果であり、運用目標にはひずみが発生することとなる。

年金制度と資産市場の断絶

経済理論と投資環境は別物

では実体経済を参考に目標数値を決めればよいのか。しかし実体経済と資産市場は、実際には独立して動いているものだ。

第一に、現状の経済理論と現実の金融市場の動きはやはり別の論理で成り立っている。第二に、構造変化が起きている中で過去のデータは参考にできない。

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要約公開日 2014.10.03
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