ドラッカーと論語

未読
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著者
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ドラッカーと論語
著者
出版社
東洋経済新報社
出版日
2014年06月20日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

ドラッカーが著した『マネジメント』と、孔子とその弟子との対話を記録した『論語』。多くの経営者が座右の書としつつも、その真髄を隈なく理解することが難しいとされる東西の2大経典である。ところが、『論語』をサブテキストにして、『マネジメント』を読むと、ドラッカー思想をより的確に理解する「近道」になると言うと、驚く人が多いのではないだろうか。

筆者の丹念な研究に下支えされた鮮やかな解釈には、舌を巻かざるをえない。ドラッカーの諸々の著書や孔子の教えを引用しつつ、現代のリアルな具体例が豊富に盛り込まれているため、読めば読むほど、本の世界観に夢中になってしまう。同時に、『マネジメント』が「学習」に着目し、いかに「自由な社会」をつくるかという道を模索した思想書であることが、ありありと伝わってくるはずだ。

こうした背景には、若きドラッカーが経験した、ナチスが掲げる全体主義の猛威がある。彼は全体主義と闘うために、「組織」という概念を用いて、「組織の運営は自由と平等という価値の上で形成されるマネジメントによってしか成り立たない」と予見したのだ。ドラッカーの思想は、現代日本における「組織の罠」から抜け出すための啓示録であり、真の優れたマネージャー(=仁を体現した人)とはどんな存在なのかを示してくれる。東西の知の巨人の思想が一挙にわかる画期的な本書は、経営者や管理職だけでなく、全てのビジネスパーソンにとって必読の書だと確信している。

ライター画像
松尾美里

著者

安冨 歩
東京大学東洋文化研究所教授。1963年生まれ。京都大学経済学部卒業後、株式会社住友銀行勤務。京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。京都大学人文科学研究所助手、名古屋大学情報文化学部助教授、東京大学大学院総合文化研究科・情報学環助教授を経て、現職。『満州国の金融』(創文社)で第40回日経・経済図書文化賞受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    ドラッカーの思想を『論語』と照らし合わせると、優れたマネージャーは「学習回路が開いた状態を維持し、過ちを素直に認めてそれを修正できる仁たりうる者」であると解釈できる。
  • 要点
    2
    真の「イノベーション」とは、ものの見方や認識、考え方などを改めることであり、組織のイノベーションを成功させるには、経営者の確固たる「変革の意思」が不可欠である。
  • 要点
    3
    関所で利益を上げた資本主義は終焉を迎え、ブランドが新たな利益の源泉となっているポスト資本主義社会において、組織は組織外に開かれた場になる必要がある。

要約

マネジメントとは

Photos.com/Thinkstock
ドラッカーと論語の共鳴

マネジメント論の要諦は、実は『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』だけを読んでいてもつかみ切ることが難しい。そこで、的確に理解するために『論語』をサブテキストにしてドラッカーの思想が凝縮された大書『マネジメント――課題、責任、実践』を読み解くという方法を提唱したい。

彼の思想の背景には、軍隊、企業、国家が「組織化」され、ファシズムが世界を覆っていく時代における、「全体主義」との闘いがある。一方、孔子が生きた春秋戦国時代はまさに中華世界至上初めて「官僚組織」の運営が求められた時代であり、ドラッカーと同様に「組織運営」の新たな壁にぶつかっていた時代だと言える。そのため、ドラッカーの思想の下敷きには孔子の思想があると考えられる。孔子が唱えた「政」という概念は、ドラッカーの「マネジメント」の先駆であるのだ。

優れたマネージャーは「仁」たりうる者

「最上至極宇宙第一」の書と称される『論語』を筆者なりに解釈しながら、『マネジメント』と照らし合わせていきたい。『論語』に登場する「君子」とは、人格的にも道徳的にも優れた「良きマネージャー」と同義である。そして、『論語』の中心的概念である「仁」は、生きた知識を「学び」、しっかりと身につける「習い」の喜びを知り、学習回路を開いている状態だと考えられる。

一方、ドラッカー経営学の根幹には、「フィードバック」という概念がある。彼は「組織の意思決定には、フィードバックが必ず組み込まれていなければならない」と説いている。孔子の「仁」と、ドラッカーの「フィードバック」は共通性が高いと言える。つまり、マネジメントを正しく行う「マネージャー」は「君子」つまり「学習回路が開いている状態を維持し、過ちを素直に認めてそれを修正できる仁たりうる者」であるのだ。

この「仁」=「人格の誠実さ」はマネージャーの最も大切な資質である。ドラッカーのいうintegrityとは、フィードバックを通じた学習を継続する一貫性を備えた「全人格的に対応するような誠実さ、正直さ」を指し、「仁」とほぼ同一概念だと考えるのが妥当である。

「顧客の創造」は「お客様目線」ではない
Purestock/Thinkstock

『マネジメント』には「企業の目的は『顧客の創造』である」という有名な一文があるが、これは「お客様目線」とは別物である。顧客が何を求めるのかを考える以前に「自分たち企業は何をすべきか(=義)」を考えなくてはいけない。しかし、多くの企業は、結果としてついてくるはずの「利益」を「目的」や「目標」とはき違えている。

イノベーションの成功例として知られる「旭山動物園」は、「顧客の創造」の本質を物語る端的な例である。一時期は、「動物園」という組織の「目的」を忘れて「客を集める」ことにばかり焦点を当てた施策を行ったため、存続の危機に陥った。しかし、当時飼育係長だった小菅氏が「動物たちの本当の姿を見せていく」という、飼育員と動物たちにとっての「理想・あるべき姿」を考え抜き、ミッションを決定した。このミッションから「どうすれば動物の迫力を伝えられるか」を問い、「行動展示」という手法を生み出した。彼らはまさに入場者減少の根本の原因と向き合い、「フィードバック学習」を行ったのだ。

自らの行いを注意深く観察して自らを知り、自らのあり方を変える。これこそがマネジメントの本質である。

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要約公開日 2014.10.28
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