本書の主題は、不平等の水準の引き下げをどのように実現するかである。完全な平等はありえないが、現状の過度な不平等は縮小されて然るべきだ。しかし、そもそもなぜこの不平等という問題に取り組む必要があるのだろうか? ここで問題視しているのは結果の不平等についてである。なぜなら現代民主社会において、機会の平等を軽視する人は少ないだろうし、スタート地点は平等であるべきだと考えられているからだ。一方で、結果の不平等については解決するべき問題として大きく取り上げられてこなかった。
このような態度が正しくない理由は3つある。1つは、失敗をしてしまった人を無視するということは多くの人の道徳観からは受け入れられないということである。たとえ事前に機会均等があったのだとしても、つまずいてしまった人々を見放すことは現実的ではない。第2に、競争によって得られる報酬の構造は経済社会的に決定されるということである。そのため、その妥当性や競争そのものの公正さについては検討すべきであり、ここには介入の余地が残されている。そして第3の理由は、結果の不平等は次世代の機会均等に直接影響を与えてしまうためである。家庭環境は結果に影響を及ぼすものであり、将来の機会の平等を重んじるのであれば、現在の結果の不平等について改善していく必要がある。
不平等の縮小を考える上で、これまで残されてきたデータを参照することは非常に役に立つ。どの地域でどの時期に不平等が縮小していったのか、あるいは逆に不平等が増大していったのかを明らかにすることで、改善のための知見を得ることができるからである。
データから不平等が顕著に縮小した時期を見てみると、アメリカでは第2次世界大戦の終結前後、ヨーロッパ各国ではそれに加え、1970年代が該当する。この主な要因としては、社会保障制度による移転の拡大、賃金シェアの増大、個人資産集中の減少、政府介入と団体交渉による収入の散らばりの縮小が挙げられるであろう。不平等の縮小は、2000年代の中南米でも確認されているが、こちらも同様に市場所得の変化と再分配の拡大の組み合わせによって、政治体制に関係なく達成されている。
一方、ヨーロッパでは1980年代以降、不平等が加速してしまう流れが形成された。これをここでは「不平等への転回」と呼ぶ。その原因は、先に挙げた諸要因が逆転、または終わってしまったことに求められる。市場所得における不平等の増大に加え、社会保障制度が維持できなくなってきたことが、格差をさらに激しいものにさせてしまった。さらに、経済の「金融化」によって、総所得における賃金の割合が低下した。
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