interviews
インタビュー
北海道大学新渡戸カレッジ・フェロー 松沢幸一
キリンビール改革者が愛した小説と「発酵させる読書法」
フライヤー×サーキュレーションの「知見と経験の循環」企画第3弾。
経営者や有識者の方々がどのような「本」、どのような「人物」から影響を受けたのか、「書籍」や「人」を介した知見・経験の循環についてのインタビューです。
今回は、キリンビール株式会社代表取締役社長を務め、現在、北海道大学新渡戸カレッジ・フェロー、首都大学東京客員教授として活躍されている松沢幸一氏に登場いただきます。

360度の視点を養い、過去を学ぶ読書



——他誌のインタビューで、毎日寝る前に読書をされていたり、常に2冊以上の本を鞄に入れて持ち運んでおられたりと、かなりの読書家だとお見受けしました。読書の重要性について、どのようにお考えですか。

松沢幸一氏(以下、松沢):現在、大学のグローバル人材育成プログラムに関わっていますが、最近の学生の多くはすごく一生懸命勉強をするのに、本や新聞をほとんど読まないなと感じています。人生にマニュアルはありません。先人の知恵を自分でどれだけ感じとり、世の中の動きをとらえていくかが大事なので、もっと読書をしてほしいなと思います。

もちろん、ネットのニュースもいいのですが、ある一つの見方だけが紹介されていて、それで世の中がわかったような気になってしまいがち。自分の関心のあるニュースしか読もうとしない。360度の視点を養い、過去からの学びを得るには本や新聞を読むことが必要です。



——ネットのニュースだけでわかった気になってはダメなのですね。松沢さんは、これまでどんな本を多く読まれていたのですか。

松沢:高校生の頃は、先生に勧められるままに岩波新書などの歴史本を読んでいました。大学時代は、大江健三郎さんとか当時流行っていた小説をよく読むようになりましたね。

会社に入ってからは、ポーターの『競争の戦略』やコトラーの『マーケティング・マネジメント』といった経営戦略やマーケティングにおける王道の書も読みましたが、実はあんまり面白いと思えない。事業を自分で創ったことや、実際に経営に携わったことのある人の書いた本を主に読んでいます。

一番印象深いのは、日本実業界の父、渋沢栄一の『現代語訳 論語と算盤』です。産業を興し、会社をつくるだけでなく、事業を営む以上は社会に還元しなければいけないということを教えてくれた本でした。あとはヤマト宅急便をつくった小倉昌男さんの『小倉昌男経営学』もいいですね。最近読んだ本だと、出光佐三をモチーフにした『海賊と呼ばれた男』は、著者の書きぶりのためかもしれませんが、非常に面白かったですね。



「人間とは何か」を学べる小説



——松沢さんはフィクション要素のある歴史小説が好きだとお聞きしましたが、小説の魅力はどんなところにあるのでしょう。

松沢:歴史の事実が淡々と書かれた本よりも、1~2割フィクションの要素が入った、ダイナミックな歴史小説のほうが、その世界観に入りこめて面白いんですよ。人間模様が学べますしね。学校の授業では、明治時代以降から戦後の歴史を習う時間が少ないけれど、本当はこの100年がどんな時代だったかを振り返ることが大事。小説を読むと当時の暮らしぶりもわかります。例えば、(歴史小説ではないけれど、)リリー・フランキーの『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』には、私たちの子ども時代の世界が描かれています。同じ人間として、こんなものを食べて、こんな生活をしていたのかというところまで理解していくと面白いんじゃないかな。



——そういう読み方をすると、小説は学びの宝庫になりますね! これまで読まれてきた本のなかでも、とくに「ご自身の生き方に影響を与えた本」を教えてください。

松沢:司馬遼太郎さんや塩野七生さん、浅田次郎さんの小説が好きですね。彼らの小説に出てくる色々な登場人物は、「こういう人でありたい」という目標をつくるうえでの参考になります。

一番影響を受けたのは『坂の上の雲』です。一番自分の目指す姿と近いのは、日本騎兵の父と呼ばれた秋山好古。好古は(弟の真之と較べて)どちらかというと地味で、陸軍での出世をあきらめ、騎兵隊を作った人です。ロシア最強のコサック騎兵を打ち破るべく、馬から降りて機関銃で戦い、相手が攻めてくるときは塹壕で耐えて、相手が休んだときに攻め込むという柔軟な発想に長けた司令官です。「自分が勝てるのは何か」を大局的な視点から考えて、戦略を立てられるリーダーになりたいと思いましたね。



読書もビールづくりと同じ—「発酵」が良いアイデアを生む鍵—



——最後に、読んだ内容を血肉にするために意識しているポイントを教えてください。

松沢:私は乱読派ですが、読みかけの本をいくつか持って、並行して読んでいます。読みかけの本をいったん寝かせておくといいんです。ビールの発酵と同じですね(笑)

ある課題にいきなり取り組む前に、少し間を置くようにしているのですが、気になった言葉を手帳にメモしておくと、考えていないようで、実はその内容が(頭の中で)発酵して、ひょんなときにアイデアが現れます。そうしたアイデアを蓄積していって、最後にまとめると、良いものが生まれます。「1時間以内に仕上げなくては」と集中して一気に終えてしまうと、一方的な見方しかできなくなるんですよ。

語学の勉強も同じ。一生懸命勉強しているときにはなかなか伸びを感じませんが、毎日5分でも10分でも積み上げていくと、あるとき突然レベルが上がり、「抜ける瞬間」が訪れます。



——「発酵させる読書法」、ぜひ私も実践してみたいと思います! ありがとうございました。


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現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)
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渋沢 栄一 著 守屋 淳 翻訳
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約470社もの会社設立を成功させた日本実業界の父が説いた「利潤と道徳を調和させる」という経営哲学が書かれた、日本人の原点とも呼べる一冊。

海の都の物語〈1〉―ヴェネツィア共和国の一千年 (新潮文庫)
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塩野 七生 著
新潮社
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他国の侵略の危機に絶えずさらされながらも、1000年もの間、自由と独立を守り続けたヴェネツィア共和国の壮大な興亡史。

小倉昌男 経営学
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小倉 昌男 著
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「儲からない」といわれた個人宅配の市場を切り開き、「宅急便」によって生活の常識を変えたヤマト運輸の元社長である小倉氏による、「生きた経営のケーススタディー」。

坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)
坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)
司馬 遼太郎 著
文藝春秋
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明治維新後の日本を舞台に、コサック騎兵を破った秋山好古、日本海海戦の参謀秋山真之の兄弟、そして日本の近代文学に巨大な足跡を遺した正岡子規の生き様を描いた歴史小説の名作中の名作。

敗戦真相記
敗戦真相記
永野 護 著
バジリコ
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「失敗」の本質を鋭く衝く、昭和20年廃墟広島における第一級の歴史的講演録。

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大改革を断行してきたキリンビール元社長の松沢氏
キリンビール全盛期の新入社員時代は、サッカーにのめり込んでいたそうです。
そんな松沢氏の転機となった出会いとは?

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