interviews
インタビュー
AITコンサルティング代表取締役 有賀 貞一
ロジカルライティングを制す者が、ビジネスを制す!
フライヤー×サーキュレーションの「知見と経験の循環」企画第7弾。
経営者や有識者の方々がどのような「本」、どのような「人物」から影響を受けたのか「書籍」や「人」を介した知見・経験の循環についてのインタビューです。

今回登場するのは、IT業界のご意見番としても著名な、AITコンサルティング代表取締役の有賀 貞一さん。
野村電子計算センターに新卒で入社後、証券総合システム陣頭指揮、ニューヨークにおける駐證券新海外ネットワークシステムの設置・運営などに従事し、NRI(野村総合研究所)最年少取締役へ。CSKでは、金融システム事業本部長、公共システム営業本部長、SI事業本部長など歴任し、株式会社ミスミグループ本社の代表取締役副社長と複数社を渡り歩いてきました。
現在は、複数社の顧問として、スタートアップのコンサルティング、人材育成に従事されています。
IT業界の重鎮である有賀さんは、どんな本から知の体系を身につけ、仕事に活かしてきたのでしょうか。

ケーススタディーで抽象化能力を磨け



——有賀さんはNRI、CSK、ミスミで役員を歴任されてきていますが、システムの業界を目指された経緯を教えてください。

有賀 貞一さん(以下、有賀):子供時代、理工系の叔父からもらった『人類と機械の歴史』という本の影響で、メカニカルな世界にハマっていました。高校時代、日本最初の電子計算機がビルに運び上げられている写真を新聞で見て、将来この計算機を使った仕事がしたいと思いました。大学は文系だったのですが、運よくコンピュータ・クラブや独学、アルバイトを通じてコンピュータの専門性を身につけることができました。当時は日本にプログラミングをはじめとするIT関連の本がないので、海外の本や雑誌を通じて独学するしかなかったんですよ。



——そこから社会人になってNRIでは最年少取締役にまで上り詰められました。その後、CSK、ミスミと複数社の取締役を経験されてこられましたが、そのなかで一番培われたものは何でしたか。

有賀:ミスミに移ったとき、NRIやCSKでの知見や経験を言語化、抽象化できたのは非常によかったですね。抽象化できれば、それをマニュアル化、標準化して、違う業種でも活かすことができるので。

この抽象化能力を磨くには、様々な事象に対する豊富な知識、つまり「引き出しの多さ」が必要です。ある事象に他の事象との共通項を見出すには、比較対象になる知識量と、比較する速度や精度が求められます。特に知識量については、業務とその周辺領域をGoogleなどの検索で、容易に増やすことができるはず。私は雑学を詰め込むのが好きなので、すぐにググります。一つ調べるにも、図書館に行かないといけなかった時代に比べると、はるかに楽ですからね。

また、日本ではビジネススクールに通う人がまだまだ少ないですが、授業で扱うケーススタディーでの学びを、どう自社に活かすかを考える訓練を積めば、本質的な共通項を見抜く目を養えるはずです。



——これまで読まれた本の中で、ご自身のキャリアの転機を支えた本、価値観を大きく揺さぶれられた本を教えてください

有賀:テイラーの『科学的管理法』と、梅棹忠夫の『情報の文明学』です。前者のすごいところは、100年も前に現代経営学の基礎となる「可視化」という発想ができているところ。『ザ・ゴール』が登場する何十年も前ですから。『ザ・ゴール』はコミック版も非常に面白いので、こちらもおすすめです。さっき話した『人類と機械の歴史』にも影響を受けたし、フレデリック・ブルックスの書いた『ソフトウェア開発の神話』もずっと大事にしています。

あとは雑誌もかなり読んできています。『日経コンピュータ』(日経BP社)は創刊からずっと読んでいて、ほぼ全てのバックナンバーを手元に置いています。家には3000冊近い蔵書がありますが、その約8割が専門書ですね。専門雑誌のバックナンバーも2000冊以上あります。



本や雑誌の背表紙を「一覧」することで、知の体系が頭に入る



——自宅が知の図書館になっているのですね。本を選ぶ軸や、読書した内容を血肉にするために意識しているポイントを教えていただけますか

有賀:本の目次を見てわからない内容があれば読むようにしています。逆に目次を見てわかるなら読まずに本をストックしておく。本の知識を覚えるのではなく、どこに知識があるのかをインデックスで覚えるわけです。

本や雑誌の背表紙が一覧できるように、本棚にずらっと並べて、定期的に目的別、ジャンル別に本を並び替えて眺めるのが習慣です。雑誌を年代順に並べて見ているだけで、その分野の歴史的変遷が頭に入ります。記事のファイリングも続けていて、3ヶ月や1年スパンで見返すことで、知識データベースがアップデートできるんですよ。

並べられた本や雑誌を眺めることができるという「一覧性」が肝なのですが、今のデジタルデバイスでは難しい。ずっとITの世界にいるからこそアナログの大切さがわかるんです。いくらAI(人工知能)が発展しても、アナログ領域はカバーできない。例えば、良いデザインを選べとAIに指示しても、「良いデザインとは何か」を規定しないと選んでくれませんから。一時期、日経新聞をタブレットで読んでいたけれど、一覧性の観点では紙には勝てないなぁと実感し、今は紙で読んでいます。

「置くスペースがなかなかない」という声をよく聞きますが、本を自分独自の知的財産だと思えば、寝る場所を削ってでも本棚をちゃんと用意したほうがいいと思いませんか。

情報処理技術者試験委員として受験者の論文をずっと読んでできたので、読書スピードは3分で2400字になりました。キーワードを拾って消化できるようになったのは、訓練の賜物。書くスピードが上がったのは、12年間、毎月欠かさず1600字の連載記事を書いた経験のおかげです。完成原稿を1時間で仕上げられるようになりましたね。



パワーポイントはお絵かきの道具ではなく、「思考の道具」



——なんて速い! 速く読んだり書いたりするコツを教えていただけますか。

有賀:速く書くコツはパワーポイントを活用すること。パワーポイントの画面を「アウトライン」機能で表示させると、全スライドを一覧できます。一つの箱に構造化された文章をひたすら入力し、最後に1スライド10文くらいに区切っていけば、1時間で10枚スライドをつくれるようになってくる。

パワーポイントというと、すぐイラストを描こうとする人が多いですが、言いたいことは文字で書かないと伝わらないし、説得力がない。論理的に書いて、どうしても補う必要があるときだけイラストを描けばいい。パワーポイントはお絵かきの道具ではなく、「思考の道具」。若い方はご存じない方が多いと思いますが、パワーポイントの前身は「アウトラインプロセッサー」といって、文章のスケルトン(骨格)をまとめるものだったんですよ。こういう成り立ちも含めた使い方を知っている人は少ないので、今でも若手社員向けの研修では必ずパワーポイントの本質を教えるようにしています。

よく「コンパクトな資料にまとめてきて」という上司がいますが、逆にマネージャーは莫大な資料をスピーディーに読みこなすくらいの能力を培わないといけない。人間もCPU速度を上げる意識をもつことが重要ですね。



——若手社員の頃からパワーポイントの本質的な使い方を学べるのはいいですね! マネージャーとして成長したいと考える20代、30代前半のフライヤー読者に向けて、おすすめの本をぜひ教えてください。

有賀:やはり「書き方」を勉強することが大事ですね。今の日本の国語教育は、文章を鑑賞する国文学に偏りすぎていて、ロジカルライティングを学ぶ機会がほとんどありません。論理的な書き方を教えるなら、小学校から、読書感想文ではなく、例えば「異常気象問題について情報を集め、それをもとにあなたの意見をまとめなさい」という課題を出して、訓練を積むべきだと思います。

書き方を学ぶうえでのおすすめの本は、芦屋広太さんの『エンジニアのための文章術再入門講座』や篠田義明さんの『コミュニケーション技術 実用的文章の書き方』です。現在、東工大の非常勤講師をしていますが、学生に書き方の本を数冊読ませると、論文の質が格段に上がります。エンジニアではない人にこそ、読んでいただきたいですね。



——数冊読むだけで、書き方がガラッと変わるのですね! 私も読んでみようと思います。ありがとうございました。

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日本最初の電子計算機が、野村證券本社ビルに運び上げられている写真を見て進路を決めたという「IT業界のご意見番」有賀さん。
NRIグループの最年少取締役就任の後は、当時のCSK大川会長、ミスミ三枝社長と共に働き、現在は参謀役として複数社で顧問をされています。
・複数社で働くには自分の「知見・スキルの抽象化」が重要
・どこの会社でも社長や上司とぶつかってきた
IT業界の黎明期に立ち会った当時の様子についてもお話いただいた「ビジネスノマドジャーナル」インタビューはこちらから

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