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インタビュー
障がい者雇用はなぜ進まないのか?
会社が顧客よりも社員を大事にするべき理由
今回登場するのは、『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズ(あさ出版)を執筆されている坂本 光司さん。法政大学大学院政策創造研究科で教鞭をとられるかたわら、人を大切にする経営学会会長を務めておられます。「現場で中小企業研究をし、頑張る会社の応援をする」をモットーに、これまで訪問した企業数は全国7500社以上。同シリーズは合計67万部を突破し、中国や台湾、韓国などでも翻訳され、大きな反響を呼んでいます。本で紹介されている会社は、社員やその家族を大事にする経営方針こそが顧客からの信用を獲得し、好業績をもたらすことを立証する企業ばかり。
こうした企業に近づくために、経営者や管理職は何を心がければよいのでしょうか。

業績至上主義の経営を根本から変えてみせる



——『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズに登場するような優良企業を、坂本先生はどのように発掘されてきたのでしょうか。

坂本 光司さん(以下、坂本):もちろん新聞や雑誌の情報をもとに企業を発掘することもありますが、本の読者や講演の参加者からの推薦が全体の9割を占めています。私自身が雑誌や本、講演会などで発信に注力してきたため、私の研究分野や関心を知っている方が国内外にいらっしゃるんです。「自分の子どもや孫が勤めている会社をぜひ紹介してほしい」「取引先が素晴らしい会社です」などと教えてくださいます。

応援してくださる方々から紹介され、まだ本で取り上げていない会社は500から600社に及びます。一冊で紹介できるのは多くても8社なので、たとえ毎年出版したとしても紹介しきれないですね。ですので、特に「一生懸命経営しているのに現状ではなかなか努力が報われていない会社」から掲載するようにしています。

私が取り上げているのは、極端なことを言えばお客様よりも社員を重視している会社です。このような経営者は、異端視されることも少なくない。実際のところは、同業他社から「社員なんて二の次だ。顧客が一番だろ。そんな経営じゃつぶれるぞ。」と脅された経営者もいます。

ですが、そうした孤独な経営者たちの会社を同シリーズで取り上げてから、「やっと私たちの理念が市民権を得られるようになった」と、感謝されるようになりました。「自分がやってきたことは正しかったんだと自信がつきました。ブレずに信じた道をひた走ります」と。



日本でいちばん大切にしたい会社5
日本でいちばん大切にしたい会社5
坂本 光司
あさ出版
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——「お客様は神様です」という人が多いなかで、社員を一番に考える経営者はまだマイノリティーなのかもしれません。

坂本:『日本でいちばん大切にしたい会社』の第5巻で紹介した社会福祉法人 北海道光生舎の創業者も、そんな経営者の一人です。彼は事故で片目も両腕も失ってしまうという苛酷な運命を乗り越えてきた方です。彼が障がい者の手で運営する会社をつくろうと、融資を受けるために金融機関にあちこち頭を下げて回ったときは、「障がい者だけの企業で収益を出せるのか」と断られ続けたといいます。

ですが、捨てる神あれば拾う神ありというように、彼を応援してくれる銀行員との出会いによって、無事に融資を得られ、事業を拡大し続けるに至っています。創業者は社員やその家族の幸せを願い、苦労を重ねながらも一途に正しい経営を貫いてきました。

こうした企業を世の中に知らせることで、近年の日本に横行していた業績至上主義の経営を変えていこうという思いで、本を執筆しています。これは「経営とは何か」を根本から変える国民運動でもあると思っています。



——「社員を大事にしているかどうか」が、永続的に繁栄する企業となるための大事な指標であると気づかれた経緯についてお聞かせください。

坂本:全国の企業をめぐる中で、社員を何よりも大事にすることで、顧客や地域から支持され、繁栄している会社を見つけたことがきっかけでした。

実は私も最初は人を大切にするのが経営の目的だなんて思わなかった。学生時代まで「業績や株主、そして顧客第一」と教わってきましたから。それを引っ提げて全国行脚をし、経営の現場を見て回ったところ、実情は違っていた。人材を「業績向上のための材料」として見なし、成果を追いかけた挙句に倒産した会社が山ほどあったのです。

その一方で、各県に「社員第一を貫いて繁栄している会社」があることに気づきました。調べてみると、社員の幸せを念じて、人を幸せにしようとする会社が立ちいかなくなった例は見当たりませんでした。



企業訪問の風景
企業訪問の風景


現場から見えてきた、長く繁栄する企業のシンプルな法則



——社員第一を実践し、繁栄している企業に、なぜこれまでスポットライトがあたってこなかったのでしょうか。

坂本:こうした企業の経営者は、たいてい孤独で横のつながりが少なく、彼らの経営が世に知られる機会がなかったからです。そこで、私にできるのは、彼らの横のつながりをつくり、彼らの経営活動を一般化することだと思いました。経営の真実は現場にあります。学者の本来の役割は、現場に足繁く通うことで、現場から紡ぎ出された「長く繁栄する企業の法則」を理論化・普遍化することです。

そこで普遍化して導き出したのが、同シリーズに書いた「五人に対する使命と責任を果たすための活動」という定義です。ここでの五人とは①社員とその家族、②社外社員(下請け・協力会社の社員)とその家族、③現在顧客と未来顧客、④地域住民、とりわけ障がい者や高齢者、⑤株主・出資者・関係機関を指します。今ではこれをより具体的に実践している企業を表彰する「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」という形に結実しています。

そもそも、社員を大事にする企業が生き残るのは、自然の摂理なんですよ。



——自然の摂理ですか。

坂本:そう。自分が所属する組織に不平不満や不信感を持っている社員が、組織のために一生懸命になるとは考えられない。また、上司に不満を抱いている社員なら、彼らの出世を助けるような手柄をたてるはずもなく、むしろ上司の足を引っ張るのが当たり前。組織の業績や上司の評価を高める行動をとりませんよね。

一方で、自分のことを大事にしてくれる組織や上司のためなら、全身全霊で良い仕事をしよう、貢献しようとします。それがシンプルな人間の原則なのです。



——株主への利益還元が求められる上場企業の場合、社員第一の原則を取り入れるのはハードルが高いと思うのですが、実現するには何がポイントになるのでしょうか。

坂本:この原則は上場しているかどうかに関わらず、実現できると考えています。その可否を分けるのは、経営者が命がけで経営をしているかどうかです。

短期の業績だけを追うならば、株主のほうを向いて経営するほうがいいでしょう。ですが永続的に繁栄する企業をめざすなら、その成果が出るまで、利益が横ばいになる時期を乗り越えなくてはならない。だから経営者には、中長期的な視点に立つことが大事だと、株主にわかりやすく説明することが求められます。「社員を大事にすればするほど業績が上がることを証明するから、あと1期、任期を務めさせてほしい。もしそれが実現できなければ私が辞める」と言う覚悟があるかどうか。実際には、そんな風に身を挺して改革するトップはなかなかいませんが。

すると社員も「私たちを守るためにここまでしているのか」と心を動かされ、仕事へのモチベーションが上がり、付加価値の高い仕事をし、良い業績につながっていく。だから上場していようとしまいと、経営者の強い覚悟があれば、実現できるわけです。



坂本先生の講演風景
坂本先生の講演風景


管理職主導で会社を変えていくには?



——本の中では、経営者が率先して「社員第一」を実践していました。経営者がこうした動きに乗り気ではないけれども、管理職や現場のリーダークラスが主導で、会社に変化を起こした事例はあるのでしょうか。

坂本:中間管理職がいきなり会社全体を変えることは難しいですが、部長、課長が自分の部署、課を変えていくことで、会社全体に良い影響が波及していくという事例はあります。

ある大手企業の管理職が「せめて、うちの課の課員に対しては、他のどの課に所属するよりも幸せだと思ってもらえるようなスタンスで、『人を大事にするマネジメント』を実践しようと思います」と決意表明してくれました。

彼はまず、課員一人一人に興味を持ち、課員の誕生日にはプレゼントを贈るようにしたそうです。そして社内の備品でチョークを注文したいときは『日本でいちばん大切にしたい会社』に掲載されたチョークメーカーの日本理化学工業にお願いしよう、自分たちの名刺の印刷一つとっても、同シリーズで紹介された優良企業である丸吉日新堂印刷に頼もうなどと、小さな変化を積み上げていかれました。優良企業がつくった商品・製品を使うことで課員の中にも「自分たちも社会に貢献しよう」という思いが芽生えたのでしょう。管理職が課員のことを大事にしているのが伝わると、課員の仕事への意欲も高まり、課内全体の雰囲気も明るくなっていきました。その結果、「あの部署に異動したい」という声が他部署から上がり始めたといいます。管理職の方々が「いつか会社全体を変えてみせますから」と力強くおっしゃっていたのが印象的でしたね。

こうした動きが広がればボトムアップで会社全体に変化を起こすこともできます。

管理職向けの講演で、私はつねづね「管理職の使命は社員を管理することではない、フェロー(仲間)をリードすることだ」と話しています。社員を支援して、めざす方向へと引っ張っていくことです。最近では顧客のことにかかりきりになるプレイングマネージャーが多いですが、管理職の本来の仕事は、部員または課員が気持ちよく、価値ある仕事に取り組める環境をつくること。例えば給与支給時に、課員一人一人に労をねぎらうメッセージを渡すとか、誕生日にケーキや花束といったささやかなプレゼントを渡すとかなら、すぐにでもできますよね。大企業の部長なら部員の、課長なら課員の幸せにつながることをすればいい。

管理職を評価するものさしに、課内の離職率の低さや課員のモチベーションの高さといった項目を盛り込むことが本来必要でしょうね。



——現場がトップの考えを変えた事例もあるのでしょうか。

坂本:ある島根の会社では、私の講演を聞きにきてくださった管理職が、障がい者雇用に関するトップの考え方を変えました。その会社では、これまで障がい者の法定雇用率を満たしておらず、罰金を払っていました。ですが本来なら、罰金や寄付などのお金で解決するのではなく、障がい者が働ける場、つまり雇用を生むことが大事です。生きがいというのは、人から「ありがとう」と言われることで生まれるもの。障がい者が働きたいと考えるのは、「ありがとう」と言わる喜びを得たいからです。

その翌日、会社の報告会で管理職は、講演内容を伝えるとともに、「障がい者を雇用したほうがいい」と経営者に進言したそうです。その言葉には非常に説得力があったのでしょう。経営者はその後すぐ、車いすでも利用できるトイレやエレベーターなど、バリアフリーの工場をつくったそうです。その時点では車いすの社員はいなかったにもかかわらずです。「今後は障がい者も雇っていく」という確固たる意志の現れだと言えます。

また、ある九州の会社では、障がいを持つインターン生を受け入れたものの、社長は「正社員にするのは難しい」と考えていたそうです。ところが課員たちがそろって社長のもとにやってきて、頭を下げ、こう言ったのです。「あんなに一生懸命働いているから、インターンシップではなく社員にしてあげてください。私たちが面倒を見るから大丈夫」と。その後、インターン生は正社員となって熱心に働いているそうです。管理職が声を上げてトップの意識を変えていくような後押しを今後も続けていきたいですね。



障がい者雇用は不純な動機では定着しない



——障がい者や高齢者など、様々な状況にある人材が活躍できる会社にするためには何が必要でしょうか。

坂本:良い会社は老若男女問わず一人一人の強みや個性をしっかり見て、ダイバーシティを実践しています。よく「高齢者や障がい者は仕事の生産性が低い」という声を聞きますが、それは逃げでしかない。業務の工程を細分化していけば、彼らの得意不得意や特性に応じて、業務を任せることができます。

そもそも高齢者は、これまでに一生懸命働いて今の私たちの礎を築いてきてくれたわけですよね。その恩返しをするのは当然でしょう。障がい者に関しても、一定の確率で障がいを持って生まれる方はいますし、ある意味、困難さを引き受けてくれているととらえることもできます。彼らに手を差し伸べ、彼らが働けるように工夫を凝らすことは経営者にとっても現場の社員にとっても不可欠なのです。



——障がい者雇用のモデル企業ですら、「精神障がい者を持続的に雇用することが難しく、あまり積極的になれなくなった」という声を耳にします。障がい者雇用の取り組みが頓挫してしまわないように、経営者や管理職はどうすればいいのでしょうか。

坂本:「すべての人を大切にする、幸せにする」という理念や、お互い様という社風、社会的責任がその企業に浸透しているかどうかですね。おそらく周囲が配慮すれば、やめずに済んだ事例も多いのではと思います。

トップや管理職が、「障がい者を雇用し、彼らに寄り添うことが社会的責任」だと表明して、場当たり的でなく行動で示すこと。「会社のイメージアップにつながる」「取り組んだほうが得する」といった不純な動機では継続できません。

障がい者に本気で寄り添えば、どういう勤務体系や職場環境なら彼らが働きやすくなるか、対策が思いつくはずです。例えば精神障がい者を受け入れる場合には、とりわけ急に8時間労働でなく、2、3時間の勤務から仕事に慣れていってもらえばよいのです。こうして、短時間勤務や在宅勤務を認める、午前中だけ働くなどと、柔軟な働き方を認めていけば、障がい者はもちろん、育児や介護など多様な状況に置かれた社員みんなが働きやすくなり、その会社で長く貢献しようとしますよね。

また企業側だけでなく、企業を取り巻く金融機関や行政も、良い企業を判断するものさしを変えていくべきでしょう。銀行の融資の基準も、例えば法定雇用率以上の割合で障がい者を雇用しているかどうかや、社員の有給消化率が○%以上であるか、60歳以上で仕事を希望している社員を雇っているかどうかといった点を考慮に入れるべきです。

また、行政も法定雇用率を守っていない企業には助成金を減らすなど税金の使い道を再考する必要があるんじゃないでしょうか。

先日、障がいを持つお子さんを3人育てている鹿児島在住の主婦の方から、こんな手紙が届いたんです。「子どもたちの将来を考えると心配で眠れない日が続いていました。でも先生の本を読んで、彼らもちゃんと就職できるんだと思え、希望が湧いてきました。だから今後も本を書き続けてください」と。この方にお会いしたことはありませんが、彼女にとっての希望を生み出せるよう、今後も社員を大事にする会社を取材し、本にしていきたいと思っています。同時に、高齢者や障がい者のように弱い立場になりがちな人が「生まれてよかった」と思えるような会社が世の中からもっと支持される社会づくりに貢献していきたいですね。



——坂本先生の使命感が強く伝わってきました。今後もこのシリーズを楽しみにしています。貴重なお話をありがとうございました。

日本でいちばん大切にしたい会社5
日本でいちばん大切にしたい会社5
坂本 光司
あさ出版
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