interviews
インタビュー
下北沢の個性派書店「本屋B&B」の内沼さんに聞く
ブックコーディネーター直伝、アイデアを生み出す「本とのつき合い方」
今回お話をお聴きするのは、本と読者の新しい出合い方をつくるブックコーディネーターでnumabooks代表の内沼晋太郎さん。東京・下北沢にある個性派書店「本屋B&B 」など、あらゆる空間とメディアのプロデュース、コンサルティング、企画、編集、制作を行っています。『本の逆襲』(朝日出版社)、『本の未来をつくる仕事 / 仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)では、本の新しい可能性を提案されました。
2016年秋オープン予定の青森県八戸市直営の本のセレクトショップ「八戸ブックセンター」のアドバイザーを務める傍ら、福岡・天神に期間限定の新刊書店「Rethink Books ~本とビールと焼酎と~ with ploom TECH」をオープンさせるなど、本と人の出合いの場を幅広くプロデュースしている内沼さん。
ビジネスパーソンの本とのつき合い方や、内沼さんの新たな試みについてお聴きしました。

みんなと同じビジネス書を追いかけるだけでは、差別化できない



——ビジネスパーソンの中には、どの本を読めばいいかわからない、時間がなくて本が読めない、という方がたくさんおられます。スキマ時間がスマートフォンの利用に占められるなかで、ビジネスパーソンはどのように本とつき合えばよいのでしょうか。

内沼 晋太郎さん(以下、内沼):ビジネスパーソンと呼ばれる人は、本とのつき合い方を大きく2種類に分けて考えるといいのではないか、と思いました。

1つ目は、ベーシックな知識をスマートに学ぶための道具として。例えば、戦略、マーケティングといった仕事のスキルを扱った本や、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどのように、話題になりやすい経営者の考えが書かれた本などです。これはまさにこの「フライヤー」のような要約サービスを活用して、スピーディーに身につけられますよね。また並行して、世界経済や政治といった日々移り変わる内容を最低限おさえておくために、通勤時間などのスキマ時間を使ってニュースサイトやニュースキュレーションメディアから情報を入手するのも有効でしょう。

ですがそれだけだと、みんなが知っている知識だけを得て、同じような思考しかできないビジネスパーソンになってしまいますよね。そこで2つ目が、本屋に足を運んで、ビジネス書の世界からはできるだけ遠い、なるべく他の人が知らないような世界にふれるための入口として、本と付き合うことです。それら2種類を、並行するのがよいのではないかと思います。

そもそも、前人未到の偉業を成し遂げたり、第一線で活躍したりしている人で、誰もが読んでいるようなビジネス書だけしか読んでいない人は、たぶんいないでしょう。「未来を見通すためにSFを読むべき」とか「過去に学ぶために世界史を知っておいたほうがいい」というような話はよく聞きますね。しかし、それらもどちらかといえば、ベーシックな知識と呼ぶべきかと思います。できるだけ「人とは違う軸」を持っているほうが、ビジネスパーソンとしての差別化につながりますね。そのために本はとても手っ取り早く有効な手段であり、本屋はそれを見つけるのに最も適した場所です。もちろん、自分で選ぶのが難しい場合は、ガイド役を決めてもいいでしょう。ビジネスパーソンでいうと、例えば書評サイトHONZを主宰されている元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞さんや、ライフネット生命保険の出口治明さんは、相当幅広いジャンルの本をお勧めされていますね。もちろん彼らは広く知られているので、他人と被ることもあるかと思いますが、とはいえ「あの人の薦める本は全部読もう」と決めて、それを完璧に実践できる人は少ないはずです。徹底したベンチマークもまた、ある種の差別化につながると思います。



——内沼さんご自身も「人とは違う軸」をもとに、独自のポジションを築かれていると感じます。人と違うことをしようと常日頃から意識されていたのですか。

内沼:僕の場合は、違うことをやろうと最初から思っていたのではなく、結果的に人と違う道を選ぶことが多かったという感じですね。新卒で入った会社をすぐにやめてフリーになってしまったので、生き残らなきゃいけないという思いが人一倍強かった。だから必然的に「うまくやるにはどうしたらいいか」と考え続けていたんです。そこで、みんなと同じ選択肢をとってもうまくいく可能性が低い、という当たり前のことに気づいた。その結果、人と違うことをしてきてしまったのだと思います。

考えてみれば、2012年に立ち上げたB&Bもそうかもしれません。自分のノスタルジーや理想を追求した本屋を開いても、それはすでに世の中に存在するわけだし、それを踏襲して正面から戦っても苦しいことは業界を見ていればわかるわけですよね。だから多少面倒なことがあっても、自分たちで選んで注文した本だけで品揃えしたり、ビールを出したり家具を売ったり、イベントを毎日やったりという、他の本屋があまりやっていないことに手を出した。それは「数年後も生き残る本屋とは何か」を考え抜いた結果なんです。



下北沢にある本屋B&B
下北沢にある本屋B&B


内沼さんの「書棚づくりのエッセンス」とは?



——『本の逆襲』でも少しふれられていましたが、内沼さんの選書や書棚づくりのエッセンスが知りたいです。

本の逆襲 (ideaink 〈アイデアインク〉)
本の逆襲 (ideaink 〈アイデアインク〉)
内沼 晋太郎 著
朝日出版社
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内沼:特別なことをしてきたわけではありません。できるだけ本のある場所でたくさん働いて、休みの日もできるだけ色んな本屋に出向いて、色んな本にふれてきただけなんです。いまも毎日、他店の本棚を見ては「この本はあの本の隣に置いたら面白いんじゃないか」「この本はあの店のこのコーナーに置くと売れるんじゃないか」」などと考えています。これはぼくに限らず、多くの書店員がやっていることだと思います。

僕に少し違うことがあるとすれば、洋服屋や飲食店などの小さな本売り場や、企業のオフィスや集合住宅の共用部分などのライブラリーをつくるという仕事に運よく出会い、長く続けていることです。外部から依頼された場合の選書では、その店や企業が伝えたいと思っているブランドやメッセージを汲み取り、本のセレクトに反映させなければいけません。本屋であればその本が売れれば成功ですが、洋服屋に本のコーナーを設ける場合は、その本に興味を持ってもらったことがきっかけで隣にあるTシャツが売れればまず成功、両方売れれば大成功、という考え方になることが多い。そして書棚に置ける冊数も限られているので、一冊として無駄にできない。「このお店に来る人が手に取りたくなるような本は何だろうか」と思案して一冊ずつ吟味します。ある本に注目してもらうために、時にはその隣に、あえて誰も手に取らなさそうな本を置くということもします。要は、「なぜここに本棚が求められているのか」、「この一冊が何のためにあるのか」を考えるのです。



——「この一冊が何のためにあるのか」ですか。

内沼:依頼を受けて本棚をつくる場合、個々の書棚に対してどんな選書、陳列をすべきなのかについて答えを持っているのは、書棚をつくると決めて、僕に依頼をしてくださった本人であることが多いんです。

例えば、ある会社が事務所を移転するにあたり、受付付近に大きな本棚を設置するので、そこに置く本をセレクトしてほしいという依頼があったとします。まず僕が確認するのは、なぜそこに本があるべきなのかということです。たとえ最初は「何となくここに本があると良さそうだから」と、漠然とした回答をされたとしても、しつこく話を聞いていくうちに「たとえばこの本があったりするといい」という具体的な書名が数冊、出て来たりします。そこに大きなヒントがある。その数冊をもとに、数百冊とか数千冊とかに膨らませていく方向性を見出していくのが、こちらの仕事です。

たとえば「来社された人に会社のことを知ってもらうための本棚」と言われたとします。その場合、知ってもらいたいのは経営者の哲学なのか、自社が手がけるサービスの中身なのか、または自社の歴史なのか、会社としてのミッションやビジョンなのか。注力すべきポイントを見極めながら、それぞれの中身を訪ねていく。これを重ねるうちに、どんな本をセレクトするのがよいか、だんだんわかってきます。

そこから、コンセプトマップのようなものをつくります。互いに共有ができたら、それに沿って一冊ずつ選んでリストに本を加えていき、棚に入る1.5倍とか2倍とかまで膨らませます。そして全体のバランスを見て、今度は一冊ずつ削っていくような作業を行う。実際に陳列してみて、そこからさらに調整を加えていく。その会社にとって、そこにある意味がある本だけに絞っていくような作業なんです。



d-laboたまプラーザの書棚
d-laboたまプラーザの書棚


スポーツブランドのデサントによる「DESCENTE SHOP TOKYO BOOKS」
スポーツブランドのデサントによる「DESCENTE SHOP TOKYO BOOKS」


八戸市での新たな挑戦、「本の書き手」を支えるまちをつくる



——内沼さんは、八戸市直営の本のセレクトショップ「八戸ブックセンター」のアドバイザーもされています。どんな背景があったのでしょうか。

内沼:八戸市の市長が「本によって自分が育てられた」という強い自覚を持っておられたことが大きいのではないかと思います。「本のまち八戸」という構想を掲げ、その一環として「八戸ブックセンター」をつくることが計画されていました。ただ、まったく前例のないことをやろうとしているので、実現するには、地元の書店さんや図書館、教育機関はもちろん、市内で本に関わる活動をしている人など色々な人の立場に寄り添いながら、それぞれの力を借りることが必要になります。そこで、それを束ねるコンセプトを考え、方向性をつくっていくアドバイザーになってくれないかと依頼をいただきました。ほぼ丸2年ほど携わってきて、やっと2016年秋にオープンを迎える予定です。

いくつかの考え方にわけて、棚づくりをしています。たとえば、ふだん本屋や図書館に行く習慣のない人に向けたコーナーをつくる場合、「文芸」「人文」「実用」といった分類は、その人たちからすれば、あまり自分に関係があるとは思えないでしょう。そういう場所では「人生」「仕事」「愛」といったテーマで分類をします。そうすることで、少なくとも「自分にも関係がある」と思ってもらえる確率は上がるはずです。もちろんその一方で、八戸にある本屋や図書館に満足していない本好きの人にとっては、欲しい本がきちんと揃うようなコーナーもつくります。他にも、本をきっかけにしたコミュニケーションを生み出していくために、読書会や本の面白さを伝える展示、本にまつわる交流会などを行っていく予定です。

「本を読む人を増やす」「本を書く人を増やす」「本でまちを盛り上げる」の3つをミッションとして掲げているんです。特に「書く人を増やす」というのは、民間の本屋には取り組みづらいことですよね。



——たしかにそういう取り組みをされている本屋って聞いたことがないですね! どういった内容なのでしょうか。

内沼:なぜ書き手を増やす必要があるのかというと、そもそも、書く人がいてこそ、読む人がいるんですよね。絵でも映画でも音楽でも、素晴らしい作品を生み出す人が多ければ、それを受け取る側の日々は豊かです。時間はかかると思いますが、いつしか全国に知れ渡るような八戸出身の書き手が多く生まれれば、八戸に暮らしている人も自然と「本のまち」であることを意識します。また、まったく全国区にならなくとも、よく知る友人が自伝を書いたり、住んでいる近所が舞台の小説が読めたりすれば、少しは気になりますよね。あるいは本として完成しなくても、とりあえず少しでも書いてみることで、ふだん読んでいるものの読み方が変わるようなこともあると思います。

八戸ブックセンターには、本を書いている人、書こうとしている人専用のブースを設けます。また、本を出版したいという人が、自費出版したいときは何が必要なのか、商業出版をしたいなら出版社にどうやって持ち込めばいいのか、電子書籍を出すならどうなのかという疑問に対して、手がかりを示すようなサービスも順次導入していく予定です。



——書き手を増やすという、他の人が考えつかない着想を得られたのはなぜでしょうか。

内沼:難しいですね……。当たり前のことですが、目の前の「本のまち」をつくるという課題に対して、たくさん考えたからでしょうか。これまでもずっと本の仕事をしてきたのでなおさら、考えている時間が長いのだと思います。

ちょっと例に出すのもおこがましいのですが、最近、映画史上最速で興行収入10億ドルを突破したと話題になった「ズートピア」というディズニー映画がありますよね。この映画の核となっているアイデアは、よく知られている動物の習性や言い伝えを、人種差別における偏見に見立てているところです。例えば、「狐はずる賢い」という性質は世界中のあらゆる物語に出てきますが、「ズートピア」の世界ではそれが「おまえは狐だからずるいんだ」という偏見として広まっており、狐が葛藤するさまが描かれている。つまり、ぼくたちが暮らす現実世界における差別の問題が、動物たちの暮らす物語世界にそっくりそのまま投影されている。まずこの構造のアイデアが、ぼくは単純にすごいなと思いました。

劇場パンフレットに載っているプロダクションノートを読むと、このように書いてあるんです。「『ズートピア』のクリエイターたちは、動物ばかりの世界を創造するためのリサーチとして、野生動物の世界へと入っていくことにした。彼らはアフリカ、ディズニーのアニマルキングダム、サンディエゴのワイルド・アニマル・パーク、ロサンゼルス自然史博物館などでおよそ18ヵ月を費やし、動物を徹底的にリサーチしたのだ」「このリサーチによりクリエイターたちは、固定観念や偏見を扱ったストーリーにたどり着いた」。この素晴らしいアイデアは、動物たちの世界を描こうとして、長い長いリサーチを経た結果だったわけです。世界の誰より一番広いターゲットを相手にし続けて、人種差別や偏見に対する問題意識をずっと持っていたディズニーのチームだからこそ、動物の習性を観察する中で、その生態を活かした世界観をつくるというアイデアにたどり着いたのでしょう。

ディズニーにはとてもかないませんが、もし僕が、本と人との新しい接点をつくる道筋を他の人より多く考えつくことができているとしたら、それは「本」というテーマに人よりも長く真剣に向き合っているからだと思います。もし真面目に向き合っていなければ、八戸ブックセンターの件にしても、本で地方活性化をしている自治体の先例を真似するだけで終わるかもしれない。そうすると、その「書く人を増やす」という切り口は出てこなかっただろうと思います。

また、たぶん「本」についてだけ考えていてもダメなのだと思います。最初の話にも通じますが、引き出しを増やすには、自分の専門領域以外にもアンテナを張らないといけない。僕は自分が体験して「すごい」とか「おしい」とか思ったお店やサービス、作品などがあれば、なぜ「すごい」「おしい」と思ったのかを考え、誰がどういうプロセスでつくったのかを自分なりにトレースする癖があります。その過程で、その業界についてわからないことは、できるだけ調べる。圧倒的な「すごい」ものと、ちょっとしたことで「おしい」と感じられてしまうものの両方にできるだけ数多くふれることが、アイデアを生み出す下地になっているのかなと思います。



——本と人との出合いの場を生み出していくという内沼さんの想いが伝わってきました。貴重なお話をありがとうございました。


文責:

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