自分が成すべきことに気づくのも、それを決めるのも一瞬である。後に始皇帝となる政(せい)は王として波乱のスタートを切った。逃れた敵国では周囲から迫害され、秦に戻ろうとするも、己の妄想の亡霊に引き戻されるそうになる。しかし、政の王としての資質を見抜き、全力で秦に戻そうとする闇商の紫夏(しか)の愛にふれ、政は迷いを断ち切り、力強く宣言した。「おれは秦へ帰り王になる」。まさしく一瞬の決意であり、この源は、自分が決めた「志」である。
何かを成し遂げたこと、人から感謝されたこと、裏切られたこと。こうしたさまざまな経験を積み重ねる中で、志は生まれ、育まれていく。志が明確になると、迷いなく前に進めるようになり、ピンチを乗り越えるための力が湧いてくる。政も「王になる」という志を貫いているからこそ、極限の状況でも仲間を鼓舞し続けることができている。まずは、一歩を踏み出し、行動し続けよう。そうすれば志が大きい炎になっていくはずだ。
志は、何かを成し遂げようという思い、willである。そのwillを果たすには、能力(can)と、周囲の人や社会が望む「しなければならないこと」(must)が欠かせない。
このmustが実は重要だ。周囲からの期待に応えようとする中で、最終的にwillにつながっていき、それが「使命」となる。
著者がYahoo!アカデミアの学長になると決めたのも、ヤフー社長の宮坂学氏から請われたことがきっかけだった。「それ(Yahoo!アカデミアの責任者)ができるのはあなたしかいない」。この言葉に著者は使命を見出した。今では学長としての仕事が、「自立したリーダーを育てていきたい」という、著者自身の志につながっている。
志と表裏一体になっているのが、実現したい世界、「ビジョン」である。政には、自らの手で戦国時代を終わらせ、秦による中華統一を果たすことで「人が人を殺さなくてもすむ世界の実現」というビジョンがあった。戦国時代が500年に及んでいた当時においては、狂気じみているといえよう。しかし、政の意志が揺らぐことは決してなかった。
ビジョンを実現するために、私たちは志を持つ。ビジョンというのは、その実現に向けて動く中で鮮明になっていく。ビジョンは簡単には実現できないくらい大きいものがいい。著者は、「あらゆる人が、目を輝かせて仕事を楽しんでいる世界」というビジョンを実現させるべく、自分の道を切り開いている。
「迷ったらワイルドなほうを選べ」。これは宮坂学氏が社長就任時に語った言葉であり、著者の行動基準にもなっている。これを習慣化すると、ハイリスク・ハイリターンの選択肢から、すぐには逃げない自分へと変わっていける。
著者はかつて、マイルドな選択肢を選ぶ人間だった。
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