2010年、著者は、米国で最も影響力があるといわれる労働組合である、サービス従業員国際労働組合(SEIU)の会長職から退いた。その大きな理由は、組合の未来も、労働者たちの向かっていくべき未来も、自分自身で描けなくなってきたと感じたからだ。
まじめに働けば、安定した良き人生を手に入れることができるという「アメリカン・ドリーム」は、今や崩れつつある。米国では、雇用創出をともなわない景気回復が指摘されており、富はより少数の人間に集中する傾向にある。中流階級はいくつもの仕事をかけもちしなければ家計が成り立たなくなり、子どもたちも多額の奨学金という借金を背負って大学を出る。
「労働組合は、21世紀の経済を形成する上で、もはや限られた役割しか果たさない」と、長年にわたり、多くの労働者の声を代弁してきた著者は感じた。労働組合がなかなか新しい考え方を受け入れないことだけが、その原因ではない。オートメーション化による人員削減や正規雇用者数の減少など、労働者を取り巻く環境が様変わりし、団体交渉の意義が薄れてきているのだ。
次世代のビジョンとなる「アメリカン・ドリーム」とは何なのか。また、経済的な二極化が進む米国において、すべての人が「アメリカン・ドリーム」を持てるようにするには、どのように社会は築かれてゆくべきなのか。著者は、その答えを模索するべく、さまざまな人を訪ね歩くことにした。
インテル前会長兼CEOのアンディ・グローブは、2010年に、「米国は、長期的な雇用創出が計画されなければ、少数の高付加価値の仕事をこなす少人数の高額所得者と、失業者の大集団で構成される、不安定な社会となる。自由市場がすべての経済システムで最良だという考えには限界がある」という内容をビジネス・ウィーク誌に寄稿した。
1959年~1973年は、貧困生活者の割合が、23%から11%に減少し、低所得者であっても、中流階級へと社会的地位を向上できる期待感があった。しかし、2014年には、三分の二近くの家庭の収入は2002年より下回り、上位10%の所得者が米国総所得の46%を占める状態だ。
政治家や評論家は、株式市場や企業の収支から判断して、経済は基本的に健全であると主張する。だが、この主張に、国民は納得していない。著者が知る多くの人達が将来を心配しているが、無理もない。