教養として知っておきたい

「民族」で読み解く世界史

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「民族」で読み解く世界史
出版社
日本実業出版社

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出版日
2018年02月01日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.5
革新性
3.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

ある「民族」が歴史の中でつくりあげた社会や環境、文化、伝統は、その後を生きる「民族」の“遺伝子”にかならず組みこまれている――そう著者は語る。脈々と受け継がれた民族の「血の記憶」に抗うことは、非常に難しいからだ。

たとえば私たちは街を歩いていて外国人とすれ違ったとき、日本人かどうかを瞬時に判断できる。容貌が似ている中国人や韓国人を見ても、「日本人ではない」と判別できることが多いだろう。著者によると、多くの人がそうした「雰囲気の差」を見分けられるのは、それぞれのもっている「血の記憶」が民族特有の雰囲気を醸し出すからにほかならない。

本書の目的は、各民族の特徴を歴史的事実から解説し、それぞれがもつ「雰囲気」の源をつきとめ、その本当の姿を暴き出すことだ。そこには容易には触れがたい「歴史の闇」も含まれている。しかしその闇が深ければ深いほど、「血の記憶」も大きく左右される。だからこそ著者は「歴史の闇」を避けず、正面から切りこむ。

いま世界の課題となっている移民・難民問題、民族対立、民族紛争、人種差別、ナショナリズム――これらはすべて民族という「見えざる壁」が招いた問題ということが、本書を読めば理解されるだろう。現代を生きる私たちにとって、はたして民族とは何なのか。世界を理解するうえで、新しいフレームワークをもたらしてくれる一冊だ。

ライター画像
池田明季哉

著者

宇山 卓栄 (うやま たくえい)
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。大手予備校にて世界史の講師として人気を博す。現在は著作家として活動。テレビ、ラジオ、 雑誌など各メディアで時事問題を歴史の視点から解説するわかりやすさには定評がある。『「三国志」からリーダーの生き方を学ぶ』『“しくじり”から学ぶ世界史』(以上、三笠書房〈知的生きかた文庫〉)、『世界一おもしろい世界史の授業』『経済を読み解くための宗教史』(以上、KADOKAWA)、『イラスト大図解 世界史』『日本の今の問題は、すでに{世界史}が解決している。』(以上、学研プラス)、『世界史で学べ! 間違いだらけの民主主義』(かんき出版)、『世界史は99%、経済でつくられる』(扶桑社)など、著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    遺伝学では、人種は現在4種類に分類されている。しかし4種類のDNA染色体が物理的に区別できるわけではない。遺伝的特性は混在しており、ある人種を決定づける特定のDNAの型はない。
  • 要点
    2
    「○○人」という言葉を使うとき、生物学的なカテゴリーである「人種」の他に、言語・文化・慣習などの社会的なカテゴリーである「民族」が重要になっている。
  • 要点
    3
    「民族」を語るうえで血統・血脈は切り離せない要素だ。民族の辿ってきた歴史が、現代の人種差別、移民・難民問題まで繋がっている。

要約

「民族」はこうして始まった

民族とは何か
PeterSnow/iStock/Thinkstock

人類は一般的に白人、黒人、黄人の3種に区分され、このうち日本人は黄人に分類される。しかしこの分類において、インド人やアラブ人はどこに該当するのか判断できるだろうか。彼らのなかには、肌の白い人も黒い人もいる。

この3種類の分け方は、肌の色のみを見て分類したものにすぎず、学術的な定義もない。そのためインド人やアラブ人が3つのうちどれにあてはまるのかという問題には答えられないのだ。

遺伝学では、人種は現在4種類に分類されている。コーカソイド、モンゴロイド、ネグロイド、そしてオーストラロイドだ。ただしこれら4種類のDNA染色体が物理的に区別できるわけではない。どんなに純粋な日本人にも、コーカソイドやネグロイドの遺伝的特性が混在しており、ある人種を決定づける特定のDNAの型は存在しない。

私たちは普段、アメリカ人、日本人、中国人というように、「○○人」という言葉をよく使う。この「○○人」という言葉は、生物学的なカテゴリーである「人種」、言語・文化・慣習など社会的なカテゴリーである「民族」、国家が定める法や制度を共有する「国民」という、異なる視点の分類系を含んでいる。同じ「○○人」という言い方でも、日本人が民族的同一性を重視する一方で、アメリカ人は国民的統一性を前提とするなど、その集団が形成された歴史的背景によって、ニュアンスや条件は大きく異なる。

「民族」を語るうえでは血統・血脈が切り離せない要素だ。そしてそのことを私たちは感覚的に認識しているからこそ、そこにはどうしても禁忌のイメージがつきまとうのである。

語族とは何か

民族のルーツを辿るためには、使用する言語とその形成過程を追うことが欠かせない。「アルタイ語族」や「インド・ヨーロッパ語族」などに使われる「語族」という表記は、同一の祖先から分かれ出たと考えられる言語グループを意味する。

民族の分類を考えるうえで、同じような言語を使う複数の民族が、共通の祖先から派生したものであると捉える。そうすれば血縁関係や民族の血統について、遡及的に想定できる。そういう意味で言語は民族の「歴史的血統書」といえるだろう。

【必読ポイント!】東アジアと日本

「中国人」の正体
kynny/iStock/Thinkstock

古代中国は黄河流域から発祥し、黄河文明を形成した。この文明が発展し、紀元前16世紀に殷王朝が成立する。殷王朝は現在確認されている最古の王朝であり、この時代に漢字が作られた。また南方の長江流域は黄河流域と異なる社会・文化を形成していたが、漢字が普及することによって両流域の共通言語基盤ができあがり、中国というものの原型が誕生する。

中国とは漢字を使う諸民族とその領域・社会・文明を指すものであり、中国人は多民族の集合・混合といえる。それぞれの民族の顔つき、風習、気質は異なっていても、漢字という共通の言語基盤を持つ集合体なのだ。

中国は人間が社会を形成するとき、言語によって形成され、発展した代表的な例である。このことからも、人間社会と言語がいかに密接なのかが理解できるだろう。

日本人は朝鮮人の血を受け継いでいるのか

4世紀から7世紀にかけて、朝鮮の渡来人が大量に日本へやってきた。このとき人口が数百万人増加したとされている。渡来人は大和政権の中枢を担ったが、公職者や技術者として迎えられたのはごく一部であり、多くは奴隷として強制的に連行されたものといわれる。

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要約公開日 2018.08.26
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