道ひらく、海わたる

大谷翔平の素顔
未読
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大谷翔平の素顔
未読
道ひらく、海わたる
出版社
出版日
2018年03月16日
評点
総合
4.0
明瞭性
5.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

プロのスポーツ選手はいかにして一流たり得るのか――そうした好奇心を余すところなく満たしてくれるのが本書である。

正直に言えば、要約者は野球の試合をほとんど観ない。だから「大谷翔平」という名前を知っていた程度だった。ただ、厳しいと言われるスポーツの世界。そこに身を置いている人物なら、おそらく一般人にも学びになることがあるだろうと期待して手に取った一冊だった。だが本書は、そんなちっぽけな期待を満たすだけでは済まなかった。読み始めるやいなや、大谷選手のブレない意志の強さとあくなき向上心、野球を楽しいと感じる純粋さにどうしようもなく惹きつけられた。それと同時に、自分の中からもたぎるものが湧き起こってくる感覚を得た。

何かを心から楽しめるというのは、自分を信じているからこそかもしれない。成功しようが失敗しようが、結果はあまり重要ではないのだ。なぜなら、すべては自分が追い求めるゴールにつながっているから。必ず自分はそこへたどり着くという確信にも似た自信、すなわち自分を信じる力があるからこそ、彼は野球を純粋に楽しむことができるのだろう。対して自分はどうだろうか、とつい考えてしまう。

一流はいかにして一流たり得るのか。努力の質量や才能といったものの影響は大きいだろうが、もっと根源的な違いを大谷翔平というその人に見た。本書は巷の自己啓発セミナーがかすんでしまうほど濃密な内容と言っても過言ではない。野球への興味の有無は関係ない。自分のために今すぐ手に取るべき一冊だ。

ライター画像
金井美穂

著者

佐々木 亨 (ささき とおる)
1974年岩手県生まれ。スポーツライター。雑誌編集者を経て独立。著書に『あきらめない街、石巻 その力に俺たちはなる』(ベースボール・マガジン社)、共著に『横浜vs.PL学園 松坂大輔と戦った男たちは今』(朝日文庫)、『甲子園 歴史を変えた9試合』(小学館)、『甲子園 激闘の記憶』(ベースボール・マガジン社)、『王者の魂』(日刊スポーツ出版社)などがある。主に野球をフィールドに活動するなかで、大谷翔平選手の取材を花巻東高校時代の15歳から続ける。

本書の要点

  • 要点
    1
    大谷にとって、成功するかどうかは重要ではない。結果よりも、誰もやったことのないことにチャレンジできることに喜びを覚える。
  • 要点
    2
    大谷は、やりたいことはやればいいし、やりたくなければ自己責任でやめればいいという両親の方針のもと、いつも自分で決断を下していた。
  • 要点
    3
    先入観は可能を不可能にする。自分にできるイメージを持てなければ実現はできない。
  • 要点
    4
    河川敷の石も見る角度によって、あるいは器に入れることで石に価値が生まれることがある。それは選手の指導にも当てはまる。

要約

メジャーへの挑戦

エンゼルスへの入団
littlehenrabi/iStock/Thinkstock

日本時間の2017年11月29日、大谷翔平選手(以下、大谷)はロサンゼルスに向けて飛び立った。アメリカのメジャー球団との入団交渉に臨むためだ。

大谷の入団交渉をバックアップしたのは、世界最大のスポーツ・エージェント企業であるクリエイティブ・アーティスツ・エージェンシーだ。全米屈指の敏腕エージェント、ネズ・バレロが代理人を務めた。

大谷はホテルに荷物を置くなり、球団が送ってきた事前資料に目を通しはじめた。事前資料によるプレゼンテーションは、注目度が高い大谷ならではの特別措置だ。その数は25球団とも27球団とも言われ、30球団あるアメリカのメジャー球団のほとんどが大谷獲得に向けて動いていた。大谷はすべてを丁寧に読み込んだうえで直接面談を行なう球団を7つに絞り込み、交渉に臨んだ。一般的にメジャーの世界では、大型契約を勝ち取ることがプレイヤーにとっても代理人にとってもステイタスとなる。だが23歳の大谷にとって、契約金額はさほど重要ではなかった。それよりも、プレイする自分が強くイメージできるか否かを基準にしたという。

そして2017年12月9日(日本時間10日)、大谷はロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムへの入団会見を実施した。奇しくも18歳のころの彼が北海道日本ハムファイターズの入団決断会見を行ったのと同じ日であった。

大谷翔平の価値観

大谷がメジャー挑戦への思いを最初に口にしたのは、岩手県の花巻東高校時代だった。それから6年経ち、22歳の大谷は、来季の契約更改を前にメジャー挑戦への思いを再び口にした。だが周囲にとっては、それがメジャー挑戦のベストタイミングだとは言えないように見えた。

2016年の日本シリーズで、大谷は右足首を痛めた。それが侍ジャパンの強化試合で悪化し、2017年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での代表辞退を招いた。怪我に加え、アメリカに行けばボールの素材は変わり、マウンドは日本より固い。体への負担は大きく肩肘故障のリスクもある。

花巻東高校時代の恩師である佐々木監督は、「もう少し日本でやってからでもいいんじゃないか」と大谷に伝えたという。それでもなお、彼はメジャー行きを決断した。

大谷と何度も面談を重ねた北海道日本ハムファイターズの栗山監督によると、彼は一度たりともお金の話をしたことがないという。それよりも、誰もやったことのないことをやるということに価値を見出している。成功するかどうかは問題ではない。チャレンジすることが嬉しくてしょうがないのだ。

【必読ポイント!】 大谷翔平の原点

父と子の野球ノート
jjuhide/iStock/Thinkstock

大谷にとって父は指導者でもあった。中学までは父がコーチや監督として指導に当たっていたのだ。

親子であり、また指導者と選手の立場でもある。その関係上、息子である自分が試合に出るには、誰もが納得するほど圧倒的な実力を持っている必要がある。自分と同じくらいの実力の子がいれば、父はその子のほうを試合に出さざるをえない。大谷はそのことをわかっており、他の選手の何倍も何十倍も練習を重ねたという。

大谷と父の関係は「野球ノート」でもつながっていた。父がその日の評価やアドバイスを書き、大谷が試合での反省や今後の課題を記す、交換日記のようなものだ。野球ノートのねらいは、大谷に対する意識付けにあった。野球をやっていれば、エラーや三振はある。大事なのは、課題克服のために考え抜き、実行することだ。反省点と取り組みを自分の字で書かせることで、やるべきことを意識させるようにしていた。

野球ノートには、父による3つの言葉がしばしば登場する。

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要約公開日 2018.08.31
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