人と組織の「アイデア実行力」を高める

OST(オープン・スペース・テクノロジー)実践ガイド

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出版社
出版日
2018年06月18日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

OSTとは、「オープン・スペース・テクノロジー」の略であり、組織開発のワークショップの手法の1つである。オープン・スペースは「(対話の)広場」、テクノロジーは「(対話の)技術」を意味している。

著者らのOSTの定義はこうだ。「実行したいアイデア・解決したい課題・探求したいテーマを参加者が提案し、それに賛同する人が集まって話し合うことにより、具体的なプロジェクトを生み出したり、テーマについての理解を深めたりするためのワークショップ手法」である。

近年、ワールド・カフェやフューチャーサーチなど、参加者の自主性を重視したワークショップが頻繁に行われるようになってきた。そうしたワークショップは、人々の思考やものの見方を解きほぐす場として機能し、大いに盛り上がる。しかし、具体的な行動やプロジェクトにはなかなか結びつかない。そんな課題が長らくあった。OSTは、そこに風穴を開ける可能性を大いに秘めている。

著者らによれば、本書の主旨は大きく次の2点にある。1つは、OST実施のポイントを具体的に整理・体系化して提供すること。もう1つは、OSTがリーダーシップを生み出す場としても機能するという、著者ら独自のコンセプトを提起することである。特に後者は、今後の組織のマネジメントのあるべき姿について、非常に示唆に富んだ提案であるといえよう。未来のリーダーのインキュベーターOST。その全体像を学ぶのにうってつけの一冊として本書をすすめたい。

ライター画像
しいたに

著者

香取 一昭(かとり かずあき)
組織活性化コンサルタント、マインドエコー代表
1943年、千葉県生まれ。東京大学経済学部を卒業後、1967年に日本電信電話公社(現在のNTT)に入社。米国ウィスコンシン大学でMBA取得。NTTニューヨーク事務所調査役、NTT理事・仙台支店長、NTTラーニングシステムズ常務、NTTナビスペース社長、NTTメディアスコープ社長、NTT西日本常勤監査役を歴任し、学習する組織の考え方に基づいた組織変革を推進。現在は、ワールド・カフェ、AI、OST、フューチャーサーチなど、一連のワークショップ手法の普及活動を展開している。著書に『ワールド・カフェをやろう』『ホールシステム・アプローチ』(以上、日本経済新聞出版社)、『ワールド・カフェから始める地域コミュニティづくり』(学芸出版社)、『俊敏な組織をつくる10のステップ』(ビジネス社)など、訳書に『ワールド・カフェ』『フューチャーサーチ』(以上、ヒューマンバリュー)などがあり、組織変革、人材開発、マーケティングなどの分野での講演や論文多数。

大川 恒(おおかわ こう)
組織変革コンサルタント、HRT代表取締役
一般社団法人 地域ケアコミュニティ・ラボ 代表理事
ワールドカフェ コミュニティ ジャパン(WCJ)代表理事
1961年、北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。シカゴ大学経営大学院でMBA取得。地域包括ケア、農商工連携、地域活性化などをテーマに、ワールド・カフェやOSTを用いたワークショップや、ワールド・カフェ、OST、AI、フューチャーサーチなどのファシリテーター養成講座を開催している。また、以下のような共創型コンサルティングも展開している。
・ダイアログ、ホールシステム・アプローチ(ワールド・カフェ、AI、OST、フューチャーサーチ)を用いた組織開発コンサルティング
・学習する組織構築のための組織変革コンサルティング
著書に、『ワールド・カフェをやろう』『ホールシステム・アプローチ』(以上、日本経済新聞出版社)、『ワールド・カフェから始めるコミュニティづくり』(学芸出版社)、『俊敏な組織をつくる10のステップ』(ビジネス社) などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    OST(オープン・スペース・テクノロジー)を開催するにあたり、ファシリテーターは目的を明示し、参加者の理解と共感を促す。
  • 要点
    2
    参加者は、目的に関連して話し合いたいテーマを自由に出し合い、分科会を自主的に運営する。そのなかから自己組織的にリーダーが生まれ、チームとしての実践につながっていく。
  • 要点
    3
    OSTのファシリテーターの態度や振る舞いは、リーダーシップを生み出す組織運営のあり方に大きな示唆を与える。OSTは未来のリーダーの孵卵器として大きな可能性を持っている。

要約

リーダーシップを育む場づくり

ワークショップの現場と経営者の感覚の落差
scyther5/iStock/Thinkstock

著者らは、長年にわたりOSTなどのワークショップを、組織開発や地域コミュニティ開発の現場で実施してきた。そのなかで、参加者の一人ひとりが確固たる考えを持ち、それを発信、実行しようとする姿に感銘を受けてきた。一方で、企業の経営幹部からは、こんな嘆きの声を聞いてきた。「社員は言われたことはそつなくこなすが、自分から積極的に行動を起こさない」。この落差は何なのか。その問題を解決するヒントとなるのが「OSTにおける場づくりとファシリテーションのあり方」である。

OSTのファシリテーターは、指示命令型のリーダーではない。参加者が自由に意見を述べ、実現したい未来に向けて仲間を募り、行動を起こす。そんなリーダーシップを育む場づくりを支援している。

OST実践ガイド

OSTとはどのようなものか

OSTが他のワークショップの手法と異なる点は何か。ワールドカフェのような他のワークショップ手法では、話し合いの細かい内容についてファシリテーターが介入することはあまりない。しかし、テーマについては、主催者ないしファシリテーターが提示する「問い」について話し合ってもらうのが一般的だ。これに対して、OSTの場合は、話し合うテーマも含めて、すべて参加者主導で決めていく。

それでは、ファシリテーターの役割は何か。1つは「そもそも何のためにこのOSTを開催するのか」という「目的」を明確にすることである。本書に挙げられている目的の例には、次のようなものがある。共働き夫婦のワークライフバランスを考える、新製品の開発、間接部門の生産性を上げる、被災地の二次災害を減らす、外国人観光客を増やすなどだ。

OSTの企画

それでは、OSTの流れを順に見ていこう。OSTの企画段階におけるポイントは2つある。1つは、「OSTの開催目的を明らかにすること」である。OSTでは、この目的に対して参加者が自主的に話し合いたいテーマを提案することになっている。よって、目的が曖昧だと、参加者もどんなテーマを出してよいのかわからない。

OSTを企画した後の当日の流れは、「オープニング」「テーマ出し」「マーケットプレイス」「分科会」「クロージング」から成る。開催当日には、OSTの目的を参加者が十分に理解していて、話し合いに強い情熱と責任感を持ってのぞめるような配慮が重要となる。このように、参加者の心の準備ができている状態を「レディネス」という。この「レディネスを高めること」が、OSTの企画のもう1つのポイントである。この後、会場の選定と設営や、備品の用意などを行う。

オープニング――グラウンド・ルールの説明
BrianAJackson/iStock/Thinkstock

まずはOSTのグラウンド・ルール(その場の基本のルール)というべき、「4つの原則」を紹介する。当日のオープニングは、参加者にこの原則を丁寧に説明するところから始める。

第1の原則:「ここにやってきた人は、誰もが適任者である」

これは、参加人数や参加者の地位、立場などは問題ではないということである。大切なのは、プロジェクトを成功させたいという情熱を持った人が参加しているかどうかである。このことを、いま一度参加者に自覚してもらうのである。

第2の原則:「何が起ころうと、それが起こるべき唯一のことである」

OSTの場では、予想外のこと、ときには場そのものが壊れてしまうようなハプニングが起こるかもしれない。しかし、何が起ころうと、起こるべくして起こったと考え、その瞬間を学びの瞬間に変えるという心構えが大切である。

第3の原則:「いつ始まろうと、始まった時が適切な時である」

話し合いがうまく進まなかったり、良いアイデアが浮かばなかったりしなくても、不安になったり焦ったりする必要はない。創造のスピリットは、いつ湧き上がってくるのかわからないのである。

第4の原則:「いつ終わろうと、終わった時が終わりの時なのである」

話し合いが予定より早く終わったり、あるいは終わらなかったりしても、無理に予定の時間に合わせる必要はない。終わったらそこで切り上げればよいし、終わらなければ別の機会を設定すればよいだけだ。

グラウンド・ルールの役割は、このルール内であれば参加者の自由と主体性は最大限尊重されることを示し、安心・安全な場をつくることにある。

移動性の法則

OSTには「4つの原則」のほかに「移動性の法則」」がある。これは「蜂」と「蝶」という、2つの比喩で表現される。OSTではチームごとに、分科会という話し合いが行われる。もしその分科会が自分の期待した場ではない、あるいは自分が十分にその分科会に貢献できないと感じたら、参加者は他の分科会へ自由に移動できる。

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要約公開日 2018.10.12
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