決定版 銀行デジタル革命

現金消滅で金融はどう変わるか
未読
決定版 銀行デジタル革命
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現金消滅で金融はどう変わるか
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決定版 銀行デジタル革命
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2018年09月06日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

現金大国であると同時に、仮想通貨大国でもある日本。日常の支払いや商取引、貯蓄などで現金の比率が大きい一方、仮想通貨取引のおよそ6割が日本円で行われているという。この状況をつくり出したのは、金融行政を司る金融庁と、通貨の番人である日本銀行だ。護送船団方式という言葉に象徴されるように、かつての日本の金融行政は、最も収益体質が弱い金融機関でも生き残れるよう統制してきた。また日本銀行は、国民が求めるままに現金を発行し流通させるため、多額のコストを費やしている。このような金融政策と通貨政策により、金融機関の支店やATMが街中にあふれている。スマートフォン決済はおろか、クレジットカード決済の比率も、他国に大きく遅れを取ってしまった。このままではフィンテックが普及するはずもない。

焦った金融当局は現在、矢継ぎ早に規制を緩和し、改革案を打ち出している。仮想通貨取引を認める制度整備もこのような動きのひとつであり、話題となったメガバンクのリストラも同様だ。迅速である反面、やや拙速にも見える金融政策と通貨政策の帰結はどうなるのだろうか。

著者がひとつのゴールとしてとらえているのは、中央銀行が通貨を電子化することである。荒唐無稽な発想に思えるかもしれない。だが、通貨の製造や輸送にかかるコストが削減でき、脱税やマネーロンダリングといった、現金ならではの不正が一掃できるなど利点が多い。仮想通貨ブームから金融の未来までを見通す際に、本書は信の置ける羅針盤になってくれるだろう。

ライター画像
ヨコヤマノボル

著者

木内 登英(きうち たかひで)
1963年生まれ。1987年、早稲田大学政治経済学部卒業、同年野村総合研究所入社。一貫して経済調査畑を歩む。1990年野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年野村證券に転籍し、2007年経済調査部長。2012年7月~2017年7月、日本銀行政策委員会委員。現在、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。
著書に『異次元緩和の真実』(日本経済新聞出版社、2017年)、『金融政策の全論点―日銀審議委員5年間の記録』(東洋経済新報社、2018年)。

本書の要点

  • 要点
    1
    米国で生まれたフィンテックは、既存の金融機関にとってまさに破壊者であった。日本ではフィンテックの普及が米国などと比べて遅れをとっていたが、現在、金融庁は規制の見直しを急ピッチで進めている。
  • 要点
    2
    日本は諸外国と比較して現金志向が強く、現金の流通コストが高いという問題がある。
  • 要点
    3
    いくつかの国では、デジタル通貨の発行に向けた本格的な検討や実験が始まっている。日本でも現金流通や脱税による社会的コストを削減するため、中央銀行によるデジタル通貨の発行を議論すべきである。

要約

フィンテックの脅威

「シリコンバレーがやってくる」

フィンテックとは、ファイナンス(金融)とテクノロジー(技術)を組み合わせた造語である。この言葉は、2008年のリーマンショック後に米国で生まれたとされている。「ITを駆使して既存の金融機関のサービスを一掃してしまうような金融商品やサービス」という意味で使われる。その担い手はリーマンショック時に銀行をリストラされた者が多い。また普及を後押ししたのも、公的資金で救済された大手銀行に反感を持つ人々だ。

こうした経緯から、フィンテック企業が伝統的な銀行業務を「破壊」するという脅威が高まっていた。JPモルガン・チェース銀行のCEOは、この状況をズバリ「シリコンバレーがやってくる」と表現した。しかし現在、大手銀行とフィンテック企業は互いにサービスを高めあう「競合」の時期を経て、「協調」に向かおうとしている。

一方、日本ではフィンテック企業が銀行に敵対せず、フィンテックの普及で米国に遅れを取っていた。これには、金融事業者を縦割りで厳しく規制する金融法制の影響もあった。しかし相次ぐ規制緩和により、この状況は大きく変わろうとしている。

銀行は「土管化」するのか?
ultramarine5/gettyimages

日本の銀行業務を監督する金融庁は、フィンテックの勃興に対し、異例の速さで規制の見直しを始めた。米国ではフィンテック企業と銀行との関係は「破壊→競争→協調」という経緯をたどっていた。これに対し、金融庁は「協調→競争」という変化を狙っているように考えられる。

ポイントは「5%ルールの緩和」と「業態別の法体系の見直し」だ。「5%ルール」とは、銀行とその子会社が合算して一般企業の株式を、議決権の5%を越えて保有することを禁じたルールである。現在は緩和され、銀行が子会社保有分も含め5%を越えて、フィンテック企業の株式を保有できるようになった。

また「業態別の法体系の見直し」とは、普通銀行、信託銀行、信用金庫などの業態別にルールを定める現状から、預金、貸出、決済といった業務別にルールを定める形へと、法体系を変えていこうという動きを指す。

しかし、従来の銀行が積極的にフィンテック企業を取り込み、展開するには課題も多い。まず、決済や送金などの手数料による収入が大幅に減少するだろう。さらには顧客接点と取引履歴などのビッグデータが、すべてフィンテック企業に握られてしまうことで、銀行は重厚長大なインフラ、いわば「土管」を運営するだけの役割となってしまうおそれもある。メガバンクにとってフィンテックの導入は、「やりたくないけど、やらざるをえない」というのが本音だろう。

日本で普及が進まないモバイル決済
Panya_sealim/gettyimages

日本ではスマートフォンなどの携帯型端末によるモバイル決済が普及しているとはいいがたい。その理由のひとつとして、セキュリティ面の不安が挙げられる。

一方、中国では、アリババグループが行う、QRコードを活用したモバイル決済「アリペイ」の利用者が5億人を越えている。アリペイは公共料金の支払いや祝儀に利用されるなど、急速に普及している。その背景には、中国政府がビザやマスターといった海外の大手カード会社の活動を制限していること、クレジットカードの信頼性が低かったことがある。銀行サービスが充実していなかったことも遠因といえよう。

しかしアリペイは、中央銀行が関与しない決済・送金サービスであるため、マネーロンダリングや送金詐欺に使われるという問題も起きている。そこで各国は、アリペイのようなサービスを国内で認めるかどうか、頭を悩ませているのが現状だ。本書の発刊時点では、日本や米国はアリペイの国内進出を拒否している。これは、国内の金融機関が海外の事業者によって「土管化」され、購買履歴などのビッグデータを握られることへの懸念によると考えられる。

減らない現金、減りゆく銀行

現金流通コストで先細っていく国庫

日本は諸外国と比較して現金志向が強い。その傾向は強まる一方だ。過去10年、他の先進国の現金流通額にそれほど増減がない中、日本だけが1割近く増加している。しかも、国内で流通する現金のうち、9割以上が1万円札だ。つまり日本では、現金が日常の買い物よりも「タンス預金」に使われているという姿が浮かび上がってくる。

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要約公開日 2018.11.28
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