株式時価総額から見た世界の5大企業は、アップル、グーグル(アルファベット)、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックだ。著者の分析によると、これら米国企業がデジタル・モノポリーへの道を歩み始めたのは2004年だという。この年は、グーグルが新規株式公開で16億7千万ドルを獲得した年である。同年12月時点、サーチエンジン・サービスのなかでグーグルのシェアは35%、ヤフーが32%、MSNが16%であった。
しかし現在では、グーグルのシェアがアメリカ国内で88%にも及んでいる。アマゾンは2004年には純売上高69億ドルだったのに対し、2015年には1070億ドルをたたき出した。オンライン上の新刊の販売では65%の独占という実績だ。また、フェイスブックによるモバイル・ソーシャルメディアの独占率は、77%だという。
少数の企業の拡大は、テクノロジー業界に限ったことではない。米国の企業統合は進み、公開株式企業数は減少の一途をたどっている。オバマ政権のシニア経済アドバイザーたちは、競合相手が少ないために多大な資本収益、すなわち超過利潤(レント)を得る企業が増えると、経済格差は増幅すると指摘した。そしてこうした企業を「レントシーカー」と呼んだ。
著者は、フェイスブックやグーグルもレントシーカーだという。彼らは、何十億という人々がアクセスするサイトを持っているので、市場価格以上の広告費を要求できるためだ。レントシーカーたちはとてつもない財力をもとに政府や官僚組織へ働きかけ、彼らの都合の良い法制度や政策の立案に多大な影響を及ぼしている。これに対し、一般米国人の政治への影響力は縮小する一方といえる。
レーガン政権以来、リバタリアニズムがワシントンの理論となってきた。シリコンバレーの起業家たちの間でも、共同生活の価値観よりも、リバタリアン思想がはるかに主流になっている。
1950年代、個人的な自由、経済的な自由、最小限の政府介入を旗印に、米国のリバタリアニズムは生まれた。経済学者ミルトン・フリードマンは、ビジネスの唯一の社会的責任は、収益を上げることとした。また思想家アイン・ランドは、道徳的な生活は自己の幸福の追求にあると主張した。
彼らの自由市場論理を、アメリカの経済制度や司法制度に根付かせた人物は誰なのか。著者によると、元イェール大学法学部教授であったロバート・ボークに比肩する人物はいないという。彼の教え子の中には、ビル・クリントン夫妻、政治経済学者のロバート・ライシュがいる。後にライシュは、一般市民の消費支出の抑制のみに注力し、権力の集中といった要素をほとんど考慮しないボークの一面的な考え方を批判した。極端にいうと、ウォールマートが国の唯一の小売店となっても、価格が下がる限り消費者はその恩恵を得られるという考えだ。
ボークの考えがアメリカ政府に浸透していなければ、グーグル、アマゾン、フェイスブックは全て独占禁止法の対象となっていただろう。ペイパルの創業者の一人であるピーター・ティールは、自由と民主主義との両立を信じないとさえいいきった。
インターネットが勝者総取りのシナリオを生んでしまっているのが現状だ。しかしインターネットは、当初、全く異なるビジョンから出発した。1960年前後、米ソの冷戦が悪化するなか、米国国防高等研究計画局 (DARPA)では、ソビエトの人工衛星スプートニク1号の打ち上げに対抗しようとしていた。当時100名以上の科学者たちが、軍事を超えた専門的研究を行っていた。
初期プロジェクトの成功例は、1962年にアメリカの4つの大学をネットワーク接続したARPANETの創設だ。ARPANETはインターネットの原型といえる。
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