「死」とは何か

イェール大学で23年連続の人気講義
未読
「死」とは何か
「死」とは何か
イェール大学で23年連続の人気講義
未読
「死」とは何か
出版社
出版日
2018年10月10日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
要約全文を読むには会員登録ログインが必要です
ログイン
本の購入はこちら
書籍情報を見る
本の購入はこちら
おすすめポイント

「メメント・モリ(死を思え)」という言葉がある。

歴史的にみると、キリスト教以前においては「どうせ明日死ぬかもしれないのだから、いまを楽しむべきだ」という意味だったのが、キリスト教以後では「現世ではなく来世にこそ思いを馳せよ」というニュアンスに変化したらしい。いずれにせよここから言えるのは、意思決定するうえで「死」が大きな役割を持っているということ、そしてわざわざ口に出して自戒しなければ、「死」という運命はしばしば忘れられてしまうということだ。

ただでさえ長寿化が進行し、自らの「寿命」が遠のいていっている時代である。このまま医療分野が発展していけば、日常で「死」を意識する機会はますます減っていくだろう。そうしたなかで「死の本質」を哲学的に語った本書が人気を博していることは注目に値する。宗教的な教えに頼らず、あくまで論理的思考を用いて「死」を捉えていこうとするとき、そこに何が立ち現れてくるのか。

本書は学部生向けの講義をまとめた入門書なので、読むうえで哲学に関する背景知識は大きく問われない。とはいえれっきとした哲学書なのは間違いなく、気軽な気持ちで読めるものでもないだろう。最初から最後まで読み通すのもいいが、「日本の読者のみなさまへ」まで読み終えたら、気になるトピックから読み始めるのもひとつの手だ。

「死」について考えるということは、「生」について考えるということでもある。「死」と向き合うことが、「生」をより充実させることを願ってやまない。

著者

シェリー・ケーガン (Shelly Kegan)
イェール大学教授。道徳哲学、規範倫理学の専門家として知られ、着任以来二十数年間開講されている「死」をテーマにしたイェール大学での講義は、常に指折りの人気コースとなっている。本書は、その講義をまとめたものであり、すでに中国、台湾、韓国など世界各国で翻訳出版され、40万部を超えるベストセラーとなっている。

本書の要点

  • 要点
    1
    人間はたしかに“驚くべき物体”だが、有形物という意味では機械と変わらない。肉体が死ねば、その人は消滅する。
  • 要点
    2
    死が悪いとされるもっとも大きな理由は、今後良いことの起きる可能性が「剥奪」されてしまうからだ。
  • 要点
    3
    不死は良いものではない。私たちが本当に求めているのは、自分が満足するまで生きることである。
  • 要点
    4
    妥当な理由があり、必要な情報も揃っていて、自分の意思で行動しているのならば、自殺という選択肢が正当になることもある。

要約

死について

魂は存在しない

死について考えるときに重要なのは、「二元論」と「物理主義」の見方を区別することだ。二元論者は人間を「身体と心の組み合わせだ」と主張する。二元論者にとって心とは魂そのもの、もしくは魂に収まるものだ。一方で物理主義者は、精神的活動としての心は否定しないものの、魂なるものは存在しないと考えている。この立場からすると、心はあくまで身体の持つ能力のひとつにすぎない。

著者は後者の立場に立つ。たしかに人間は“驚くべき物体”であり、他の物体にはない機能をいくつも持っている。だが「人(魂)は自分の身体の死後も存在し続ける」という主張は論拠を欠いている。私たちが有形物であることは間違いなく、そういう意味では機械と根本的には変わらない。ゆえに身体が死ねば、その人も消滅するのは必然ということになる。

自分は「身体」に宿っている
yurok/gettyimages

死について考えるのが厄介なのは、逆説的に「そもそも生き続けるとはどういうことなのか」という疑問にぶち当たるためである。私たちは過去・現在・未来の自分を同一の存在と見なすが、そもそもそれはなぜか。この問題に対する立場は大きく分けて3つある。(1)「魂説」、(2)「身体説」、(3)「人格説」だ。

二元論者は大抵の場合、「魂」をその根拠に見出している。これが(1)「魂説」である。「魂説」によれば、身体と魂は別のものだから、身体がどう変わったとしても(あるいは肉体が消滅したとしても)、魂さえ変わらなければ同一の存在と見なされる。

一方で物理主義者の多くは、(2)「身体説」を採用している。身体さえ一致していれば、それは同一の存在と見なすという考えだ。なおここでの「身体」は、原子レベルですべて同じということを意味しない。身体の構成要素は定期的に入れ替わるからだ。

「身体説」にはいくつかのバージョンがあり、著者のように「脳」が同じであれば、他の身体が変わっても同一の存在だと考える人もいる。いずれにせよこの説を採用した場合、身体(脳)の死はそのまますべての終わりを意味する。

興味深いのが(3)「人格説」だ。これは二元論者にも物理主義者にも受け入れられる余地がある。この考えに従うと、同じ信念や欲望、記憶などの集合である「人格」が同じであれば、同一の存在と見なされる。なお「身体説」と同じく、少しずつ構成要素が入れ替わることは問題視しない。基本的には同じ身体(脳)を持つ=同じ人格を持つという点で「身体説」に近いが、身体と人格を分離可能なものと捉えれば、「魂説」にも接近しうる。とはいえ現時点では別の身体に自分の人格を「アップロード」する技術はないので、この説もいまのところ「死」については身体説と同じ立場をとっている。

死は不思議な現象ではない
wildpixel/gettyimages

物理主義者にとって、人間とは正常に機能している身体にすぎない。考えたり感じたりできる身体を、本書では「P機能(人格機能)を果たしている」と表現する。この考えを受け入れる場合、人間はいつ死ぬことになるのかを考えてみたい。

一見すると答えは単純に思える。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2926/4184文字
会員登録(7日間無料)

3,400冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2019.05.17
Copyright © 2024 Flier Inc. All rights reserved.
一緒に読まれている要約
オックスフォードの学び方
オックスフォードの学び方
岡田昭人
未読
仕事と人生がうまく回り出すアンテナ力
仕事と人生がうまく回り出すアンテナ力
吉田将英
未読
お金の流れで読む 日本と世界の未来
お金の流れで読む 日本と世界の未来
ジム・ロジャーズ大野和基(訳)
未読
宇宙はなぜブラックホールを造ったのか
宇宙はなぜブラックホールを造ったのか
谷口義明
未読
僕たちは14歳までに何を学んだか
僕たちは14歳までに何を学んだか
藤原和博
未読
大前研一 2019年の世界~2時間で学ぶ、今の世界を理解する3本の軸~
大前研一 2019年の世界~2時間で学ぶ、今の世界を理解する3本の軸~
大前研一(監修)good.book編集部(編集)
未読
HELLO, DESIGN
HELLO, DESIGN
石川俊祐
未読
いまこそ知りたいAIビジネス
いまこそ知りたいAIビジネス
石角友愛
未読
法人導入をお考えのお客様