夫婦幻想

子あり、子なし、子の成長後
未読
夫婦幻想
夫婦幻想
子あり、子なし、子の成長後
未読
夫婦幻想
ジャンル
出版社
出版日
2019年07月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「夫婦幻想」。配偶者のいる人なら誰しもドキリとさせられ、思わずページをめくりたくなる……そんなタイトルではないだろうか。

本書は、著者がさまざまな形の夫婦を最長で20年にわたって継続的に取材し、ルポルタージュとしてまとめた一冊だ。たとえばある男性は、「男は仕事、女は家庭」の古き良き時代の夫婦を理想とし、その理想を実現してくれる女性と結婚する。しかし仕事に邁進するうち、家族との溝は深まっていき、子どもから「お父さんなんて、もういなくていい」と言われてしまう。またある夫婦は、妻が夫よりも早く昇進したことをきっかけにギクシャクしていく。子どもは持たないと決めたはずなのに、夫婦関係が冷えていくにつれ、その決断を後悔するふたりもいる。いずれも、お互いに「幻想」を抱いていることが一因であるようだ。

どの夫婦のストーリーも、テレビドラマほど劇的ではなく、ありふれたものにも見える。それなのに読者は、目を離すことができない。それは、怖いもの見たさだろうか。それとも、自分たちの姿を見ているような気持ちにさせられるからか。

本書の最後で、「夫婦幻想」から抜け出す方法として提案されるのは、どんな人間関係にも共通する、ごく基本的なふるまいだ。要約者は、ドロドロしたルポルタージュを読んだ後ということもあり、少々拍子抜けしてしまった。だがその普通さが、「夫婦は家族であって、他人でもある」という事実を思い出させてくれるとともに、本書の味わいをいっそう深くしてくれたのだった。

著者

奥田 祥子(おくだ しょうこ)
元読売新聞記者。現在は近畿大学教授、ジャーナリスト。博士(政策・メディア)。男性の晩婚・非婚化や中高年男性の心と体、働き方などをテーマに、全国を回って市井の人々に取材、執筆活動を続けている。
2000年代初頭、男性の非婚化の深層に迫った「結婚できない男たち」を雑誌に発表し、話題を呼ぶ。その後も『男性漂流 男たちは何におびえているか』(講談社+α新書)、『「女性活躍」に翻弄される人びと』(光文社新書)がベストセラーに。対象者一人ひとりに、最長で20年に及ぶ継続的なインタビューを行っている。著書は他に『男という名の絶望 病としての夫・父・息子』(幻冬舎新書)、『男はつらいらしい』(講談社+α文庫)など。日本文藝家協会会員。専門社会調査士。

本書の要点

  • 要点
    1
    行き過ぎた承認欲求は、夫婦の関係を歪ませる。
  • 要点
    2
    家族への愛情をうまく伝えられず、家庭での居場所をなくす男性は多い。一方、女性は、家事に育児にと努力しても夫に認められないと嘆くケースが多い。夫、妻ともに自分の思いを伝え、相互理解に努める必要がある。
  • 要点
    3
    夫婦幻想から抜け出すには、理想を追求し過ぎず、お互いに思いやりを持つこと、世間の眼差しや社会的評価を過剰に意識しないことが効果的だ。

要約

事例(1)妻も夫も両立の壁

「ワーク・ライフ・バランス」目指す夫婦

夫婦が協力し合い、仕事と家庭の両立を実現しようとするなかで、さまざまな困難に直面することがある。そのうちに、夫婦が互いに悩みを打ち明けられないまま、心を閉ざしてしまうケースも少なくない。

取材開始当時、剛さんとまゆみさんは仲睦まじい新婚夫婦で、剛さんは24歳、まゆみさんはその4歳年上だった。剛さんは、ワーク・ライフ・バランスへの会社の理解が不十分であることに不満を抱き、自主的に情報収集をするほか、上司や先輩に異議を申し立ててもいた。まゆみさんは、妊娠したら育休を取りたいと考えていたが、復帰後は以前と同じような仕事には戻れないのではないかと懸念していた。まゆみさんの会社には、育児休業(以下、育休)制度はあるが、子育てをしながら働いている女性はほとんどいなかったからだ。

両立に苦しむ妻
Sasiistock/gettyimages

まゆみさんはその後、31歳で出産。育休を取得後、職場に復帰した。復帰後しばらく経ったころ、著者は育児と仕事の両立についてのインタビューを行った。

著者が育休前と職場復帰後の仕事の違いを質問すると、まゆみさんは頬を引きつらせてしばらく黙った後、「わたしは、何かの、役に、立っているん、でしょうか……」と、消え入るような声で話し始めた。

復帰してみると、担当していた仕事は後輩に引き継がれていた。ただ職場にいるだけで、誰にも認めてもらえていないように感じているという。

話題を変えようと、著者が剛さんの話題を振っても、反応は芳しくない。「夫婦の関係に何か変化が生じているのではないか」――そんな疑念が芽生えた。

「妻のことがわからない……」

剛さんへの取材が実現したのは、翌年のことだった。夫婦関係について尋ねると、剛さんはこう答えた。「恥ずかしいんですが……妻のことが、よくわからないんです。妻が何を考えていて、どうしたいのか、僕にはどうしてもらいたいのか……」

剛さんもまた、仕事と家庭の両立に悩んでいた。仕事が忙しくなったことで、もはやワーク・ライフ・バランスの実現は夢物語になっていた。子育てに関しては、週に1、2回、出勤前に子どもを保育園に連れて行く程度だという。

まゆみさんへの取材はなかなか実現せず、数年にわたって剛さんからのみ話を聞いた。剛さんによると、まゆみさんは依然として子育てと仕事の両立に悩んでおり、夫婦の会話も十分にできていないということだった。

剛さんは、「妻に歩み寄らないといけないと思って」積極的にコミュニケーションを取るようにしており、ほぼ等分に育児を分担してもいるという。そのおかげでまゆみさんも少しは気楽に仕事ができているのではないか――それが彼の見立てだった。

がっかりされたくない妻、存在証明したい夫
kasto80/gettyimages

それから2年近く経ったころ、夫婦そろっての取材が実現した。まゆみさんは、「時間はかかりましたが、少しずつ夫婦互いに悩みやつらいことを話し合えるようになって、やっと関係改善に向けて前進し始めたので……」と口火を切った。キャリアに悩んでいたものの、剛さんには相談することができなかった。それは、両立を応援してくれている彼をがっかりさせたくないという思いがあったからだという。

続けて、剛さんも悩みを打ち明けた。

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要約公開日 2019.07.14
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