クオリティ国家という戦略

これが日本の生きる道
未読
クオリティ国家という戦略
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これが日本の生きる道
未読
クオリティ国家という戦略
出版社
小学館
定価
1,650円(税込)
出版日
2013年01月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

今後、日本はどのような国家を目指していくべきか。21世紀に入って、世界では「国家のパラダイム」が大きく変わってきている。しかし、日本は20世紀後半の工業国家モデルがあまりに大成功してしまった結果、いまだにかつてのパラダイムから脱することができていない。その結果として、現在の日本は経済規模に関しても、また人材の質に関しても、「中途半端な状態」となってしまっている。

本書では、日本がその中途半端な状態から脱するためにも、「クオリティ国家」という姿を追及するべきであるという主張がなされている。クオリティ国家とは、スイスやシンガポールのような人件費は高いが、それをカバーするだけの付加価値力と生産性の高い人材がそろった国家のことをいう。中国やインドのような「ボリューム国家」を目指すことができない以上、成長を遂げるためにはクオリティ国家を追及するしかない。そのためには、日本の制度をどのように変化させるのか、また教育をどう変えていく必要があるのか、本書では言及がなされている。

世界のトレンドがどのように変化して生きているのか、またクオリティ国家と呼ばれる国家群がどのような特徴を持っているのかを知ることによって、企業の戦略や国家のあり方を問い直すことができるだろう。トップマネジメント層、国家公務員の方々に是非お読みいただきたい一冊である。

著者

大前 研一
「ボーダレス経済学と地域国家論」提唱者。マッキンゼー時代にはウォールストリート・ジャーナル紙のコントリビューティング・エディターとして、また、ハーバード・ビジネスレビュー誌では経済のボーダレス化に伴う企業の国際化の問題、都市の発展を中心として拡がっていく新しい地域国家の概念などについて継続的に論文を発表していた。英国エコノミスト誌は、現代世界の思想的リーダーとしてアメリカにはピーター・ドラッカー(故人)やトム・ピータースが、アジアには大前研一がいるが、ヨーロッパ大陸にはそれに匹敵するグールー(思想的指導者)がいない、と書いた。同誌の一九九三年グールー特集では世界のグールー17人の一人に、また一九九四年の特集では5人の中の一人として選ばれている。二〇〇五年の「Thinkers50」でも、アジア人として唯一、トップに名を連ねている。経営コンサルタントとしても各国で活躍しながら、日本の疲弊した政治システムの改革と真の生活者主権国家実現のために、新しい提案・コンセプトを提供し続けている。 経営や経済に関する多くの著書が世界各地で読まれている。

本書の要点

  • 要点
    1
    クオリティ国家は、高コストの人件費をカバーする付加価値力、生産性の高さを持っている国家群をさす。日本の将来の方向性を探るためには、クオリティ国家の研究が必須である。
  • 要点
    2
    クオリティ国家の代表例は、世界経済フォーラムの国際競争力ランキングで1位のスイスと2位のシンガポールであり、日本が大いに参考にすべき国家である。
  • 要点
    3
    クオリティ国家には、法人税などの税制や英語の公用語化を行い、ヒト、モノ、カネ、情報、そして企業を呼び込む方策を打っている。
  • 要点
    4
    道州制を導入することで、オーガナイズ・スモールを実現し、各道州がそれぞれクオリティ国家を目指していく必要がある。

要約

世界で台頭する新たな国家モデル

加工貿易立国モデルの延長上に「解」はない

日本は明治維新以降、欧米列強に対抗するため「富国強兵」「殖産興業」をスローガンに、ひたすら「ボリューム国家」を目指した。結果的にはその「帝国主義モデル」で第二次世界大戦に惨敗し、日本は工業国家モデルを独自にアレンジした「加工貿易立国モデル」に転換した。このパラダイム転換は世界のどの国よりもうまくいった。

しかし、今や日本の産業競争力は衰退の一途をたどっている。衰退の原因は、政府と経済界が、アメリカの言いなりになって安易な妥協を繰り返したことにある。日本は加工貿易立国モデルが大成功したがゆえに、その成功モデルから抜け出せていないのだ。

iStockphoto/Thinkstock
BRICsの凋落と「クオリティ国家」の台頭

2010年代に入って、新興ボリューム国家のBRICsの成長は曲がり角に来ている。しかし、そうした時代であるにもかかわらず、依然として着実に成長し、高い国際競争力を有し、一人当たりのGDPの高さを維持している国々がある。それが、私が「クオリティ国家」と呼んでいる国家群だ。

クオリティ国家の特徴は、経済規模が小さく、人口・労働力のクオリティが高く、高コストの人件費をカバーする付加価値力、生産性の高さを持っている点だ。新しい国家モデルへの転換が必要な日本の将来の方向性を探るためには、クオリティ国家の研究が欠かせないのだ。

クオリティ国家の研究

iStockphoto/Thinkstock
なぜスイスは国際競争力が高いのか

クオリティ国家の代表格は、世界経済フォーラムの国際競争力ランキングで1位のスイスと2位のシンガポールだ。中でもスイスは最強のクオリティ国家といえる。世界からヒト、モノ、カネや企業、そして情報を呼び込む吸引力と、グローバル市場で勝てる競争力。そのどちらも高水準で持っているのだ。

スイスの国際競争力が高い理由には、大きく三つの特徴がある。一つ目は、「国が企業を支援しないこと」である。企業に対する補助金は全くない。もちろん倒産しかかった企業を政府が救済することはなく、弱い産業は潰れ、結果的に強い産業だけが生き残るのだ。二つ目は、「クラフトマンシップ(職人芸)」だ。スイスの人たちが猫も杓子も大学に進学するのは、クラフトマンシップを失って国際経労力を弱めるやり方だと認識している。三つめは、「移民」である。スイスでは移民が人口の三割を占めている。移民は新しい産業を興し、その中で強くなった会社が世界に出て行って発展しているため、移民が生み出す活力は非常に重要であるとスイスの人たちは認識している。

スイスと逆に、日本は潰れそうな企業を国が支援し、大学進学率が高まるにつれてクラフトマンシップを軽んじるようになり、移民は受け入れようとしない。つまり「スイスの常識」は「日本の非常識」なのである。

「事業戦略国家」シンガポールの工夫

私はシンガポールを「事業戦略国家」と呼んでいる。最近はほぼ五年ごとに国家戦略をモデルチェンジしてきている。興味深いのは、街の人に聞いても、タクシーの運転手に聞いても、みんなが「現在の国家戦略はこれです」とはっきり答えるのだ。それほど国家戦略が明確に国民の意識の中に刷り込まれているわけである。

また、シンガポールは、国家の中にさまざまな「ハブ拠点」を作ることによって、戦略的に世界からヒト、モノ、カネ、情報を吸引している。具体的には、金融ハブ、空港ハブ、港湾ハブ、教育ハブ、医療ハブ、データマネージメントハブ、R&Dハブ、コンベンション・ハブを作り出し、アジア諸国だけでなく、インド、欧州、イスラム圏からもヒト、モノ、カネ、情報を吸引している。

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