売り渡される食の安全

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売り渡される食の安全
出版社
出版日
2019年08月10日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

種子法という法律を知っているだろうか。良質で安価な種子を安定的に供給することを目的として、戦後の日本で制定された法律だ。その背景には、「二度と国民を飢えさせてはならない」という政府の決意がある。

だがこの法律は、2018年に突如として廃止された。その背景には、巨大企業を中心としたビジネスに、日本がのみこまれつつある現状がある。本書では、農業に関する政府の動きから市民活動に至るまで、幅広い情報を整理しながら、種子法に端を発した日本の食の安全に関する非常事態に対して、その背景と対策が示される。

日本で販売される食品のうち、どこでどのように育てられてきたのかが表示されているものは、かなり少ないと感じる。販売する企業や日本政府が「安全」としている食品であっても、何を根拠にそう言っているか、私たちの多くは深く知ることはない。加えて著者が指摘するのは、日本のメディアでは、種子法廃止やアメリカのモンサント裁判など、食や健康に関するニュースはほとんど取り上げられないということだ。

本書では、現代の食に隠された衝撃的な事実が次々と明らかにされる。すでに動きはじめている各国の動きから、次に私たちが何をしなければならないかもまた、明確になることだろう。

食の安全をめぐる現状を冷静に整理し、日本の食を守るためには何をすべきなのかを知りたい読者へ、一読をお勧めしたい。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

山田 正彦(やまだ まさひこ)
1942年、長崎県生まれ。弁護士。早稲田大学法学部卒。司法試験に合格後、故郷で牧場を開く。オイルショックにより牧場経営を終え、弁護士に専念。その後、衆議院議員に立候補し、4度目で当選。2010年6月、農林水産大臣に就任。12年、民主党を離党し、反TPP・脱原発・消費増税凍結を公約に日本未来の党を結党。現在は、弁護士の業務に加え、TPPや種子法廃止の問題点を明らかにすべく現地調査を行い、また各地で講演や勉強会を行っている。著書に『タネはどうなる?!』『アメリカも批准できないTPP協定の内容は、こうだった!』など。

本書の要点

  • 要点
    1
    種子法の廃止により、農家へ供給する種子を生産していた都道府県は、予算不足に陥った。今後、資金力のある企業が農業に参入することで、米の価格が高騰する可能性がある。
  • 要点
    2
    アメリカでは、強力な除草剤とそれに耐性のある遺伝子組み換え食品のセット販売が拡大した結果、生態系が破壊されただけでなく、がんの発症などの健康被害が報告されている。
  • 要点
    3
    世界各国は、健康被害をもたらす除草剤を規制し、人体や土壌にも優しい食品を選びはじめている。日本でも次世代に向けて、地方からうねりが起きつつある。

要約

【必読ポイント!】種子法廃止

日本の食卓を支えた種子法
byryo/gettyimages

私たちが毎日当たり前のように食べているお米は、種籾(たねもみ)の選別から実るまでに88もの手間がかかるといわれている。ではそもそも種籾は、どのように農家の手にわたるのか。そのカギは、1952年5月に制定された「種子法」にある。

種子法は、米、麦、大豆の品質を保ち、優良な種子を安定的に生産し、公共の財産として供給していくことを、国が果たすべき役割として定めている。つまり、優良な種子を国が責任をもって供給しなくてはならないとしているのだ。この法律は、栽培用の種子を採取するためにまく「原種」と、そのおおもとである「原原種(げんげんしゅ)」を栽培・生産し、一般の農家へ提供することを各都道府県に義務づけている。

戦後の食糧難の時代に制定されたこの法律は、「二度と国民を飢えさせてはならない」という、時の政府の決意がにじみ出ていると著者はいう。種子法により、農家は高品質で安価な種子を安定的に手に入れることができるのだ。

この種子法は、2018年4月、あっさり廃止された。都道府県は予算を確保できず、原種と原原種の研究や栽培を継続できなくなった。また高齢化に苦しむ農家も、米を育てつつ種子を確保するのは困難だ。その結果、民間の企業が原種や原原種の栽培を担うことになる。

種子の開発には費用と時間がかかるため、資金力のある企業でなければ難しい。参入できる企業は限られるため、企業の考え一つで種子の値段を上げることも可能だ。さらには、効率化のため、米の品種は減らされることになるだろう。

種子法と新法の違い

安倍政権は、種子法に代わる新法を閣議決定した。

著者によれば、新法には、多数ある米の品種を絞り込み、最終的に三井化学など民間企業が開発した数種類の米に集約するねらいがあるという。だが、多様な品種が存在すればこそ、予期せぬ気候変動やウイルス、病害虫などから米を守ることができるのだ。種子法廃止によって同一品種が広く効率的に生産され、品種が集約していけば、さまざまなリスクが高まることは自明である。

巨大企業の影
kokoroyuki/gettyimages

新法では、都道府県が保有する種子の生産に関する知見を、民間業者へ提供することを促進するとある。提供の対象には、海外の企業も含まれる。

民間へ知見が渡ったら、どのような事態になるのか。予想されるのは、遺伝子組み換え作物で世界トップシェアを誇るモンサント(現バイエル)など、世界の種子企業を支配しようともくろむ多国籍アグリ企業が育種登録したり、一代限りしか使えないF1品種にして特許権を取得したりすることだ。

F1品種は、生長が速く、収穫時期や収穫物の大きさが一定するという特徴がある。つまり、見栄えが良く、流通効率が高い作物を作れるのだ。年間を通して販売できるので、消費者にとってもありがたい。

しかし、孫の代からはその特性が現れないため、農家が毎年種を購入する必要があるうえ、種子の価格は高い。やがて巨大企業の一代限りの品種が大多数となり、価格の高騰を招くことになるはずだ。

モンサント法案

大企業と農家

多国籍アグリ企業の筆頭であるモンサントは、1998年にカナダ中西部の農家であるパーシー・シュマイザー氏を告訴した。告訴の理由は、モンサントが特許をもつ遺伝子組み換えナタネに対する特許権の侵害だ。

ところが、シュマイザー氏は遺伝子組み換えナタネを購入も栽培もしていなかった。

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要約公開日 2019.12.01
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