運は一見非科学的なものであり、科学的に扱うような対象ではないと感じる人もいるだろう。しかし、非科学的に感じるものであっても、科学者の目でていねいに分析すると、科学的な根拠が見つけられることがある。
「運がいい・悪い」を考える際にまず忘れてはならないポイントは、私たちの身の回りには「見えない」運・不運が無数にあるということである。たとえば、普段通っている道に、100万円が入った封筒が落ちていたとする。しかし、その日に限って別の道を選択したために、100万円を拾うことはなかった。いつもと違う道を選んだ点で運を逃しているが、当の本人には「運が悪かった」という自覚は生まれない。
私たちはつい、目に見える運・不運だけに着目しがちだ。その裏側には、何倍、何十倍もの自覚できない、検証できない運・不運があることを知っておく必要がある。こう捉えると、誰にでも公平に運は降り注いでいる、ということがわかるだろう。
それでも世の中は、運がいい人と悪い人に分かれているように見える。公平に降り注ぐ運を上手にキャッチできる人、不運を上手に防げる人、あるいは不運を幸運に変えられる人などが、「運がいい人」である。そして、この運がいい人といわれる人たちを観察すると、共通の行動パターン、物事のとらえ方、考え方などが見えてくる。つまり、「単に運に恵まれている」わけではなく、平等に降り注ぐ「運」を生かす行動や考え方をしているということだ。それらは科学的に説明を付けることができる。本書は、「運をよくするための行動や考え方」について、脳科学の知見をもとに解説している。
運がよくなるために、今の自分とは違った人になるために努力することは、かえって「運のいい人」から自分を遠ざけていってしまう。
脳には人それぞれ特徴があり、それによって個性がつくられている。たとえば、人間の脳は、安心感、安定感、落ち着きを感じさせるセロトニン、「やる気」をもたらすドーパミン、集中力を高めるノルアドレナリンなどの神経伝達物質を出す。これらは私たちが健康に生きていくために必要であるが、増えすぎると脳や体に悪影響を与える。そのため、それらを分解し、全体量のバランスをとるモノアミン酸化酵素という物質が存在する。この酵素はその分解の度合いに遺伝的な個人差があり、これがひとつの脳の個性を生み出す。
分解の度合いが低いタイプの女性の脳は、幸福を感じやすい脳だといわれている。特に度合いが低いタイプの人は、幸福度が高い一方で、反社会的行動をとりやすいとも考えられている。一見矛盾しているように感じるかもしれないが、モノアミン酸化酵素の分解の度合いが弱いということは、セロトニンの分泌量が多いということを指す。すなわち、セロトニンによる安心感を強く感じるために、その反対の不安感がないのだ。
先のことを考えるからこそ不安感は生じる。セロトニンの分泌が多いと、「いまがよければいい」といった、反社会的行動をとりやすくなるのである。なお、モノアミン酸化酵素の分解の度合いが低い男性は、攻撃的なタイプになるといわれている。
このように私たちの脳は、自分では変えることのできない生まれつきの個性を持っている。自分の脳の特徴を自覚することでこの個性に対処していくことはできるが、全く変えてしまうことは不可能である。自分を変えるというのはそもそも至難の業なのだ。
そこで視点を変えて、「いまの自分を最大限に生かす」方法を考えてみよう。新しい何かを習得するのではなく、自分の体、自分の価値観など、すでに自分が持っているありとあらゆるものを生かしていく。これが運のいい人になる第一歩である。
「自分は運がいい」と決め込むのも、運がよくなる秘訣である。
3,000冊以上の要約が楽しめる