スキンケア市場でオレイが高収益な25億ドルブランドという成功を収めることができたのはなぜか? それは、戦略を明快に定義し、関係者が明確かつ難しい選択を下せたからだ。勝利に導くには、「何をし、何をしないか」についての明確な選択が不可欠である。選択の結果、オレイは業界内の独自のポジションと競合への持続的な優位性、より優れた価値をもつことができた。
戦略の核心は勝利であるべきだ。戦略とは、調和し統合された次の5つ――①勝利のアスピレーション(憧れ)、②戦場選択、③戦法選択、④中核的能力、⑤経営システム――の選択である。
実行可能で持続的な戦略をつくるために、各段階での選択はまとめて行う必要があり、ある段階で知見を得た場合、他の段階にも目配りしなくてはならない。CEOも前線のスタッフもこうした戦略的選択を重ねていく点は同じである。違いは選択の規模と制約の質だけなのだ。
勝利のアスピレーションとは、どんな勝利を望んでいるのか、という他の全ての選択の枠組みをもたらすものである。オレイの場合は、次の3つのことだった。まず、北米で市場シェアトップ、10億ドルの売上、世界的トップブランドの地位を得ること。それから、スキンケアをヘアケアと並ぶ柱にすること。そして量販とプレステージの中間に位置するマスステージ市場でリーダーとなること。このように、アスピレーションを明確に表現することが重要だ。勝利を規定せずに市場に参戦しても、勝てる見込みはないからだ。
では、適切なアスピレーションを設定するにはどうしたらよいか。そのためには、自社の事業において、誰が最も大切な顧客で、誰が最良のライバルなのかを考え抜くことが必要だ。携帯電話のメーカーの多くは、事業について聞かれたら製品ラインやサービス詳細を説明するだろう。しかし、消費者を意識してビジネスモデルを考えると、「人々をいつどこにいても結びつけるビジネス」という見方ができる。勝利のアスピレーションは、消費者を意識して立てなければいけない。また、真のライバルを見極め、彼らの戦略や業務遂行の優れた点をよく観察することが、勝利のための洞察を与えてくれる。
苦渋の選択を下すときの拠り所は、勝利のアスピレーションだ。ただし、戦場選択や戦法選択とアスピレーションの関わりが曖昧だと、機能不全になることを肝に銘じてほしい。
会社やブランドにおいて、「どこで競争し、どこでは競争しないのか」を選ぶことも重要だ。戦場選択は、地理、製品タイプ、消費者セグメント(消費者グループ・価格帯・満たすべきニーズ)、流通チャネル、製品の垂直的段階(製造のどの段階に参入し、バリューチェーンのどの位置を占めるか)という切り口で、包括的に行わなくてはいけない。
P&Gでは、消費者の実像を知ることから始める。顧客の観察と家庭訪問によって、満たされないニーズを探ることに投資を惜しまない。そして、競合状況を考える。単に競争相手とは違うやり方を探すのではない。強敵から狙うのか、まずは弱い競争相手から打破するのかを選ぶことが必要だ。ここで、戦場選択の3つの罠に気をつけてほしい。
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