「何のために成功したいのか」というビジョンを明確にイメージすることで、目の前の仕事の意義を再確認でき、目標達成のモチベーションが大きく変わってくる。
古代中国の七つの代表的な兵法書「武経七書」の一つとされる『呉子』には、「生を惜しめば死に、死を必すれば生きる」という言葉がある。「生きることに執着するとそれは死につながり、死を覚悟すれば自ずと道は開ける」という意味だ。日本の社長の数多くが、死の淵に立つほどの大病や戦争体験といった「死」を意識せざるをえない経験を経ている。彼らは死に直面したことで、残りわずかな時間で何をすべきかを考え抜くようになり、迷いなく仕事にまい進できた。
アップル社の創業者スティーブ・ジョブズは、48歳のときにすい臓がんが発覚し、その2年後に、次のような伝説的なスピーチを残した。「もし、今日が人生最後の日だとしたら、今からやることをやりたいか?」いまの仕事を続けるべきか迷いが生じたときは、自分の死から逆算的に残された時間を考え、何が一番したいかを自問自答してみるとよい。
戦乱に明け暮れた古代中国の兵法書には、敵・味方・地の利についての様々な状況分析と対処の方法が説かれている。
南宋の政治家が編纂した『文章軌範』には、「巧遅は拙速に如かず」という言葉がある。これは「時間をかけて完璧を目指すより、不完全でもスピード重視でやり遂げた方がいい」という教えだ。企業間の競争ではスピードが命。自分では不完全だと思っていても、立ち止まるよりは、上司に報告した方がいい場合が圧倒的に多い。チームプレイでカバーすることができるからだ。
質と速さのどちらを優先すべきかを決めるには、自分の仕事を大局的に捉えて、どちらのニーズが高いのかを見極めることが重要だ。任された仕事が、どの工程で、どんな役割をもっているかを捉えたうえで、質とスピードのバランスを保つ必要がある。例えば、締め切りや予算、修正のチャンスの有無などが判断基準となる。
また、ビジネスでは、準備が整っていない状態でも戦いに臨まなくてはならないケースも多い。時には、準備不足をハッタリで補い、その後急いで穴埋めをすることで、大きなチャンスをモノにする必要も出てくるのだ。
前漢の歴史家、司馬遷によって編纂された『史記』の項羽本紀には、「先んずれば人を制す」という言葉がある。「先手を取れば優位に立てるし、少しでも遅れれば勝ち目は薄くなる」という意味だ。秦の始皇帝亡き後に、大臣の殷通(いんとう)はこの言葉を使って項梁(こうりょう)を仲間に引き入れようとした。しかし、皮肉にも項梁は、この言葉通り、甥を呼んでたちまち殷通の首をはね、殷通の土地や兵をごっそり手に入れたという。
現代の経営においても、ライバルに先んじて名乗り出ることは、勝利の第一条件となることが多い。セブンイレブンが国内最多店舗数を誇るまでに躍進している一因は、固定観念を打ち破る開発をスピーディーに決断し、実行に移ってきたことである。例えば、季節によって冷蔵と温蔵を切り替えられる飲料ケースというアイデアは、冬のゴルフ場で大きな鍋にお湯を入れてコーヒー缶などを温めているシーンからひらめいたという。普段から問題意識を持って情報に接しているからこそ、先手必勝のチャンスをものにできるのだ。
組織における人間関係や社内政治の処世術は、古代中国でも重要なテーマだった。
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