イノベーション力を高めるための発想法の一つは「戦略的自由度」である。戦略的自由度とは、戦略を立案すべき方向の数を指す。具体的なステップは、まずユーザーの目的を問い、それを達成する方法(軸)を洗い出したうえで、いくつかの軸に沿って優位性・持続性のある方策を考えるというものだ。戦略的自由度は、改善の方向を定めることで、コストや時間の無駄を減らし、「ユーザーのニーズを満たす」という原点に立ち戻るうえで極めて重要となる。
この考え方を疎かにしたことで存続の危機に陥った企業も少なくない。例えばシャープは「亀山モデル」で優れた液晶技術での差別化を謳ったが、ユーザーに価値を感じてもらえることができず、コモディティ化(汎用化)の道をたどり、大赤字に転落してしまった。
あくまで「ユーザーは何を求めているのか」という命題を発想の起点にしなければならない。
ここでは、製薬会社での薬の開発に大前氏が戦略的自由度を応用した事例を紹介する。新薬の開発には、10年以上の歳月を要し、開発費の高騰が課題となっている。そこで大前氏が目をつけたのは、既存の薬であった。まず、製薬会社の社員全員に、体の異常や不快感などを1年間書き出してもらったところ、「急な眠気に襲われる」といった些細な不満が多く、その諸症状に対処する薬を用意できていないという現状が浮き彫りになった。そして、既存の薬の組み合わせなどによって症状を和らげられることがわかり、この会社は新しい市販薬を数多く誕生させ、高い利益を得た。このように、社員をユーザーに見立てて不満を書き出すという作業で、ユーザーの目的を把握し、戦略的自由度を最大限に活かすことができたのだ。
ユーザーの目的は時代とともに変化する。「会社として何を提供したいか」ではなく、「ユーザーは何を求めているのか」という視点に立って発想することで、思考の壁を打破できるはずだ。
次に取り上げるのは、「固定費に対する限界利益の貢献の最大化」という考え方である。限界利益とは、売上高から変動費を引き算したものを指す。
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