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年間3225冊。なぜ、不動産のパイオニア「リブラン」は社員が読む本を全額負担するのか?
これからの時代は、「知」をいかに蓄積するかの勝負だ

年間3225冊。なぜ、不動産のパイオニア「リブラン」は社員が読む本を全額負担するのか?

社員が読みたい本の購入費用を会社が全額負担する。しかも、どんな分野の本でもいい――。そんな独自の制度「知の貯金箱」を16年ほど続けているのが、不動産デベロッパーである株式会社リブランです。同社は、自然の力を利用して心地よさを感じられるマンションの「エコヴィレッジ」や、24時間楽器の演奏が可能な防音機能つきマンション「ミュージション」などを展開しています。

代表取締役会長の鈴木雄二さんが「知の貯金箱」に込めた想いとは? 「本の知」にふれることで社員や事業にどんな影響が生まれるのか、フライヤー代表・大賀康史とともに語りつくします。

大手不動産が提供できない価値の糸口は、「社会問題の解決」にあった

大賀康史(以下、大賀):

まずはリブランの事業について簡単に紹介していただけますか。

鈴木雄二さん(以下、鈴木):

リブランは今年2023年で創業55年を迎える不動産デベロッパーです。私は24歳のときにリブランに入社し、分譲マンション事業からのスタートでした。

リブランの創業者である父は、常々こんなふうに語っていました。「社会問題を掘り下げていくと住宅に起因するケースが多い。住宅を変えることで社会問題を解決できるような仕事をしないといけない」。そんな父の影響で、私も社会問題を勉強するようになりました。また、事業としての側面からも、不動産の決め手といわれる3P、いわばPrice(価格)・Plan(間取り)・Place(立地)だけで競合と戦っていては疲弊することが明らかでした。大手が手がけていないリブランならではの価値を提供するにはどうすべきか。そこで、「住まい」の領域でお客様の願いをかなえるような価値を創造することで、事業の活路を見出せると同時に、社会課題の解決にも寄与できると考えました。

リブランが手がける主力商品は2つあります。1つは、ワンストップリノベーション事業の「てまひま不動産」。リブランは、太陽の光や風、緑などの自然の力で室内を快適にする「エコミックスデザイン」という設計思想に基づいた住まいを提案しています。都市部でもエアコンに頼らず、リラックスできる空間をつくり出しています。

もう1つは、24時間楽器の演奏が可能な防音機能つきマンションの「ミュージション」です。発想の原点になったのは、騒音問題に対して、「そもそも騒音が出ない家をつくれないか」と考えたことです。防音性と遮音性を追求することで、音楽を思い切り楽しめる環境を実現し、今では当社の収益の柱となっています。

大賀:

社会問題に根差した個性のある「住まいのあり方」を提供しているのですね。御社の社員の方々の雰囲気や特徴はどのようなものですか?

鈴木:

個性豊かな人が多いですね。中には、バンド活動をしていて「音楽と住宅を両立できるデベロッパー」ということに惹かれて応募してきた社員や、アメリカで大規模農業に携わってきた人もいます。最近では、ミュージションの事業に共感して入ってきた音大卒の社員も増えてきました。

大賀:

鈴木さんが人材育成で大事にしている点もお聞きしたいです。

鈴木:

社員にはどんどん新しい挑戦をしてほしいと考えています。今の主力商品は、数多く失敗をしてきたなかでの生き残りなんです。マーケットは需給バランスが決まっているので、トライアンドエラーをしない限り、いずれ飽和点に達してしまう。飽和する前に新たな取り組みを始めないといけないし、そのためにはもっと失敗が必要になります。

事業の安定期に入社する社員からすると、「安心して売れる商品があるし、先輩たちに教わった通りにがんばろう」と思うかもしれません。でも、こうした発想は衰退のはじまりです。挑戦して失敗しても、学びを得られれば、それは会社の未来につながる投資になります。

お金を理由に、「本からの学び」の機会を失ってほしくなかった

大賀:

御社では、社員が読みたい本の購入費用を会社が全額負担する「知の貯金箱」という制度を16年間継続されています。この制度をつくった背景にある想いを聞かせてください。

鈴木:

若いうちに、書籍にかけるお金を気にせず、読書によって自分自身の興味が広がる経験をしてほしいという願いがありました。私自身は社会人になるまでほとんど本を読んでいませんでした。読書遍歴のはじまりは20代後半のとき。経営学者ドラッカーの対談番組に引き込まれたのを機に、『マネジメント【エッセンシャル版】』や『チェンジ・リーダーの条件』などを読みはじめたらドハマりした。それからドラッカーの著書を制覇していきました。

読書は、興味のあるところに杭を打つ行為です。「これぞ」という一冊に出合ったら、その背景にある本や著者を掘り下げていくと、興味の対象が広がっていきます。あくまで最初の杭を打つことが重要なので、課題図書や推薦図書という形でジャンルを絞らないほうがいいと思いました。出発点は歴史小説などでもいいし、漫画も否定しません。そこから興味が広がればいい。

大賀:

「知の貯金箱」への社員の反応や利用状況はいかがですか。

鈴木:

2022年の利用状況を調べると、社員50人のうち7割強が制度を利用して、購入した本は合計3225冊。書籍費は400万円を超えました。1冊買った人もいれば80冊買った人もいる。社員一人にすると月額平均で9500円程度です。

一番本を読んでほしいのは20代の社員です。いかにはやくロケットスタートを切ってもらうか。ただ、仮に年収が400万円台で、おこづかいが月に3万円程度とすると、1冊2000円のビジネス書を買うのはなかなか難しい選択です。そんなとき、会社が書籍代を出せば、お金がないことを理由にして社員が「本からの学び」の機会を失ってしまうのを防げます。

成長のきっかけもスピードも人それぞれ。成長のタイミングは「気づき」があったときなので、興味を持ったら気軽に本を買ってほしい、と社員に伝えています。

大賀:

自ら興味をもった本だと吸収度が違ってきますよね。フライヤーも、要約を通じて少しでも興味を広げてほしいという願いを込めたサービスです。たとえば、一冊を読み通すことが前提だと、理解できるかどうかや読む時間をつくれるかが不安になり、読書のハードルが高くなってしまう。ですが、まずは本の要約を入り口にしてもらえれば、何かしら知識や知恵が得られる。そのなかで自分に合いそうな本があれば、自然とその本自体も読みたくなります。

学んだことがこれまでに得た知識や経験とつながっていく瞬間は、実にワクワクする瞬間です。そうした瞬間を味わうためにも、興味の足がかりは多ければ多いほうがいいと考えています。

鈴木:

たしかに、要約だと「タイパ(タイムパフォーマンス)」がいいから、今の時代、特に若い方には支持されると思います。

大賀:

フライヤーは時間対効果が高いと「タイパ」の文脈で紹介いただくことが多いのですが、実は、使っていくとますます本の多様な知にふれたくなり、利用時間が増えていくサービスでもあります。豊かな時間が増えることは本質的にタイパがよいと考えていて、今後も「より豊かな読書の道しるべ」をめざしたいと思っています。

社員の「尖り」が書棚から見える仕掛けに

大賀:

「知の貯金箱」は中長期的に、リブランの事業や企業文化にどのような影響を与えていますか。

鈴木:

社員同士のコミュニケーションに良い変化が起きていますね。たとえば読んだ本についてSNSの投稿があれば、その人の知識の背景が相手にも伝わりやすくなります。こういう価値観なのかと相互理解が進む。また、選ぶ本が違うからこそ、互いに刺激を与え合うような新たな関係性が生まれています。社員のおすすめ書籍は会社の本棚にストックしていて、地域の方に貸し出しをしているんです。

大賀:

お客様とも本を通じて交流が生まれるような知の空間がオフィスに広がっているのは素晴らしいですね。

鈴木:

お客様がリブランに期待するのは「異端」であること。会社の書棚は、尖った価値がどんな知識から生み出されているのか、その背景を見せる役割もあると思っています。一般的な不動産デベロッパーなら、土地の歴史や不動産投資の本が並んでいそうですが、意図的に土俵をずらして、リブランの社員の「尖り」がお客様に見えるようにしています。

これからの住宅は「クレイジーな存在」でないと生き残れない

大賀:

御社の社員は圧倒的な読書量を誇ると思いますが、読書の文化を土壌にして、今後会社をこんなふうに導きたいという方向性があればお聞かせいただけますか。

鈴木:

2023年4月にリブランの社長を退任したので、具体的なビジョンは次の社長にゆだねますが、これまでと異なったパラダイムの時代の到来を見据えなくてはいけないと考えています。2035年には東京都23区の人口がピークアウトを迎えて、減少トレンドになる。リブランが提供してきた異端の価値が通用するのも、その頃までです。

今後、新たなドメインにシフトするには、これまでにない「気づき」が必要です。気づきを生み出すためのカギは「知識」と「分業」。いかに知識を積み上げて、不完全で尖った人材を育てて、効果的な分業体制を築いていくかの勝負だと考えています。

大賀:

鈴木さんが社員一人ひとりの個性を大事にされているのが伝わってきました。これからの住まいはますます、趣味や嗜好が似ている人同士が集まるコミュニティになっていきそうですね。音楽が好きな人がミュージションに集まるように。

鈴木:

コミュニティはそうした方向へ舵を切っていますよね。これからの住宅は、玩具やアートのような存在になると考えています。高級で機能性の高い万年筆が、ステータスの象徴になっているように。

2035年の分岐点を見据えると、住宅もそうしたクレイジーで面白い存在になれないと生き残れない。本で得た知識が結びついて新たな気づきが生まれるまでは、熟成するのを待つしかない。その基礎体力を身につけるのが読書だと考えています。「知の貯金箱」の制度を活かして、社員が知識をストックして挑戦できるような後押しをしていきたいですね。


鈴木雄二(すずき ゆうじ)

株式会社リブラン代表取締役会長

1988年に株式会社大京に入社し、マンション事業用地の仕入担当。1992年に株式会社リブランへ入社し、2002年に同社代表取締役に就任。マーケットシェアを奪い合う分譲マンション業界で、同業他社とは同じ土俵で勝負しない経営スタイルを堅持。24時間、音楽漬けを可能とするマンション「ミュージション」の分譲、賃貸事業を行い、新たなマーケットの創造を行う。また、夏場でもエアコンに頼らないマンション「エコヴィレッジ」を開発分譲する。2003年に任意団体緑のカーテン応援団を設立。2007年には同団体をNPO法人化し、理事長に就任。2014年には一般社団法人スポーツ能力発見協会を設立し、副理事長に就任。全国の自治体と連携しスポーツ能力測定会を開催し、子どもの気付かない運動能力の強みを活かせるスポーツ種目の紹介などを行う。

著書には『本物マンション購入計画』、『満室賃貸革命』、『なぜ新築マンションには自然素材が使われないのか』『社史 しなやかに』がある。

1967年、東京生まれ。

文責:松尾美里(2023/06/06)