

営業職はあらゆる企業に必要であり、営業なくして事業は成り立ちません。ですが「営業」という仕事について学校の授業で習うことはなく、「頑張ってもなかなか成果につながらない」と悩んでいる営業担当者は多いのではないでしょうか。 本記事では、コカ・コーラのセールス日本一に輝き、営業の頂点に立った山岡彰彦さんのキャリアアップストーリーをまとめた『コカ・コーラを日本一売った男の学びの営業日誌』(講談社)から、営業先の開拓法についてお伝えします。
現在の営業は「組織営業」とも呼ばれ、複数の部署が連携して進めることも多くなりましたが、大半の商談はいまも一人で行われます。そのため営業は「自分で進めるもの」と捉えられがちで、営業のノウハウは属人的になってしまう傾向があります。「自分が見えている範囲=営業活動のフィールド」になってしまうことも少なくありません。
「営業スキルは、取引先との現場経験・商談で磨かれる」とよく言われます。それも一理ありますが、こういった昔ながらの考え方にこだわりすぎると、自分自身の足を引っ張ることになりかねません。

じつは私もその一人でした。取引先への売り込みが上手くいっても、その経験から得たものを誰かに教えようとか、自分の営業ノウハウを誰かに伝えようとか、こちらから誰かと協業して商談を進めようといったことを考えたことはありませんでした。
そんなある日、取引先のホテルの料理長から「司厨士(しちゅうし)協会」(※日本最大級の西洋料理人の会)を紹介されたのですが、これが大きな転機となりました。いままでの自分の営業に対する考え方がガラリと変わったのです。
もちろん顧客に提案し、それを採用してもらうことが目的であることには変わりません。ですがその手前にある「顧客をいかに創造していくのか」に焦点を当てることで、営業活動そのものが広がり、深みが増していくことに気づかされたのです。

司厨士協会の集まりにはじつに多くの方がやって来ます。レストランを経営している方、ホテルのシェフ、複数の飲食店を取りまとめている方……。同じ「食」の分野ながら、担っている役割はさまざまです。
もちろん集まった方たちすべてが、私たちの商材を「自らのビジネスに活かそう」と考えているわけではありません。ですが私は、そんな人たちに「コカ・コーラ社の商品・機材のことを理解していただき、顧客になっていただこう」と考えたのです。
私はこの会の場で、自社の商品を売り込むのではなく、礼儀を持って相手の話に耳を傾けるようにしました。会話では、相手が目指すものやそのために望むもの、時には現場での困りごとなどが話題にのぼりました。
ここでは誰もがざっくばらんに話してくださいます。とても力になれそうにない話から、私たちにとっては厳しい話まで一切の遠慮はありません。説教のような話を聞くことも何度もありました。
こういった状況は結構きついと思うかもしれません。でも、相手の本音や日々感じていることを話してくれることは、ありがたくもあり、少し心地良ささえ感じてきます。なぜなら彼らは私のことを「一緒に困りごとを考え、自分の仕事をサポートしてくれる存在」と見なしていると感じられたからです。
もちろん、私ができることは限られているので、わからないことは先輩や上司に相談して援助を求めました。司厨士協会の方々にとっては頼りない相談相手だったかもしれませんが、結果として、ここから多くのお客様が生まれることとなったのです。

営業は、お客様に対する活動がすべてだと思われがちですが、じつはその手前にある「顧客を創造する」という視点に立つことがもっとも重要です。その視点に立つことができれば、自分の営業の場が大きく広がっていくからです。
営業のノウハウというより、もっと奥底にある「相手の力になれないか」といったシンプルな思いだけでも良いのです。よく提案セールスやソリューション営業、インサイト営業といった言葉を耳にしますが、そもそも「相手」がいないことには営業活動自体が成り立ちません。
お客様を創造するきっかけは、社内や自分が近しくしているサークルや会合など、あらゆるところに存在します。まず、相手の話に耳を傾ける。そこから少しずつ歩みが始まります。「何かの役に立てれば」と真摯に思うことが、「顧客を創造する力」となるのです。

営業という仕事は、とても多くのものが学べる仕事です。学びというと学校の勉強をイメージするかもしれませんが、本当の“学び“とは、自分の成長につながることすべてではないでしょうか。毎日が学びの連続です。その中には不条理なものもあり、大きく落ち込むことも一度や二度ではありません。
お客様から相談を受けて一生懸命に考え、上司にお願いし、なんとか予算をもらった渾身の提案があっけなく断られる。一方で法外な条件を突きつけられたり、横から出された他社の提案にとって代わられたりと、やりきれないことが当たり前のように起こります。
しかし、その一つひとつが自分の成長の糧となるのです。いちいち落ち込む必要はありません。その渦中はとても耐えられないと感じますが、実体験から得た学びは「柱」となり、必ず自分を支える強い力になります。私は営業という仕事を通じて、このことを心から実感しています。
山岡彰彦(やまおか あきひこ)
株式会社アクセルレイト21代表取締役社長
1980年四国コカ・コーラ ボトリング株式会社に入社し、営業職に就く。
日本コカ・コーラ社主催の全国セールスフォースコンテストで第一位を獲得したことを契機に、全国のボトラー社から初の日本コカ・コーラ社への出向者となる。
その後、同社の教育機関で全国セールスマンの教育に携わり、グループ企業の経営企画室室長を経て、現在は複数の大学で講義、多数の日系・外資系企業で研修を行っている。