

学校で何年も英語を学んでいるのに、「英語は話せない」という日本人が多いのはなぜでしょうか? もしかしたら、遠回りをしているのかもしれません。 本記事では『日本人が「英語を話せない」たった3つの理由』(三笠書房)の著者・藤沢晃治さんが「英語ペラペラ」になる最短の道を伝授します。
英会話をモノにしようとしている人にまずお伝えしたいのは、世間に溢れる「甘い言葉に騙されてはいけない」ということです。
たとえば、英会話指南書と言えば、たいてい「これをやれば10日で英語ペラペラ」のようなものが大多数です。そんな甘い言葉に乗せられて、効率の悪い努力を重ね、いつまでたっても英語を話せない人が少なくありません。
特に多くの人が騙されているのが、「学校英語否定詐欺」と私が呼んでいるものです。
たとえば、次のような主張をよく耳にしませんか?
■学校英語は、英会話にはまったく役に立たない
■学校で習う英語は、現地では使われていない
■英語を話すのに文法なんて必要ない……
学校で何年も英語を勉強してきたはずなのに、外国人に道を尋ねられても片言の英語さえ出てこない。そんな現状を思えば、誰でもこう考えたくなるのは無理もありません。
しかし、もっともらしいこの考え方にこそ、じつは落とし穴が潜んでいるのです。
「文法を知っていても話せないなら、英会話に文法なんて必要ない!」という発想は、早とちりです。
これは「将棋の駒の動かし方を知っていても強くなれないなら、将棋の駒の動かし方を覚えることなんか必要ない!」というレベルの暴論なのです。

でも、こうした初歩的な勘違いを鵜呑みにする方々は意外に多いものです。そのような方々を、私は学校英語の「全面否定派」と呼んでいます。
私自身も「日本人が英語を話せないのは、学校の英語教育のせいだ」という考えには大いに賛成です。ただ、「学校英語は英会話に全く役立たない」という主張には賛成しません。私は、「英会話をマスターするには、学校英語には不足部分があるだけ」と考えるからです。
ですので、私は自身のことを学校英語の「部分否定派」と称しています。そして、私が感じる学校英語の「不足部分」こそが、「日本人が英語を話せないたった3つの理由」と考える次の「3点の不足」なのです。
【1】音声語彙力の不足
【2】発信力の不足
【3】反射力の不足
日本では「全面否定派」が多数派で、私のような「部分否定派」は少数派です。だから英語を話せない人が多いと私は考えますが、その理由はなぜだと思いますか?
結論から言いますと、学校英語の「全面否定派」は英会話をマスターするまでの距離が遠く、「部分否定派」はその距離が近いからです。
英語ペラペラになることを「山の頂上まで登ること」にたとえてみましょう。頂上に到達できれば、めでたく英語ペラペラ達成です。
学校で習った受験英語は会話にはまったく役立たないと考えるのが「全面否定派」です。登山のスタート地点は当然、地上の「登山道入口」辺りでしょう。
一方、部分否定派は、「学校英語には不足がある」と考えているのですから、あとは「学校英語の不足点を補うだけ」。つまり、登山を決意した時点ですでに「山の七合目」辺りに立っていることになります。圧倒的なアドバンテージがあるわけです。
学校英語を「英語ペラペラには不要な知識」と見るのか、それとも、「英語ペラペラには欠かせない基礎知識」と見るのか――。
この認識の大きな違いこそが、英語ペラペラを達成するまでの労力の大きな違いを生みだすのです。

先ほど、日本人が英語を話せない理由として、3点の不足を挙げました。
【1】音声語彙力の不足 【2】発信力の不足 【3】反射力の不足
この中でみなさんに聞き慣れないのは「音声語彙力」という言葉でしょう。私の造語ですから当然です。
まず、英語学習での「語彙」という言葉の復習をしておきましょう。
「語彙」とは、ある人が知っている英単語の総量のような意味でした。「語彙力がある」と言えば、「知っている英単語の総量が多い」のようなニュアンスです。そして、私が言う「音声語彙力」とは、簡潔に言えば音声面での語彙力、単語力を意味します。
ところで「1つの単語を覚える」、つまり「1つの単語をマスターする」とは、私たち日本人にとってどのような意味なのでしょうか。
たとえば、あなたは「犬」を意味する英単語「dog」をマスターしていますか?
おそらくほとんどの人の答えは「Yes」でしょう。
では、「dog」をマスターしているとはどのような状態を指すのでしょうか?
それは、dogに関して「読む」「書く」「聞く」「話す(発音する)」の4つをすべてクリアした状態のことです。これを私は「完全語彙」と呼んでいます。「聞く」「話す(発音する)」という音声の世界(英会話)でも使えるので「音声語彙」とも呼んでいます。
逆に、「読む」「書く」「聞く」「話す(発音する)」のうち、「読む」と「書く」の2つしかマスターしていないものがあれば、その語彙は「不完全語彙」と呼びます。英会話には使えず、「読む」「書く」という文字の世界だけの語彙なので「文字語彙」とも呼んでいます。
あなたが「Do you have any アラジー?」と英語のネイティヴに尋ねられ、意味がわからなかったとします。
この場合、この「アラジー」という英単語は、前述した4つのうち少なくとも「聞く(聞いてわかる)」の能力を欠いていたことになります。したがって、この単語はあなたの完全語彙とは言えないことになります。
小・中学校で英語の最初の授業を受けたときから、私たち日本人が「1つの英単語を覚えた」と言う場合、たいていその「単語の意味とスペルを覚えた」だけでした。
もちろん、発音も一緒に覚えたりしますが、発音のほうは、スペルほど厳格には覚えてこなかったのです。学校のテストで問われるのはあくまでスペル中心で、発音の習得に関しては、それほど厳格にチェックされてこなかったからです。

日本人が知っている平均的な文字語彙量は国際的には比較的多いのに対し、音声語彙量は少ないのが特徴です。そのため、英文を見たらある程度スラスラ読めるのですが、まったく同じ英文が耳から入って来ると、音声語彙力が足りないのでまったく意味がわからない、という事態になるのです。
「little」のような中学英語でさえ、普段、「リトル」のように発音している方には、「リロー」のように発音される英語音が聞き取れないわけです。
もうおわかりになったと思いますが、英会話に使えるのは音声語彙(完全語彙)だけなのです。入試のために覚えた文字語彙(不完全語彙)がいくら多くても、英会話にはまったく使えないのです。
では、【2】の「発信力」はどうでしょう。
英語の読む・聞く能力が「受信力」。「発信力」はその逆で、書く・話す能力です。
歴史的背景として、明治維新以降、日本の英語教育の主目的は「(当時の)先進国である欧米の文献から読んで学ぶこと」でした。ですから、日本の英語教育が歴史的に「読み取る力」偏重だったことは仕方ありません。
とは言え、最近は双方向でのコミュニケーション能力が重視されつつあります。会話用の教科書も出てきました。それでも長年の伝統のせいで、「発信」方向ではまだまだ付焼刃の印象を免れません。
特に生徒の習得程度をチェックする試験では、まだまだ、書く・話すの「発信力」をチェックする部分は少量です。ですから、明らかに「発信力」も学校英語の不足部分なのです。
最後に【3】の「反射力」に関してはどうでしょうか?
「反射力」とは、英語をスピーディーに読んだり聞いたりして理解できる能力です。加えて、伝えたい意図に該当する英語表現をスピーディーに思いつく能力のことです。
これは英文法などの原理を学んだ後、スポーツのように練習を繰り返すしかありません。

英会話の習得を水泳にたとえるなら、文法学習は、教室でクロールの泳法やアルキメデスの浮力の原理などを学ぶことでしょう。一方、英会話に必要な反射力を養うのは、実際にプールに入っての水泳実習です。
ところが、これは仕方のないことですが、英語と日本語は言語間距離が大きいため文法を教えるだけでかなりの時間を要します。
水泳にたとえると、教室で水泳の原理を教えるだけで時間切れになってしまい、プールでの水泳実習に割ける時間が残っていないということです。多くの日本人はプールで実際に泳いだことも、まして泳ぐ練習もしたことがないのです。
これが多くの日本人の英会話力の実態です。つまり、「反射力」も明らかに学校英語の不足点なのです。
長年、英語への挑戦を続けてきたにもかかわらず、目に見える成果が上がらないことは苛立たしいことです。こうした苛立ちは、多くの日本人が共有する国民的課題と言えるでしょう。
アジアの中でも日本人の英会話力がなぜ突出して低いのか。この謎を解く鍵も、実は、【1】音声語彙力の不足、【2】発信力の不足、【3】反射力の不足という3点の不足の中に潜んでいます。これら学校英語の不足をピンポイントで補填すれば、最短時間で英語ペラペラにたどり着けるのです。
英語学習法をいろいろ模索するのは、そろそろ終わりにしませんか?
学習量を減らして「日本人が英語を話せないたった3つの理由」の解消だけに専念すれば、最短時間で「英語を話せる人」に生まれ変わることができるでしょう。
藤沢晃治(ふじさわ こうじ)
慶應義塾大学卒業。管理工学を専攻し、卒論では、AI(人工知能)をテーマとしてチェスを指すプログラムを作成。卒業後、外資系大手メーカーでも専攻を活かしてソフトウェア・エンジニアとして勤務。在職中に執筆した3部作『「分かりやすい説明」の技術』(講談社)などが合計65万部を超えるベストセラーとなる。日本テレビ系の教育バラエティ番組『世界一受けたい授業』にも講師として出演。その後、メーカーを退職して独立し、講演、企業向け研修などを中心に活動。社会人になってから独学で英語を習得し、英検1級、通訳ガイド資格、TOEIC900点、EPT英語発音検定(指導者レベル)、工業英検1級(現在の「技術英検プロフェッショナル」)などの資格を持つ。著書として『新装版「分かりやすい表現」の技術』(文響社)、『「分かりやすい文章」の技術』(講談社)など多数。