バーンアウト(燃えつき症候群)を考える
ビジネスの場で注目される「いま、読んでおきたい6冊」

ランチタイムの短い時間に「知的筋力」を鍛えるフライヤーの「Lunch timeビジネスワークアウト」ウェビナー。2021年12月7日(火)のお昼の時間帯に第15回が行われ、今回もたくさんの方がご参加くださいました。
メインスピーカーは株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリストの荒木博行さんです。本記事では、当日の様子を再構成してお届けします。
荒木博行:
荒木博行:本日のテーマは、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』の7月号で特集されるなど、近年注目を集める「バーンアウト(燃えつき症候群)」です。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』の同特集では、同志社大学の久保真人教授が、バーンアウトについて次の3つのフレームで説明していました。
・情緒的消耗感:気を使いすぎて疲れ果てた状態
・脱人格化:無情で非人間的な行動が散見される状態
・個人的達成感の低下:自己肯定感が下がり、自分で何かをやり終えたという達成感がなくなる状態
コロナ禍において、テキストベースのやり取りが急激に増えた方も多いはず。意図した通りに伝わらず気を揉んだり、何気ないやり取りに傷ついたり……こうしたことからも「情緒的消耗感」を抱くことがあるのではないでしょうか。
私は、それまでのやり方を変える必要に迫られたときにバーンアウトが起こりやすくなるのではないかと考えています。リモートワークやDXといった働き方、戦略の変化は、バーンアウトを生み出す可能性があります。
自分がバーンアウトに陥らないためにどうすればいいのか、部下のバーンアウトを防ぐには――この視点から、flierで配信されている6冊の要約をみていきましょう。
1.『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』


1冊目の『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』(本田秀夫、ダイヤモンド社)では、「対人関係の悩みを解決するためのポイントは、『協調性』より『ルール』を優先すること」「対人関係で『しなくていいこと』を手放すためには、『人の評価を気にしすぎない』という点も大切」と書かれています。
最低限のルールを守ることを優先し、それ以外の判断は手放す――がんじがらめになっている人に、まずやってみてほしいことです。
ポイントは、メタ認知すること。自分の中に閉じこもっていると「相手はどう思っただろう」「嫌われてしまったかもしれない」などと、考えなくてもいいことばかり考えてしまうもの。
メタ認知によって状況を俯瞰すると、「どうでもいいことばかりだ」と気持ちが楽になるかもしれません。
ポイント:他者の評価から離れてみよう
2.『精神科医が見つけた3つの幸福』


2冊目は『精神科医が見つけた3つの幸福』(樺沢紫苑、飛鳥新社)です。本書はタイトル通り、次の「3つの幸福」をテーマにした一冊です。
・心身の健康に関する「セロトニン的幸福」
・つながりと愛情に関する「オキシトシン的幸福」
・成功や達成による「ドーパミン的幸福」
そのうえで著者は、「セロトニン的幸福>オキシトシン的幸福>ドーパミン的幸福」という優先順位を守ることが重要だといいます。
一般的に優先されがちなのは、すぐに幸福感を得られる「ドーパミン的幸福」。一方で「セロトニン的幸福」と「オキシトシン的幸福」は、すぐに結果が出ないため、後回しにされがちです。
優先順位を誤ると、バーンアウトを引き起こしかねません。まずはあなたの優先順位を見直してみていただければと思います。
ポイント:セロトニン的幸福を優先せよ
3.『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』


次は「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」でイノベーション部門賞を受賞した『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(堀内都喜子、ポプラ社)です。本書によれば、フィンランドでは、多くの人が8時から16時で勤務しているそう。誰かがまだ仕事をしていたとしても、自分の仕事が終わればキッパリ退勤します。
日本ではまだまだ、自分の仕事が終わったからといって、先に帰りにくい雰囲気がありますよね。
空気を読み、周囲に気を遣うのは、日本人の美徳でもあります。それでも「最低限のルールさえ守っていれば、どう評価されてもかまわない」「評価は他者がするものだから、いくら悩んでも仕方ない」というマインドセットを持って、自分の心身の健康を優先させてほしいと思います。
ポイント:人は人。自分は自分。
4. 『残業学』


4冊目は『残業学』(中原淳/パーソル総合研究所、光文社)。ここからは「組織でバーンアウトを生まないために」といった視点で、管理職の方の参考になりそうなエッセンスをご紹介できればと思います。
著者は本書で、日本で残業文化が根付いた背景に「時間の無限性」と「仕事の無限性」があると指摘します。時間の無限性の原因は、法規制の実効性の乏しさ。そして仕事の無限性の原因は「仕事の相互依存性」、つまり「個人の仕事の範囲がはっきりしておらず、責任範囲が不明瞭になっているということ」にあるといったことが書かれています。
たしかに日本では、個人の仕事の範囲が明確ではない職場が多いかもしれません。自分の仕事が終わったとしても「自分の責任範囲を終えられていないのでは」という気持ちになって、定時に帰れない――そんな空気を生んでいるように思います。多すぎる残業によるバーンアウトを防ぐために、「仕事の相互依存性」に目を向けてみませんか。
ポイント:仕事の相互依存性を断ち切れ
5.『課長2.0』


『課長2.0』(前田鎌利、ダイヤモンド社)では、部下の状況を把握するために有効な問いかけとして「楽しい?」を挙げています。
状況を確認したいとき、上司はつい「うまくいってる?」「問題はない?」などと直接的に聞きがちです。しかし部下からすると、こうした質問は、進捗確認をされているようで答えにくいもの。一方で「例のプロジェクト、頑張ってくれていますね。どう? あのプロジェクトの仕事って楽しい?」といった聞き方なら、軽く答えられるでしょう。
このとき気を付けたいのは「言葉」ではなく「表情」に注目することだと著者はいいます。部下が「楽しい」といいながらも浮かない表情をしているようなら、さらなるコミュニケーションを取ってみる必要がありますよね。
ポイント:メンバーが話しかけやすい空気を生み出せ
6.『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』


最後に紹介するのは、『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』(越川慎司、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。トップ5%の「デキる」リーダーを調査し、その行動習慣を明らかにした一冊です。
本書において、トップ5%リーダーは「やる気がなくてもタスクが遂行されるようにプロセスを設計している」といったことが書かれています。具体例として挙げられているのは、作業を45分刻みにして体力と精神の疲弊を防ぐ、少し高いゴールを設定する、進捗20%でチェックポイントを設けて差し戻しを減らす、など。
5%リーダーは、個人のやる気よりも組織としての仕組みに目を向けていることがわかりますね。やる気の有無にかかわらず、誰もがスムーズに成果を出せるような仕組みを考えてみましょう。
ポイント:やる気をあてにするな
6つのポイントからバーンアウトについて考えてみよう

ここまで、バーンアウトを考えるための6つのポイントを紹介してきました。
今日の「ビジネスワークアウト」として、みなさんにもぜひ自分に当てはめて、バーンアウトについて考えてみていただければ幸いです。もしご自身や同僚、部下などの様子に心当たりのある方は、ぜひ専門家にご相談ください。
flierのゴールドプランに登録すると、今回紹介した本の要約を含め、flierで公開されているすべての要約が読み放題になります。この機会にぜひご利用ください。
「Lunch time ビジネスワークアウト」は、今後も定期的に開催予定です。次回もお楽しみに!
荒木博行(あらき ひろゆき)
株式会社学びデザイン 代表取締役社長、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリスト、株式会社ニューズピックス NewsPicksエバンジェリスト、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、株式会社絵本ナビ社外監査役、株式会社NOKIOO スクラ事業アドバイザー。
著書に『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』『見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)など。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。