人材育成のプロ厳選! 世界の偉大なリーダーから生き方を学ぶ6冊
渋沢栄一、コリン・パウエル...リーダーの遺した言葉

世界で活躍する偉大なリーダーたち。優れたリーダーシップを発揮してきた偉人たちの遺した言葉は、現代を生きるわたしたちに生き方のヒントを与えてくれます。
今回は、長年人材育成や経営戦略支援に携わってきた荒木博行さんに、世界の偉大なリーダーから学ぶ、生き方のヒントがもらえる本を6冊紹介していただきました。
みなさんは偉人の本を読みますか? 自分とは違う経験を持って生きている偉人の言葉は、ビジネスにとって大事な視点、生きるヒントを与えてくれます。今回は、国内外の偉大なリーダー6人の言葉をみなさんにお届けしたいと思います。
逆境に置かれた時に思い出したい『渋沢百訓』


渋沢栄一先生の『渋沢百訓』には、順境・逆境という言葉が出てきます。どんなに真面目に努力していても社会の風潮や周囲の事情によって、逆境に立たされてしまうことがあると渋沢先生はいいます。渋沢先生自身も、幕臣としてフランスに渡航し帰国したら、幕府が滅んでいたという想像を絶する逆境を経験しています。
そんな逆境に立たされてしまったらどうするべきか。渋沢先生は「自己の本分と覚悟して天命を受け入れることだ」と説いています。「人間の力で何とかなるものと考えたら、苦労の種を増やすばかり」だともいうのです。
私自身は、ここまでの真の逆境に立たされたことはないのですが、自分の経験の中での逆境で考えると、そこでの選択が自分の人生を変えてきたという感覚があります。でも、逆境を自分の力で乗り越えたと捉えるのは、思い上がりなのかもしれません。本当の逆境は、そんな人間の力すらはねつけてしまいますから。新型コロナウイルスの感染拡大で、逆境に直面せざるを得なかった人がたくさんいると思います。人間にできるのは、そんな状況でも腐らずに、天命を待ちながら努力を続けることだけなのかもしれません。
連帯の大切さを教えてくれる『私の仕事』


『私の仕事』は、1991〜2000年に日本人として初めての国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんの日記やエッセイをまとめた一冊です。国内、海外のように「内」と「外」を分けて考えがちな日本人の様子を目の当たりにしてきた緒方さんは、遠い国の人々に対して「ソリダリティー(連帯)」を感じることが大事だと指摘しています。
近年、多様な人材を活かし、価値創造に繋げようとする「ダイバーシティ経営」の重要性が認識されるようになってきています。ダイバーシティ経営に向き合おうとすると、人の違いばかりが目について、自分とは違う人を排除したいという気持ちが生まれてしまいます。これは、人間の本能的な、最初のリアクションだと思います。
同じ会社の中にいる人ですら、年齢や性別、役職などのわかりやすい特徴で分けて連帯感を持とうとしてしまいます。でも、大切なのは一見違うように見える人同士で、同じところを見つけることではないでしょうか。たとえば、本が好きなところは同じだ、ということがわかれば、そこから違いを楽しむこともできます。たとえばそんな姿勢が、「ソリダリティー」という考え方を具体化したものなのかもしれません。
元国務長官のリーダーシップを知る『リーダーを目指す人の心得 文庫版』


続いては、コリン・パウエル元国務長官の経験談をまとめた『リーダーを目指す人の心得 文庫版』を紹介します。パウエル氏は、責任ある立場である人ほど、交代の人員を常に準備し、離任する時はきっぱりと組織から離れなければいけないと語っています。
この考え方は、壮絶なジレンマを生みます。多くの人は自分だけしかできない仕事を作りたいと思うものですが、一方でそのままであれば業務が属人化していき、ずっとその仕事をやり続けなければいけません。それでは、組織もその人自身も成長は見込めなくなります。
属人化した仕事があったら、そのナレッジを周囲に共有し、他の人に渡すようにする。そうすれば、その人は次のステージに移動し、また新しく自分にしかできないことが見つかるはずです。それがパウエル氏の語る言葉の意味なのでしょう。実際に実行するのは難しいことですが、いつでも仕事を手放す準備をしておくという気持ちでいたいものです。
天を敬い、人を愛する『西郷南洲翁遺訓』


明治維新の立役者であり、現在でも絶大な人気のある西郷隆盛が大切にした言葉は「敬天愛人」です。ちっぽけな人間の世界にこだわらずに、天が他人も自分も区別なく公平に愛してくれるように、私たちも自分を愛する心を持って他人を愛すべきだというのです。
『西郷南洲翁遺訓』は薩摩藩と対立していた、庄内藩の関係者が西郷から聞いた言葉をまとめたものです。西郷は支配した相手にまで、そのリーダーシップを認められていたということですね。
経営者やリーダーは、ややもすると自分の実績にばかりこだわるものですが、それが行きすぎると運や縁、周囲の人たちの力に支えられているという感覚を忘れてしまいます。リーダーにこそ、改めてこの言葉の意味を理解し、そして他人を愛する心を持っていてほしいと思います。
「サービスが先、利益は後」『ヤマト正伝』


「クロネコヤマトの宅急便」は、1976年にヤマト運輸社長であった小倉昌男氏が生み出しました。『ヤマト正伝』は、小倉氏の後任の社長たちが、どのように「小倉イズム」を受け継ぎ実践してきたかが書かれています。
ヤマトグループが最も大切にしている言葉は、「サービスが先、利益は後」だそうです。たとえば、1986年にクール宅急便を開発している際には、実現のための課題が山積みで、設備投資もかさむにもかかわらず、小倉氏は泰然と構え、利用者目線を貫きました。お客様の立場でサービスを考えれば、利益は後からついてくると信じていたのでしょう。
ビジネスでは、質の向上と利益の追求は相反する瞬間があります。しかし、そんな矛盾を解決するのは、時間軸です。長い時間軸で考えれば、矛盾ですら両立しうるのです。この時間軸を長く取る目線こそが経営の本質だと私は思います。
たとえば30日限定の経営を考えれば、ひょっとしたらお客さんをだましてでも利益を追求するという視点になるかもしれません。でも、100年続く会社を作ろうとしたら、質を向上することでやがては利益につながる、という目線に立つことができるのでしょう。
自分だけの道を歩む『道をひらく』


最後は、経営の神様・松下幸之助氏がPHP研究所の機関誌「PHP」に寄稿した文章をまとめた『道をひらく』です。人には自分にしか歩めない道があります。自分のいる道がよいか悪いかわからなくても、心を決めて歩みつづけることで、与えられた道をひらくのだと松下氏は説きます。
自分のやっていることが合っているのかどうか。時には悩んだり、他のものに目移りしてしまいそうになることがあります。それでも、心を奪われたりせずに、道をひらくためには歩み続けるしかないのです。
以上、世界の偉大なリーダーから生き方を学ぶための6冊を紹介してきました。みなさんにとって、意味のある言葉が見つかれば幸いです。
※本記事はフライヤーの「Lunch timeビジネスワークアウト」ウェビナーの内容を再構成しています。
荒木博行(あらき ひろゆき)
株式会社学びデザイン 代表取締役社長、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリスト、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、株式会社絵本ナビ社外監査役、株式会社NOKIOO スクラ事業アドバイザー。グロービス経営大学院副研究科長を務めるなど人材育成・指導の分野に20年以上携わる。
著書に『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』『見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)など。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。