
読書が自己啓発、スキルアップ、成長、キャリアアップのために重要であることはわかっていても、これまで本を読む習慣がなかった人には、一冊を読み通すことだけでもとんでもなくハードルが高く感じるものです。 そうした人でも安心して読書の道を歩み出せるよう、何を読めばいいのか、どう読めばいいのか、読んだものをどう考えていったらいいのか、読書法を教えてくれる本はたくさんあります。 近著『自分の頭で考える読書』を執筆された荒木博行氏は、音声メディアVoicyで本についての発信を毎日されている読書家でもあります。その荒木さんが、読書の必要性はわかっていてもなかなか一歩を踏み出せないあなたにぴったりの、おすすめの6冊を紹介します。
※本記事は、フライヤーの「Lunch timeビジネスワークアウト」ウェビナーの内容を再構成しています。


さまざまな要素を紙1枚に凝縮する意義とメリット、テクニックについて伝え続けている浅田すぐるさんが、読書についても同様のアプローチで迫った一冊です。
この本は、「いまの時代に読書は必要なのか」という問いから始まります。高度に情報化された現代社会では多種多様な情報に触れることができますが、このデジタル全盛の時代においては、「漫然と生きていると、浅いファスト思考ばかりがどんどん強化されていってしまう」と浅田さんは書きます。だからこそスローな思考が大事だというわけです。
このファスト思考とスロー思考は、ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』(早川書房)に出てくる思考法です。「ファスト」は「とびつき」思考であり「浅い」思考、「茫然」思考、「スロー」は「めんどくさい」思考であり「深める」思考、「没頭」思考を指します。
どういうことか、ちょっと具体的に考えてみましょう。何か調べたいもの、追究したいテーマがあったとき、私たちはスマホですぐググれる。考えずに答えを出してくれる機械が目の前にあります。ググると同質性の罠にはまっていってしまう。自分の頭を使うことはありません。個人の発想のユニークさ、考える力がなくなっていく。これが「ファスト」思考の危険性です。
一方スマホがない時代には、人に聞いたりしていたはずですし、人によって回答がバラバラになることもあったでしょう。だから、答えが出ない状態を甘んじて受け入れ、自分で考えなくてはならない。そうすると、自分のなかでいろいろな問いが浮かんできて、それに対して自分なりの答えを出していくようになる。これが「スロー」な状態なのです。この思考法はある意味で情報化時代に逆行しています。
本は、デジタルな情報をシャットアウトして、自分のなかに没入しながら、考える力を鍛えるツールなのではないか。浅田さんはダニエル・カーネマンの「ファスト」「スロー」をヒントに、そう読み解いています。


ビル・ゲイツ氏、孫正義氏など世界を代表する経営者は読書家としても有名です。なぜかれらは熱心に読書するのでしょうか。『読書大全』において著者の堀内勉さんは、「単に『知識を得る』目的だけではない。ビジネスリーダーや人間としての『洞察力』を高めるためなのである」と述べます。
そのためには、困った時にすぐ使える解決法を提示してくれるノウハウ本ではなく、人間として成長させてくれる良本が必要になってきます。堀内さんは、「私たちは自分自身を知るために、終わりなき旅を続ける旅人である」と書きます。読書を指針にすれば、その旅から自分だけの答えを見つけることができるかもしれません。
私が最近書いた『自分の頭で考える読書』では、本には3種類のパターンがあると定義しました。新たな問いを与えてくれる本、問いに対する新たな答えを与えてくれる本、問いと答えを確認してくれる(確信を与えてくれる)本の3つです。確信を与えてくれる本は楽ですよね。自分のあり方を確認していくうえでもこうした本はとても大事ですが、そればかり読んでしまうとエコーチェンバー(自分と似た意見が繰り返されて、それがあたかも一般的なものであるかのような感覚になる状態)に陥ってしまう。問いは同じだけど答えが違う、となると、自分のなかで咀嚼するにはエネルギーがかかる。問いすら考えたこともなかったものであれば、最もリソースを消費します。
では、このような「新たな問い」は経営の文脈で必要なのでしょうか。経営者も、無意識でいると既存の問いと答えのループ構造に陥ってしまいます。そうなると、あたりまえを疑えなくなり、見えないところから足元を掬われることになるのです。そのために、意識的に、新たな問いを仕入れなくてはなりません。そのために、堀内さんの言うところの「良本」の読書が必要なのです。


「せまい専門分野の本ばかり読んでいると、クリエイティブな発想ができなくなり、どんどん模倣的になっていく」。大ベストセラーである『思考の整理学』の著者、外山滋比古さんは『乱読のセレンディピティ』でそう書きます。軽い気持ちで次から次へと読み飛ばしたもののなかから、意外なアイデアが浮かぶものです。だから、『乱読のセレンディピティ』ではいろんな分野の本の乱読を勧めています。「セレンディピティ」とは思いがけないことを発見する能力のこと。乱読はそれを誘発するというのです。
ところで、本屋さんには偶然の出合いがいっぱいありますよね。ネット書店ではキーワード検索による目的買いが多いですが、町の書店では「理由はわからないけどつい買ってしまった」という出合いがあります。そして、そこから意図していない発見がある。だからこそ、乱読のためには本屋に行くことは欠かせません。本屋に行きたい、予想外の本に出合う。そしてそこから展開する乱読によって新たな知に出合う。それってとても楽しいことだと思います。
![戦略読書[増補版]](https://static.flierinc.com/summary/2373_cover_300.jpg)
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興味関心に従ってただただ読んでいくと、偏りが出てくると思います。そこに指針が必要だと感じたら、三谷宏治さんのこの本がおすすめです。三谷さんのこだわりある読書術を身につけることができるでしょう。
経営戦略の本質は、どの事業に限られた資源を振り分けるか、というリソース配分にあります。そして、そのリソース配分は、当然ながら事業の状況や時期、時間とともに変わっていきます。
読書もこれと同じで、社会人1年目と2年目では資源配分(読むもの)が変わっていきます。「動的で段階的な読書こそが、ムダのないリターンを生む」と三谷さんも書いています。
三谷さんが提案する「読書ポートフォリオ・マトリクス」は横軸を「ビジネス度」としてビジネス系(左)と非ビジネス系(右)、縦軸を「基礎度」として基礎(下)と応用・新奇(上)に設定した2×2のマトリクスで、読む本や雑誌がどこに位置づけられるか考えます。ここでいう「ビジネス」とは「現状、仕事をしている分野」のことで、将来の仕事や願望に関わるものは「非ビジネス」になります。
一般的には「ビジネス基礎」に分類できるノウハウ本の比率が高くなる傾向にあると思いますが、マトリクスの他の象限の本も読んでポートフォリオを豊かにしていこう、というのが三谷さんのアドバイスです。これは戦略論と同じですよね。自分を変えたい時には、非ビジネス系の本に思いっきり偏ってみることもあり得ます。意図があるなら偏ってもいいのです。このようなポートフォリオを意識するだけで、選書の方針は変わっていくでしょう。


そうしていろいろな本を読んでいると、「ある日突然、自分自身がグーグルマップになったような感覚が得られる」と書くのは、『未来のきみを変える読書術』著者の苫野一徳さんです。「大量の読書経験は世界の見え方を変えてくれる。『教養を積む』とは、そういうことだ」とも書いています。
そうして教養をクモの巣のように張り巡らせていれば、突然そのネットワークに電流が走って課題の最適解を見出せる瞬間が訪れる。そのような経験はないでしょうか。
私も、「スノードーム理論」というものを『自分の頭で考える読書』で書きました。スノードームは、シェイクするたびに雪の舞い方がいろいろに変わって、その度ごとに新しい図柄が見えてきます。同様に、読んだものが脳の中にスノードームの雪のように沈殿しておくことができれば、刺激があったときにそれらが浮き上がってアイデアとしてつながることがある。この「ひらめいちゃった」という快感が好きで、人は本を読むのかもしれません。
この幸せな感覚が楽しめるようになってくると、本の楽しさがより深く感じられるはずです。


とても大胆に見える書名ですが、要するに「存在するすべての本を読むのは不可能」であり、「教養があるかどうかは、なによりも自分を方向づけられるかどうかにかかっている」ということを書いています。本が自分のなかのどこに位置づけられるかをわかっていることが大事なのです。
「この本を読んだことがありますか」と質問されて、すべてに「読んでいます」と答えるのは難しい。読んでいないことに気後れを感じる必要はないのです。ビジネスパーソンの読書量は1カ月に1、2冊いけば良い方だと思います。そうすると、1年でマックスで24冊程度。この数は、1年間で刊行される本の総量からすると、ほぼゼロに近いわけです。これは、1カ月に30冊読む多読家の人であっても、本という大海のなかでは「大半を読んでいない」という意味では五十歩百歩です。
だから、読んだのかどうかよりも、どういう知恵の体系が自分のなかにあって、どの本がどの棚にあるかという見取り図を理解していることが重要なのです。『読んでいない本について堂々と語る方法』の著者、バイヤールはこの見取り図を「共有図書館」と表現しています。人間の知恵を図書館とすると、そこの棚はどういうレイアウトで配置されているのか。目の前の本がどの棚に置かれるかを理解できることが大事なのだ、というメッセージです。
そうして脳のなかにマップを作るのは大切です。「体系化した知恵」を地図にして描き出してみましょう。その地図上で、自分が読んだことのある場所を塗りつぶしていく。きっと楽しいと思います。
今年もまたいい本に出合える一年になることを願っています。フライヤーを通じていろいろな本が紹介されていきますので、どうぞお楽しみに。
荒木博行(あらき ひろゆき)
株式会社学びデザイン 代表取締役社長、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリスト、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、株式会社絵本ナビ社外監査役、株式会社NOKIOO スクラ事業アドバイザー。グロービス経営大学院副研究科長を務めるなど人材育成・指導の分野に20年以上携わる。
著書に『自分の頭で考える読書』(日本実業出版社)、『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』『見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)など。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。