【flier×日経ビジネス 現代をより深く知るための3冊】
働き方改革で増殖する「ゆるブラック企業」

要約を通してビジネストレンドに気軽に触れることができる、flier×日経ビジネスの「現代をより深く知るための3冊」。今回のテーマは、日経ビジネス読者の注目を集めた特集「ゆるブラック企業」です。
働き方改革でいわゆる「ブラック企業」は減っているように思われますが、その一方で増えているのが「ゆるブラック企業」です。労働時間は減って、一見ホワイトに見えるけれど、社員がやりがいを感じられる仕組みまでなくなってしまった。仕事が「ゆるい」だけで、ブラック企業と変わらない——。フライヤーの要約からは、意義のある働き方改革を実現する助けになる書籍をピックアップしました。
みなさんは「ゆるブラック企業」をご存じでしょうか。従業員に長時間労働を課し、パワーハラスメントなどの行為がある、いわゆる「ブラック企業」とは異なります。
日経ビジネスは特集「ゆるブラック企業」(雑誌版は11月15日号特集として掲載)で、働き方改革の陰で増えている、ゆるブラック企業について取り上げました。
ゆるブラック企業とはどのような企業を指しているのでしょうか。日経ビジネスの特集では次のように説明しています。
政府が雇用・労働分野の成長戦略と位置づけ取り組んできた働き方改革。2019年には働き方改革関連法が施行され、長時間労働の是正に向けた取り組みは加速。社員の健康や安全を守る制度も整備され、多様な背景・属性を持つ人材への配慮も進んだ。だが、多くの企業では社員のモチベーションは必ずしも上がっていない。背景にあるのは「不完全で中途半端な働き方改革」だ。様々な手法で労働時間を削減し見た目こそホワイト企業になったものの、社員がやりがいを感じる仕組みまで社内から消えた──。そんな会社も少なくない。「ブラック企業ほど忙しくないが、ブラック企業と同じように成長を感じられない。これではまるで“ゆるいブラック企業”」。若手社員からはこんな声も聞こえる。
なぜ、ゆるブラック企業が増えているのでしょうか。特集では2016年に大手化学メーカーに入り、現在は別の企業で働く京子さん(仮名)のケースを紹介しながら、その背景に迫っています。
化学メーカーに入社した後、人事部に配属となった京子さん。仕事を一通り覚えた頃、社内で働き方改革が本格化したそうです。「安全で明るい職場」をスローガンに、サービス残業や休日の作業を前提とした資料作成、休日メールなどを削減するため、様々なルールが導入されていきます。京子さんも当初は「やりがいを高める上でとてもいいことだ」と思っていたそうです。
しかし、改革が軌道に乗るにつれて違和感が芽生えました。午後6時には何としても仕事を終わらせ、会社を退社しなければなりません。「残業は1分単位で管理される。この管理があまりに厳格で、乱暴に言えば“仕事はどうでもいいからとにかく早く帰れ”という上からの意思をひしひしと感じた」(京子さん)。部下の有給休暇取得率などが組織長の人事評価に反映されるという新ルール導入の“成果”でした。
新入社員向けの研修プログラムを提案しても「残業が増えてしまう」という理由で、アイデアは却下されてしまいます。働き方改革以降、同じ作業の繰り返しばかりで、ゼロからイチを生み出す工程には携わっていないと京子さんは感じました。数年後も成長していないのではないかと不安を抱いた京子さんはコンサルティングファームへの転職を決断しました。
働き方改革を推し進め、いわゆるホワイト企業が増えたはずの日本の産業界。だが、一部企業の現場の若手社員は、そう受け止めてはいない。成長が感じられず、働きがいが低下した結果、多くの企業がゆるブラック企業となってしまっているのです。
特集では、多くの企業がホワイトではなく、ゆるブラックになってしまう理由は安易な労働時間削減にあると指摘しています。若手社員の仕事の固定化やジョブローテーションの凍結などは、長時間労働の抑制には効果があるかもしれませんが、一方で特に若手社員がスキルを身に付け、成長する機会を奪っているとも言えます。
併せて読みたい『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』
では、どのように働き方改革を進めればよいのでしょうか。働き方改革で先行した企業の事例を挙げながら、働き方改革のあり方についてまとめたのが御社の『働き方改革、ここが間違ってます!』です。


併せて読みたい『知的生産術』
働き方改革の背景には、長時間残業ありきの働き方が個人のライフスタイルに合わなくなってきたことに加えて、日本の働き方の生産性の低さを改善しなければならないという事情もあります。
企業として労働生産性を高めていく必要がありますが、それとともに個人としても生産性を高めていくことも必須かもしれません。立命館アジア太平洋大学(APU)学長を務める出口治明氏が個人の知的生産性についてまとめたのが『知的生産術』です。


併せて読みたい 『心理的安全性のつくりかた』
生産性を高めるには単純に労働時間を減らすだけでなく、年齢や性別に関係なくやりがいを持って働いてもらい、成果を出してもらう必要があります。年齢などにとらわれず成果を出せる組織に必要なのが、米グーグルなどが重視している「心理的安全性」です。


とにかく残業しないように厳しく管理する、週末はメールを送らないように指導するなど形ばかりにとらわれた働き方改革では、企業は「ゆるブラック」となり、優秀な人材は会社を去ってしまいます。働き方改革を通じて何を目指すのか。企業は問われていると言えるでしょう。
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