【イベントレポート】『自分の頭で考える読書』著者登壇トークイベント
荒木博行氏×渡邉康太郎氏×深井龍之介氏 ~Podcast「超相対性理論」番外編~

2022年2月、フライヤーのアドバイザー、荒木博行さんが本の読み方や選び方を提案する『自分の頭で考える読書』(日本実業出版社)が刊行されました。
今回の記事でご紹介するのは、2022年2月21日に代官山蔦屋書店で開催された、新刊を囲んで読書について語り合うイベントの様子です。ゲストは、荒木さんとともにPodcast「超相対性理論」を運営しているおふたりで、フライヤーの読書コミュニティ「flier book labo」のパーソナリティでもある渡邉康太郎さんと深井龍之介さんです。
文学的に読む深井さん、本の背表紙からメッセージを受け取る渡邉さん
荒木博行さん(以下、荒木):『自分の頭で考える読書』を出版させていただきました、荒木博行と申します。株式会社学びデザインの代表を務めているほか、フライヤーをはじめさまざまな企業のお手伝いをしています。
渡邉さん、深井さんとは、Podcast「超相対性理論」でご一緒しています。よろしくお願いします!



深井龍之介さん(以下、深井):
株式会社COTENの深井龍之介と申します。新しい世界史データベース「coten」の製作など、リベラルアーツの大切さを世に発信していく活動をしています。
Podcastでは、「超相対性理論」に加えて「歴史を面白く学ぶCOTEN RADIO(コテンラジオ)」もやっています。よろしくお願いします。
渡邉康太郎さん(以下、渡邉):渡邉康太郎といいます。Takramで、かたちあるもの・ないものをデザインする仕事をしています。
最近は、企業のミッション・ビジョンの言語化のお手伝いが多いです。直近では、東十条商店街にオープンした明壽庵というあん食パン屋さんのブランディングを担当したりしました。音声メディアは「超相対性理論」のほか、FM局J-WAVEでラジオ番組「TAKRAM RADIO」のナビゲーターを務めています。よろしくお願いします。
荒木:実は最近、3人で札幌旅行に行きました。僕たち、バーチャルでは何度も会ってるけど、リアルで寝食をともにしてはじめて、新たに見えてくるものがありましたね。今日はふたりの本との付き合い方についても、ぜひ聴ければと思います。

深井:
僕はもともと、たくさん読むというより、文学的にじっくり読むのが好きなタイプ。今は社会科学系の本が中心で、時間軸や因果関係を一つひとつ理解しながら読むので、これもすごく時間がかかります。
文学的な読み方、速読、社会科学的な読み方の3つを使い分けていて、『自分の頭で考える読書』は、荒木さんの人格を感じながら文学的に読んでみました。
荒木さんは、読者の人生をすごく考えながら書いていますよね。読んでいる人の役に立つ本にしたい、人生を豊かにしたいという能動的スタンスがないと、こういう本にはならないと思います。

渡邉:
優しい人格、感じたよね。そしてお茶目な魅力も。たとえば巻末付録の「自分をつくる読書~この本で取り上げた、私をつくる64冊~」。
64冊分の紹介文があるんだけど、本の内容よりも、本にまつわるエピソードが中心だったりして、読みながらたくさん笑いました。僕は『トロッコ』(岩波書店)のエピソードが特に好き。
荒木:ありがとう。渡邉さんは、本とどんなふうに付き合っていますか?
渡邉:最近、新しい本棚を導入して、本の一覧性が上がりました。床から天井まで本が並んでいるんですが、本の背表紙を眺めるのが楽しくて、楽しくて。

荒木:
わかる、わかる。僕も本に囲まれて生活してるんだけど、すごくエネルギーをもらうよね。
渡邉:『自分の頭で考える読書』にも、本の背表紙からメッセージを受け取るという表現がありますよね。考え事をしながら本棚に向かうと、背表紙をながめるだけでも、著者と対話するかのようにアイデアが湧いてきます。
深井:背表紙って、エネルギーがあるよね。背表紙から想起されるものがあったり、啓示を得られたり。
「余白」があるから「本」に巻き込まれていく
深井:印象的だった箇所はたくさんあるんだけど、P53の「『余白』があるからこそ、私たちは知らず知らずのうちに『本』に巻き込まれていくのです」は「あの感覚をこんなふうに言語化してくれるなんて!」と感動しました。

荒木:
本を開くと、過去に読んだときの感情や場所がセットで思い出されるよね。それは、本って、思考投入して出来上がるものだからだと思ってます。
渡邉:アメリカの哲学者、ネルソン・グッドマンは、芸術のあり方には「自筆的」なものと「他筆的」なものがあるとしているんだよね。たとえば絵画は画家が自ら描き切るので、自筆的作品。一方、曲は、作曲者の他に演奏者を必要とする、他筆的な作品と言われます。
この分類によると、本はあくまで自筆的作品で、読者は、誰かが書いてくれたものを読むだけ。でも僕は、あらゆる本は実は、他筆的なんじゃないかなと思うんです。だから本とは「演奏を待つ楽譜」だとも言える。みんなが異なる解釈をするからこそ、さまざまな議論が花開く。

荒木:
おもしろいね。僕は、自分のコンディションと本をセットで考えるのをよくやりますね。たとえば札幌に行くなら、札幌の雪景色を想像して、旅のおともにする本を選んだり。『自分の頭で考える読書』でも、洋服を選ぶように本を選ぶというメタファーを使っています。
渡邉:今の話を聴いて、森岡書店 銀座店の店主、森岡督行さんのエピソードを思い出しました。森岡さんは、書店を始める前、第二次大戦中に東京で暮らしていた人々が何に触れて何を考えていたのか、本気で知りたかったそうです。
そこで1945年8月15日の終戦日に至る2週間分の新聞を図書館でコピーしてもらい、8月2日には1945年8月2日の新聞を、8月3日には1945年8月3日の新聞を……というふうに2週間かけて読んでいって、当時を生きた人が何を考え、どう情報に接していたのかを体験したんだって。そんな時期でも意外にのんきなニュースがあることや、自分の信条とは無関係に高揚したり落胆したりしてしまうことに、自ら驚いたそうです。
荒木:それはすごい! 身体の向きを変える読書、書き手の視点に立った読書って、めちゃくちゃ大事だね。
3人の読書のモチベーションは?
荒木:参加者の方から「読書のモチベーションは何ですか?」というご質問をいただきました。
深井:僕は「自分は何者か?」という問いがモチベーションになっています。
荒木:僕は逆で、他者理解がモチベーションになっている感覚があります。他者のレンズをかけることによって、その人をリスペクトできるようになりたいというのが、僕の知的好奇心の根源にある気がします。

渡邉:
僕は「おしゃべりしたい」ですね。「こんなにおもしろいこと見つけちゃった! このおもしろさ、わかりますか?」と共有したいんですよね。うまく伝えられたら相手も自分と同じようにおもしろがってくれるんじゃないかなっていう期待もあって。

深井:
僕も本について話すのは好きだけど、どちらかというと、自分の理解を確かめるために相手の反応を見ているかな。共感してもらったときより、「違う」って言われたときのほうが深掘りしたくなる。どうして違うのか、どうしてそう思うのか。そこに興味を持ちますね。
荒木:3人とも、似ているようで違うところもあって、安心して異論をぶつけられる関係だよね。
渡邉:誰かが絶対に拾ってくれますからね。さて、最後に荒木さんからのメッセージで締めましょうか。
荒木:いろいろな人が感想をくれたんですが、特にうれしかったのは「自分の読書法も、これはこれでいいんだと元気づけられました」というもの。本書の最大のメッセージは「好きにやればいいんだよ」なんです。
自分らしくチャレンジすれば、本といい付き合いができるのではと思います。みなさん、今日はありがとうございました!



荒木博行 (あらき ひろゆき)
株式会社学びデザイン 代表取締役社長、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリスト、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、株式会社絵本ナビ社外監査役、株式会社NOKIOO スクラ事業アドバイザー。グロービス経営大学院副研究科長を務めるなど人材育成・指導の分野に20年以上携わる。
著書に『自分の頭で考える読書』(日本実業出版社)、『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』『見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)など。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。
渡邉康太郎 (わたなべ こうたろう)
Takram コンテクストデザイナー。慶應義塾大学SFC特別招聘教授。東京・ロンドン・NY・上海を拠点にするデザイン・イノベーション・ファームTakramにて、使い手が作り手に、消費者が表現者に変化することを促す「コンテクストデザイン」を掲げ活動。組織のミッション・ビジョン策定からコアサービス立案、アートプロジェクトまで幅広く牽引。主な仕事にISSEY MIYAKEの花と手紙のギフト「FLORIOGRAPHY」、一冊だけの本屋「森岡書店」、日本経済新聞社やFM局J-WAVEのブランディングなど。同局で自身の番組「TAKRAM RADIO」のナビゲーターも務める。慶應SFC卒。趣味は茶道、茶名は仙康宗達。近著『CONTEXT DESIGN』は青山ブックセンター2020年の書籍ランキングで第二位を獲得。
深井龍之介 (ふかい りゅうのすけ)
複数のベンチャー企業で取締役や社外取締役として経営に携わりながら、2016年に株式会社COTENを設立。理念に「人類が、人類をより深く理解することに貢献する」を掲げる。3,500年分の世界史情報を体系的に整理し、数百冊の本を読んで初めてわかるような社会や人間の傾向・パターンを、誰もが抽出可能にする世界史データベースを開発中。COTENの広報活動として「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」を配信。「Japan Podcast Awards2019」で大賞とSpotify賞をダブル受賞。Apple Podcastランキング1位を獲得。ICCサミット2021KYOYO他複数回登壇。NewsPicksにてリベラルアーツを語る「a scope」を連載。NTT「ナチュラルな社会をめざすラボ」顧問。