
『世界「失敗」製品図鑑』著者・荒木博行さん
フライヤーはこのたび、ゴールドプラン会員の方々を対象に、近刊書の読みどころや狙いを著者が解説する、オンラインのトークイベントを初開催しました。 初回は、フライヤーアドバイザー兼エバンジェリストの荒木博行さんに、2021年10月刊行の著書『世界「失敗」製品図鑑』に込めた思いや執筆の舞台裏について語っていただきました。 話題書の著者とコミュニケーションが取れる機会とあって、参加したゴールド会員の方からは積極的なコメントや質問が相次ぎました。当日の様子をダイジェストでお伝えします。
ライター・南龍太
『世界「失敗」製品図鑑』(以下、本書)は約2年前に刊行した『世界「倒産」図鑑』の続編のような位置づけで、発刊以降よい反響をいただいています。 失敗した事業やサービス、プロダクトは世の中にたくさんありますが、その教訓は何だろうかと問いを深めていくと、きっと学びが得られるはずだという思いで執筆に当たりました。 普段目に触れる失敗は、氷山の一角に過ぎず、さらに数多くの「失敗もどき」も実はたくさんあります。公になっている失敗事例から何を学んでいくか、数多くの「失敗もどき」を繰り返さぬよう、痛い思いをしてきた先人たちの知恵をいかに活用していくか――。これらはとても大事なことだと感じています。



本書の執筆工程を少しご紹介します。 この本では20の失敗した事例を紹介していますが、完成するまでとても地味な作業の繰り返しでした。文献や記事をリサーチし、ストーリーにまとめ、示唆を導き出し、文字にしてイラストを描く。この一連の作業を20の事例ごとに行いました。

本書で紹介している20例のうち、1980年代に起きた、コカ・コーラ社の「ニューコーク」という有名な事例を取り上げます。
コカ・コーラの製造法は「聖なる牛」と言われ、触れてはいけないものとして神聖視されていました。
ところが、1980年に新しい会長のゴイズエタが就任して数年後、その不可侵であるコークの味を刷新し、「ニューコーク」を売り出しました。すると、想定以上の顧客からの猛反発に遭い、発売後わずか3カ月で以前の味に戻すことになるのです。
この失敗の原因は、「顧客視点の欠如」や「傲慢経営」というのが通説となっています。
しかしそれは本当でしょうか。
結論から言えば、事実は少し異なります。コカ・コーラ社は、ニューコークの投入前に、顧客の味覚調査やABテストなどを入念に行っていました。社内的にも、新商品投入に際して賛否両論があり、喧々諤々の議論をしました。絶対的な業界首位として長く君臨しながら、新しいこと、変化することへの恐怖感は、会社として相当にあったのです。
周到な下準備があったうえでのニューコークの投入でした。決して顧客を軽んじて味を変えたわけではありませんでした。

ここで、なぜ味を刷新したのかという問いに立ち返りましょう。
背景には、競合・ペプシが味を訴求して猛追を仕掛けてきたことや砂糖価格の値上がりといった要因がありました。不可侵とは言え、このまま何も変えずにシェアを奪われていくのか…その苦境に立たされたコカ・コーラは、顧客のテイスティングも経て、思い切って味を変更するという判断に至ったのです。
では、ゴイズエタは何を間違えたのでしょうか。
それは、ペプシに対する危機感を隠したまま「たまたま良い味を発見した」と取り繕った強がりや、「これが美味しくないはずがない」といった尊大な態度を見せてしまったことにあります。アメリカ人が大事にしてきたことが、よそ者に軽々しく変えられてしまうかもしれない…そういう「保守心」に火をつけてしまったのです。
この話には続きがあります。
高まる批判を受け、ゴイズエタは「私たちはあなた方(顧客)の声をしっかり受け止めました」と謝罪するとともに、以前のコーラを「クラシック・コーク」として復活させ、新版を「コークII」と位置付けたのです。
その結果、クラシック・コークは歓迎され、同社の業績が急回復する起爆剤となりました。
ここから得られる教訓があるとすれば、「等身大の自分で語ること」の重要性なのかもしれません。ゴイズエタが謝罪の場面で見せた「弱さ・本音・らしさ」といったいわゆる「Authenticity」への共感が、コカ・コーラの再浮上を呼び寄せたのです。

もしこのストーリーをそのように読み解くのであれば、今度は私たちにとっての意味合いを考えなくてはなりません。つまり、ゴイズエタが等身大の自分を見せたように、私たちもいざという時、自らの仮面を剥がし、等身大の自分でコミュニケーションができるのか?といった問いです。
この辺りのことは、本書に書いていませんが、ぜひ考えてみたい問いです。口で言うのは簡単ですが、実践してみることの難しさに気づくと思います。
このように、コカ・コーラの失敗事例と言って終わらせずに、いかにその事例を自分に向けて考え直すかが重要です。そのためには、具体的な経験、ケースを「抽象的な学び」として捉え直し、再度具体的に「自分だったらどうする」と問いかけることにより、「領域の壁」を越えていくことができるのです。

本書は20章すべてにおいて、具体的な事例を抽象化したうえで、読者に問いかける形を取っています。
こう考えると、失敗か成功か、という評価にあまり意味がないことにも気づくでしょう。重要なことは、過去には経験があるのみ、ということ。そして、その経験を自分はどうやって活かしていくのか、という問いが残るだけなのです。
荒木博行(あらき ひろゆき)
株式会社学びデザイン 代表取締役社長、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリスト、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、株式会社絵本ナビ社外監査役、株式会社NOKIOO スクラ事業アドバイザー。グロービス経営大学院副研究科長を務めるなど人材育成・指導の分野に20年以上携わる。
著書に『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』『見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)など。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。