オンライン時代にファシリテーターが創り出す価値とは?
「意外な学びと出会える場」としての読書会

2021年4月~7月、フライヤーは、laboゼミ第一期「読書会ファシリテーション講座」を開講。株式会社フライヤーのアドバイザー兼エバンジェリストである荒木博行さんを講師にお迎えし、約25名の参加者とともに、「本や読書、他者と語ること」から学ぶプロセスを、より体系的に、より構造的に学んできました。
参加者のなかにはなんと、株式会社クロスリバーの代表であり、『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』をはじめ、多くのベストセラーを世に送り出してきた越川慎司さんの姿がありました。
laboゼミ第1期の終了を記念して、荒木さんと越川さんの対談が実現。テーマは「読書会の価値とは?」です。この記事では、その様子を再構成してお届けします!
ファシリテーターがいる会社は生産性が高い!?
荒木博行(以下、荒木):
laboゼミへのご参加ありがとうございました! まさか越川さんが参加してくださるとは思わず、驚きました。
越川さんは、ファシリテーションの資格もお持ちとおっしゃっていましたね。ファシリテーションに対してどのような問題意識をお持ちですか。
越川慎司さん(以下、越川):いまの日本で生産性高く働くためには、ファシリテーションスキルを高める必要があると感じています。
私は働き方改革を支援する企業の代表として、いままで805社、16万3000人の働き方を変えてきました。そんななか、コロナ禍では社内会議の時間が増えていることがわかったんです。調査によると、1週間の稼働時間のうち、実に43%が社内会議に費やされていました。
気軽に招集できるために自然と回数が増えてしまうこと、「聞こえていますか?」といったやり取りに時間を取られること、発言タイミングが被ってしまうなどしてスムースに議論できないことが、その要因でしょう。
そこで、クライアント企業にファシリテーターを設置したところ、会議が見違えるほどうまくいくようになったんです。

荒木:
ファシリテーション次第で、仕事の生産性が上がるということですね。
越川:過剰な気づかいや忖度が生産性を低下させているのではないか――今までうすうす感じていたことです。実際、心理的安全性の担保されていない組織では、会議のための会議のための会議のための会議……と、どんどん会議が増えていきがちではないでしょうか。
今回のlaboゼミに参加して、「忖度なしで触発し合う会では、こんなに生産性が高まるんだ!」という発見がありました。
laboゼミでは、参加者のバックグラウンドはさまざまで、関係性はフラット。発言したい人が発言するという雰囲気がありました。だからこそ、短期間でいろいろな学びを得られたのだろうと思います。階層があり、言いたいことをズバリと言いにくい伝統的な日本の企業では難しいことかもしれません。
荒木:本当にそうですね。企業のなかには暗黙のヒエラルキーがあるもの。一番偉い人が発言すると、それがファイナルアンサーになってしまい、それ以上の議論ができないこともあります。

越川:
ありますよね。だからこそ、まず同調圧力を取り除き、フラットな関係性を構築する必要があると思います。たとえば、冒頭2分で雑談してみるだけで発言数は増えるものです。
荒木:おっしゃるとおりだと思います。加えて言うなら、リーダー自身が「その組織の空気は自分の責任である」という自覚を持つことでしょうか。同調圧力や階層は無意識に生まれてしまうものだという謙虚さを持ち、そこから何か働きかけようとする姿勢ですね。
「学びを創出する場」「触発し合う場」としての読書会
越川:
laboゼミに参加して、荒木さんから「読書会ファシリテーターは、空気・アイデア・時間の管理をする人である」と学びました。
まず「空気の管理」。荒木さんは毎回、冒頭で雑談をして場の空気をあたためていました。
次に「アイデアの管理」。意見を促すにしても、「何かありますか?」ではなかなか出ない。そこで荒木さんは、「越川さん、どう?」といったふうに特定の誰かを指名していました。
最後に「時間の管理」。議論が盛り上がると、ついつい所定時間を超えてしまうもの。全体のアジェンダを見ながらコントロールしなければいけません。

荒木:
なるほど、なるほど。越川さん、さすがですね。
「アイデアの管理」に関して言うと、読書会では学びづくりを常に意識しています。何気ない発言に隠れているおもしろさに気づき、「それってすごいよ!」とコメントすれば、参加者の学びにつながります。与えられた学びではなく、「自分たちで学びを創り出していく」という雰囲気になると、おもしろい場になりますよね。
越川:他者の発言に学んだり、自分の学びを他者から褒められたり。こうした意外な気づきがあるのも、読書会ならではです。
荒木:読書会は、「予定調和でない学びの場」だと思っています。予定調和でない学びが大切なのは、実践に生きてくるから。
「誰かから教えてもらいました」より「自分で気づいちゃった!」のほうが、再現性の高い学びになります。そんな、「学びを創出する場」としての読書会ができればうれしいですね。 越川:私は、読書会を「触発の場」だと思っています。刺激し合って、内省、行動変容が生まれる。だからこそ、バックグラウンドが異なる、触発し合えるメンバーと読書会を実施するのが理想的です。
内省を引き出す「問い」こそ、ファシリテーターの腕の見せどころ
越川:
読書会においては、「内省」もひとつのキーワードではないでしょうか。本の内容と自分の感情や行動を照らし合わせるだけでなく、他者の発言を聞くことも、いいリフレクションにつながると思います。
荒木:おっしゃるとおり。内省的な読書会では、「問い」がキーになりますよね。自分ごととして考えられる問いを、タイムリーに、圧なく出せるかどうかは、ファシリテーターの腕にかかってくるところです。

越川:
まさに。階層型の組織では、「なぜ?」「どうして?」という問いかけはプレッシャーになってしまいがち。一方、フラットな関係での問いかけは、深い内省につながります。
荒木:問いは、ノイズをできるだけ排除する必要がありますね。「どうして数字上がっていないの?」という問いには、純粋な質問ではなく、叱責のニュアンスなどのノイズがたくさん含まれています。
いかにノイズのない問いを投げかけるか――そこに敏感になればなるほど、自分に対してもいいタイミングでいい問いを出せるはず。その技術がイマイチだと、自分を責める問いに傷ついたり、答えのない問いにモヤモヤし続けてしまったりすることになります。
越川:ファシリテーションは、簡単に訳すと「仕切り」。価値観もバックグラウンドも違う人が集まり、同調圧力もあるなかで、うまく仕切り、フラットな関係をつくって、空気を察し、問いを投げかけて考えさせ、アイデアを引き出す……このステップで会をサポートする力こそ、いまの日本社会を生き抜くうえで必要なものではないでしょうか。
そろそろ、「憧れの職業」としてYouTuberと同じように“オンラインファシリテーター”がランクインしてもいいですよね(笑)。
荒木:本当にそうですよね(笑)。私自身、この時間でいい学びを得ました。越川さん、ありがとうございました!
越川さん、荒木さんのご著書の要約もぜひご覧ください!
『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』
『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』
『藁を手に旅に出よう』
『世界「倒産」図鑑』
越川慎司(こしかわ しんじ)
国内通信会社および外資系通信会社に勤務などを経て、2005年にマイクロソフトに入社。業務執行役員としてPowerPointやExcelなどの事業責任者。2017年に働き方改革を支援する株式会社クロスリバーを創業。メンバー全員が週休3日・テレワーク・複業を実践しながら、約16万人の行動履歴を調査・分析。これまで述べ800社以上に改革人材の育成講座や管理職教育プログラムを提供。
著書16冊。『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)など。
荒木博行(あらき ひろゆき)
株式会社学びデザイン 代表取締役社長、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリスト、株式会社ニューズピックス NewsPicksエバンジェリスト、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、株式会社絵本ナビ社外監査役、株式会社NOKIOO スクラ事業アドバイザー。
著書に『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』『見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』(日経BP)など。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。