本について語れる力 翻訳力と説明力の共通する本質
人との関わりで広がる知の世界

本の学びを深めるオンライン講座「flier book camp」では、本をベースに様々なテーマで少人数参加型のセミナーを開講しています。2021年6月~9月にわたって、「1枚×20字×3ポイント説明力」養成講座を担当してくださったのは、「1枚」ワークス株式会社代表取締役の浅田すぐるさんです。講座では、28名の参加者の方といっしょに、浅田さんが『すべての知識を「20字」でまとめる 紙1枚!独学法』で公開されている「1シート・ラーニング・システム」を実践しました。

今回は、全講座を終えた浅田さんに、講座を振り返りながら「説明力」について改めてお話を伺いました。お相手としてお越しくださったのは、浅田さんと同じくflierの公式オンラインコミュニティflier book laboでパーソナリティを務める翻訳家の土方奈美さん。対談を通じて見えてきた「説明力」と「翻訳力」の意外な共通点から、話題は他者との関わりでえられる知の広がりへと発展していきます。本記事は、当日の対談の様子を再構成してお届けします。

制約があるから、本質を見抜く力がつく

——まずは、浅田さんに講座の内容をご紹介いただけますか。

浅田すぐる(以下、浅田):

僕は、「紙1枚」にまとめるプロフェッショナルとして活動しています。ですから、講座でも本でも、僕が繰り返しお伝えしているのは、紙1枚という制約のなかでまとめあげ、書き

きるトレーニングをすることの大切さです。僕が会社員として働いていたトヨタでは、すべてを紙1枚にまとめるというルールがありました。そのルールに沿って仕事をしていると、自然と仕事の本質を突き詰める習慣がつくんです。自分の担当業務の何が本質で、一番重要なのはなんなのか、それを考え抜いていなければ、資料を紙1枚にまとめることはできません。紙1枚という制約があるからこそ、本質を突き詰めることができるんです。

トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術
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浅田すぐる
サンマーク出版
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著者
浅田すぐる
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土方奈美(以下、土方):

放っておくとどんどん増えてしまう情報を、削り込んで、本質を1枚にまとめるというのはすばらしいエクササイズですね。

浅田:

ありがとうございます。僕は本を読むのが大好きなんですが、土方さんが翻訳された本をたくさん読んでいたことに気づいたんですよ。本棚から土方さんの名前がある本を持ってきて見ました。『超一流になるのは才能か努力か?』『TED 驚異のプレゼン』『2030年』。それから、なんと言ってもこれです。『ビジョナリー・カンパニーZERO』。今年一番の一冊だと思います。この本を翻訳された方とお話ができるのを楽しみにしてきました。

土方:

今日のテーマが説明力と翻訳力だとお聞きして、私も浅田さんの「1枚」フレームワーク、「ロジック3」を「翻訳力とは」というテーマでやってみたんです。翻訳力を「一言で言うと?」という問いの答え、それからこのテーマに対する「What?」「How?」「Why?」の3つの切り口に対する答えを3つずつ出しました。これをお伝えしてもよろしいでしょうか?

浅田:

わあ、これは嬉しいですね。まさかこんなものを用意してくださっていたなんて。ぜひお願いします。

土方:

私の考える翻訳力を一言で言うと、「『著者へのリスペクト』と『読者へのリスペクト』の両立」です。

これは何か(What?)というと、一般的に著者の顧客は「読者」だけであるけれど、翻訳の場合には著者と読者の2つの顧客を想定しなければならないということです。著者のメッセージをきちんと伝えることが著者へのリスペクト、そして、最初からその対象言語で書かれた本と同じレベルの読みやすさに仕上げるのが、読者へのリスペクトです。

なぜこれが大事か(Why?)というと、この2つのリスペクトのバランスが崩れてしまうと、翻訳書を出す意味そのものが崩れてしまうからです。翻訳書は読みにくくて当たり前という意識があるように思います。しかし、本以外にも情報収集の手段がたくさんあるなか、読みにくい翻訳書を出しても読んでもらえないでしょう。だから、これからの翻訳書は読者へのリスペクトが必要なのではないかと思っています。

リスペクトを実践するためには(How?)、著者の言葉そのものではなく、伝えようとしているメッセージを理解する必要があります。文化的なコンテクストの違いに意識を向けて、日本語にないものは補って意図が伝わるようにします。そして、言語の構造にとらわれずに最初から日本語で書かれているかのように訳していきます。翻訳は機械的な作業だと思われるかもしれませんが、二次創作というほうが近いかもしれません。原書をベースに、それを忠実になぞりながらも創作していく。それが翻訳の醍醐味であり、読者へのリスペクトという責任を果たすことだと思います。

浅田:

これはたまらないですね。僕はじつは、学生時代に翻訳者という仕事に憧れていたんですよ。著者と読者のリスペクトという視点はとても響きました。

「1枚で本質を突き詰める」を体現してくださったような説明ですね。

土方:

浅田さんの紙1枚にまとめるというエクササイズと、私が行ってきたアウトプットの訓練には、通ずるところがあると思いました。

私に翻訳家としての競争力があるとすれば、日本語のアウトプット力だと思うんです。英語を読み解く力は、翻訳家であれば誰でも持っているものですから、日本語の表現力こそが武器になります。私の場合は、新卒から13年間、日経新聞で記者として鍛えてもらった経験が大きな財産になりました。

記者の基本のトレーニングは、ベタ記事と呼ばれる、紙面下部にある200文字前後の記事にニュースの本質を詰め込んで書くことです。この字数では、余計な情報を入れてしまったら収まりません。これがなかなか書けないんですよ。何回も何回もやり直しをしながら、先輩記者に赤字を入れられた、その経験が今の自分の表現力の基盤になっています。

浅田

僕の場合はA4用紙1枚が、土方さんの場合は記事の枠が制約になって、本質を突き詰めるトレーニングになっていたということですね。

圧倒的な量をこなし、はじめて身につく

浅田:

どうやったら端的にまとめる力がつくんですかという質問をよく受けるんですが、外すことができないのは「圧倒的な量」なんです。たくさんやらないことには身につけることはできないと思っています。一人で量をこなすのは大変なので、フィードバックをくれる先輩や上司がいる環境は、かけがいのない財産です。

土方:

完全に同意ですね。私はじつは、空手が黒帯なんですけれども、空手には基本の型があって、それを徹底的に習得したうえで、ようやく自分のオリジナリティというものが出てくるんです。まずは圧倒的な量で基本の型をこなして身につけることが重要です。文章も同じで、まずは基本が書けるようになってから、自分の花が開くと思います。

浅田:

僕は柔道が黒帯なんですよ。守破離という言葉がありますが、最初は「守」で、型を守っていく。量稽古をやっているときは、型が何かすらわかっていないことがありますが、量をこなすうちに帰納的に見えてくるものがあります。そこに演繹的な要素を組み合わせて、繰り返し、徐々に破って、離れていく。そうするうちに、だんだんと個性が出てくるわけです。 「型破り」という言葉がありますが、型を破るためにはまずは型を身につけておかないといけないんですよね。そういう意味で、最初の基本をしっかりと身につける期間はとても大切だと思います。

土方:

あのピカソも、伝統的な絵画をやり尽くしたからこそ、自分の独自なスタイルを次々に生み出すに至ったといわれていますね。ものの考え方でも文章でも、基本的なトレーニングはやはり必要だと感じます。

私は、翻訳を50冊ほど担当してきたのですが、最初の頃の翻訳はもう恥ずかしすぎて読めないですね。50冊という量をこなして、ようやく上達してきたかなと。

浅田:

僕も、会社員時代に上司に赤ペン添削をたくさんしてもらったおかげで、1枚にまとめる技術を身につけることができました。

土方:

ヒエラルキーがあってやりたい仕事ができないというディスアドバンテージが強調されがちですが、トヨタや日経新聞のような大企業に就職する最大のアドバンテージは、人手があってトレーニングを受けられることですよね。

書き手も読み手もフラットに、読書に向き合う

浅田:

土方さんの翻訳されている本は、良書が多いですよね。最近文庫化された『知ってるつもり』を読み返したら、やはりとても良い本だなと感じました。知識は個人に属しているものではなく、私たちは知識のコミュニティに属していて、他の人の頭の中にある知識を頼り、全部を合わせて何かを生み出すという考え方をしています。flier book laboのような場も含め、自分の外部にも知識を拡張するというのは大事な知見ですよね。

知ってるつもり
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スティーブン・スローマン,フィリップ・ファーンバック,土方奈美(訳)
早川書房
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知ってるつもり
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著者
スティーブン・スローマン フィリップ・ファーンバック 土方奈美(訳)
出版社
早川書房
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土方:

『知ってるつもり』は、私にとっても認識を変えてくれた本ですね。たいていの人は、一人ではスティーブ・ジョブズにもアインシュタインにもなれなくて、そのことに沈みがちになってしまいます。でも、個人の頭の容量の勝負ではなくて、周囲の人をどれだけ自分の知的活動に巻き込んでいけるかが鍵だと考えると、気持ちが楽になりますよね。

浅田さんが提案している要点を3つくらいにまとめるワークで、最初のハードルがあるとしたら、間違えるのが怖いということではないかと思うんです。要点を外したらどうしようと思ったら、なかなか人にシェアできないですよね。でも、『知ってるつもり』を読んだら、間違えることは苦痛でも恐怖でもないと思えます。誰でもバイアスを持っているんだから、自分のフィルターで選んで共有し、それを照らし合わせることで大事なところに行き着くことができる。それが自分なりの社会への貢献なんだとすら思えます。

浅田:

突き詰めて考えると、「正しい読み方」というものはないんですよね。書き手が意図を完璧に表現しきれているわけでもなければ、読み手がそれをすべて読み取れるわけでもない。だから、どこまでいっても完璧に読めるということはないはずです。そうは言っても、多くの人が同じように読んでいることも事実なので、妥当性が高い読み方というのもあると思うんです。それを他者との交流を通して確かめ、その本のエッセンスを掴み取るということが読書には必要なんだと思います。

自己完結な読み方をしていると、どこまで行ってもひとりよがりな読書しかできないんです。それを乗り越えるために、他者との関わりが人生に必要なんだ。そういう文脈で、僕はこの『知ってるつもり――無知の科学』を役立たせていただいています。flier book laboのコミュニティでも、ぜひ交流を持ってほしいなと思っています。

土方:

flier book laboの仲間同士にはフラットな横のつながりを持っていますよね。一方で、著者と読者にはなんとなく上下関係があるような気がしてしまって、著者の意見をありがたく聞くという意識になりやすいと思います。でも、浅田さんがおっしゃるように著者自身もすべてをわかっているわけではないですよね。

私が最近翻訳させていただいたジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニーZERO』は、これまでにシリーズが6作出ているのですが、2作目以降はコリンズと読者のやりとりからできているんです。1作目の『ビジョナリー・カンパニー』は大企業の事例が多かったので、もっと小さい企業だったらどうしたら良いかという問いかけが来て、2作目ができたり。読者は、著者と対等であるという意識で読書に向き合って、気軽に感想文を送っちゃうくらいの付き合い方がいいんじゃないかなと思います。

浅田:

『ビジョナリー・カンパニーZERO』は今年ナンバー1の本だと思っています。シリーズの中でも一番いいんじゃないかな。個人的に惹かれたのは、「ザ・マップ」という、コリンズの「紙1枚」が出てくることです。コリンズがこれまでやってきた偉大な企業に関する研究を、1枚の地図に落とし込んでいますよね。これを見て、「ザ・マップ」を絶対に使いこなしてやろうと心に決めました。

土方:

「ザ・マップ」のためだけにこの本を買ってもいいくらいですよね。これまでのエッセンスがすべて詰まったこの本は、コリンズの集大成なんだと感じさせられます。

——最後に、本質をとらえる説明力を鍛えるためにやるべきことを一言で教えてください。

浅田:

「一言で言うと」を口癖にすることです。「要するに」や「結局のところ」といった、自分がしっくりくる他の表現でも良いのですが、こうしたフレーズを発する習慣がないということは、絞り込むという思考回路自体が習慣になっていないということです。まずはその口癖をつくることから始めてみましょう。

土方:

別の言葉で言い換える練習をしてみることです。何かを説明する言葉にはたくさんの選択肢がありますよね。その中で一番しっくりくる表現を選びとる中で、本質が理解できると思うんです。最初に頭に浮かんだ言葉に飛びつくのではなくて、いくつも候補を考えるということが、説明力につながっていくのではないかと思います。

浅田すぐる(あさだ すぐる)

「1枚」ワークス株式会社代表取締役。「1枚」アカデミアプリンシパル。動画学習コミュニティ「イチラボ」主宰。作家・社会人教育のプロフェッショナル。名古屋市出身。旭丘高校、立命館大学卒。在学時はカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学留学。トヨタ自動車(株)入社後、海外営業部門に従事。同社の「紙1枚」仕事術を修得・実践。米国勤務などを経験したのち(株)グロービスへの転職を経て、独立。現在は社会人教育のフィールドで、ビジネスパーソンの学習を支援。研修・講演・独自開講のスクール等、累計受講者数は10,000名以上。大企業・中小企業問わず、登壇実績多数。2017年には海外(中国・広州)登壇、2018年にはルーツであるトヨタとパナソニック合同の管理職研修への登壇も実現。2015年からは、作家としてのキャリアもスタート。これまでに8冊を上梓し、著者累計は45万部超。独立当初から配信し続けているメールマガジンは通算1,000号以上。読者数20,000人超。

土方奈美(ひじかた なみ)

翻訳家。日本経済新聞記者を経て独立。米国公認会計士資格(CPA)所有。訳書に『ビジョナリー・カンパニーZERO 』『BOLD 突き抜ける力』(以上、日経BP)、『NO RULES:世界一「自由」な会社、NETFLIX』『HOW GOOGLE WORKS:私たちの働き方とマネジメント』(以上、日本経済新聞出版)、『財政赤字の神話:MMTと国民のための経済の誕生』(早川書房)、『フューチャー・ネーション:国家をアップデートせよ』(NewsPicksパブリッシング)ほか多数。Voicy「翻訳家の縁側ブルース」配信中。

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文責:池田友美 (2021/11/28)
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