篠田真貴子の頭の中 聴くことで見えるこれからの生き方
第3回 flier book labo オープントークセッション 【イベントレポート】

ご好評いただいているフライヤーの無料オンラインセミナー、今回のゲストスピーカーは、フライヤー主宰のオンラインサロン「flier book labo」で第1期のパーソナリティを務めてくださった、エール株式会社取締役の篠田真貴子さんです。

「聴く」ことを提供するサービスに関わる篠田さんが今回問うのは、「聴くことで見えるこれからの生き方」です。ヒエラルキーが流動化し、大きな変化を迫られている現在のビジネスの世界において、私たちには「伝える」力よりも「聴く」力が求められているのかもしれません。

株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリストの荒木博行さんのファシリテーションで、議論はオンラインという場が提供してくれる「フラット」な関係へと向かいます。本記事では、当日の様子を再構成してお届けします。一緒に篠田さんの頭の中を覗きにいきましょう。


「聴く」ことが、組織のパフォーマンスを上げてくれる


篠田真貴子(以下、篠田):

みなさんこんにちは、エール株式会社の篠田真貴子です。エールは、社外1on1という形式で、企業で働く方に1対1で話を聴いてもらう機会を提供している会社です。私は「聴く」サービスを提供しているという立場から、「聴く」ことの社会的な位置付けを探究しています。

荒木博行(以下、荒木):

篠田さんに担当していただいたflier book laboのLIVEでは、『THE CULTURE CODE』のオンライン読書ワークショップを行いました。このときも、篠田さんは聴く力のお話をしていましたよね。

THE CULTURE CODE
THE CULTURE CODE
ダニエル・コイル,楠木 建(監訳),桜田 直美(訳)
かんき出版
本の購入はこちら
THE CULTURE CODE
THE CULTURE CODE
著者
ダニエル・コイル 楠木 建(監訳) 桜田 直美(訳)
出版社
かんき出版
本の購入はこちら
篠田:

私はこの本に出てくる、ハリー・ナイキストの話が大好きなんです。ベル研究所という、現在の通信技術の基盤を生み出した優れた研究所があるんですが、そこで特許や論文の数が多い優秀な研究者たちの共通点を調べたところ、ハリー・ナイキストという研究者とランチを食べていたことだということがわかったんです。

ナイキストは研究者としてはまったくの無名なのですが、すごく良い人で、好奇心旺盛。聴き手として、とても優れていたようです。ナイキストに話を聴いてもらううちに、話し手は考えがまとまっちゃったりして。

今、「ハブな人」というコメントがありましたけど、ナイキストは人と人をつなぐようなハブになったわけではないと感じます。聴いてもらうことによって、話し手自身の中でアイデアとアイデアがつながるという感覚の方が近いと思います。

荒木:

成果主義の考え方では、ナイキストのような人は、真っ先に排除されてしまいそうです。でも、ナイキストがいなくなったら、組織全体のパフォーマンスが落ちる可能性がありますね。

篠田:

一人ひとりの能力を上げようとする人材開発の視点で見ると、自分のアウトプットをしていないナイキストの評価は低くなるでしょうね。でも、トータルでパフォーマンスを上げようとする組織開発の視点から考えれば、ナイキスト一人に頼らずに、同じような関係をあちこちで起こすにはどうしたら良いのかという視点になるはずです。

荒木:

ナイキストのような人ばかりでは何も生まれないわけだから、人の組み合わせも重要になりますよね。でも、意図を持ってナイキストのような人を育てたり、配置したりするのは、難しいのではないでしょうか。

篠田:

確かにそうですね。ただ、このメカニズムに気づけたということ、それがすごいと思いませんか? それだけで、より良い方向へ進むことができる可能性は確実に上がりました。もちろん、ナイキストのような人を大量に作ることは難しいし、コミュニケーションですから、話し手と聴き手の相性もあると思います。でも、こうした作用があるということを知っておくことは、チームのパフォーマンスを検証する際に役立つはずです。


「伝える」力から、「聴く」力へ


荒木:

篠田さんがTALK(labo会員限定音声コンテンツ)のDay 3を振り返ってみましょう。これまでは伝える力が大事だったけれど、これからの時代は聴く力が大事だというお話でしたね。



篠田:

まず、このように整理したきっかけについてお話ししたいと思います。私は、学生時代も働き始めてからも、伝える方のトレーニングを受ける機会はたくさんあったけど、聴く方のトレーニングは受けていなかったんです。周りの人も同じような経験をしていたようだったので、これはなんでなんだろう、と。

自分の経験から、「聴く」という行為は、相手との関係をフラットにするという感覚がありました。「役割」で話している人の話をただ聴くのではなく、「あなたの考えに興味があります」という姿勢で聴いていくと、相手がどんな立場の人であっても、どんどん「素」の「あなた」と「わたし」になる。そんな「フラット」という感覚から出てきたのが、この図のリストです。

私が育った時代には、社会にヒエラルキーがはっきりありました。官庁が上で、民間が下。大企業が上で、中小企業が下。男が上で、女が下。それぞれに決められた居場所があることが前提でした。

居場所が固定されているから、その間にある伝達経路も固定されていて、力の強い方から弱い方へ情報を流すことで世の中が回るという仕組みになっていたわけです。そうなると、世の中にインパクトを与えたいと思ったら、まずこの伝達経路をコントロールできる場所に行かないといけない。出世が大事だったのはそのためですね。

ところが、ヒエラルキーが流動化した今となっては、情報は上から下にだけ流れるものではなくなってきています。もう、情報がどこにあるかはぐちゃぐちゃ。今度はむしろ情報をキャッチする力が重要性を増してきています。

相手から発せられる表面的な言葉だけでなく、その裏側にある意図や動機まで受け止める。そうした力が社会で生きていく上ですごく大事なのではないかという仮説を私は持っているんです。

荒木:

たしか伊藤羊一さんだったと思うんですが、「上司と部下という言い方をやめよう」と言っているんです。こういう肩書きは「聴く」ことを邪魔してしまうかもしれませんね。「上司」「部下」という言葉を使うことで、上の人の意見の方が強いという構造を再生産してしまっているような気がします。

篠田:

言葉にそういうイメージがついてしまっていることはありますよね。

ある保険会社は、感染症対策で新契約を取りにいくことができなくなったそうです。それで、会社が始まって以来初めて、新規の契約数の目標が廃止にして、各支社がそれぞれの地域に役立つようなアクションを促す、定性的な目標に変更になりました。今の「上司」たちは、新規契約数という目標数値で評価されてきた人たちですよね。だから、契約数を目標にしていたときは、上司の意見が正しいということはある程度正当化されていました。それが、新しい目標のもとでは、上司を上司たらしめていた経験がまったく生きなくなってしまったんです。むしろ、直接地域の方とコミュニケーションをとっている現場の営業のみなさんの方が、目標達成のためのアイデアの種を持っていることが多い。「上司」は「部下」の話をよく聴く必要が出てきています。

荒木:

社会の変化によって、経験値がリセットされてしまうことってありますよね。

僕はスポーツ教育はとても大事だと思う一方、チャレンジに直面しているとも思うんです。最近では、SNSを通じて指導者のパワハラが横行していることが可視化されています。スポーツはルールが変わらないから、成功の方程式が確立されていて、習熟度を高めれば勝てるという世界観で生きている。だから、経験を積んだ人の地位が高くなり、未熟な人を無条件で叩けるような錯覚が起きやすいんです。このマインドセットで育ってきてしまうと、社会もそうなのかと誤解してしまうように思います。

篠田:

ビジネスの世界でも、ヒエラルキー型で定められている手続きは、ある時点でのうまいやり方であるといえます。それを何度も繰り返せば、未来に成功パターンを再生産できる。それが有効な間はとても効率的ですが、それが通用しない状況が生まれることがあります。

ルールに寿命があることは、スポーツとビジネスの大きな違いですよね。働き始めたときはルーティーンワークから覚え始めて、ルールを習得するところから始めると思います。でも、少ししたらルールを変えたり、ときには作ったりしないと、ビジネスパーソンとして成功できません。そこがスポーツとは違う大変さであり、ビジネスの面白さでもありますよね。

荒木:

新型コロナウイルスの影響で、ビジネスは変化を迫られていますよね。長年古いルールで習熟してきた上の人は、なかなかその変化に対応できないかもしれない。そうしたとき、上の人に求められているは、変化に対応できている人たちの話を聴くことなのだと思います。

篠田:

「聴く」って大変なんですよね。特に、上司と部下の関係や、自分の成功体験が脅かされる状況など、自分の利害に強く関わるときには「聴く」ことの難易度がとても高くなります。

ただ、すべてのコミュニケーションを上司や部下でやる必要はないと思うんです。自分の考えや感情を整理していくナイキスト的な効果をもたらすコミュニケーションをするためには、フラットに話を聞いてもらえる人を探していった方が効率がいいと思います。


「あなた」対「わたし」のフラットな関係


荒木:

flier book laboのような場だと、肩書きから解放されて、一人の人間としてコミュニケーションを取れますよね。

篠田:

本を間に置いて、その本への興味だけで集まる場だから、フラットなコミュニケーションになりやすいかもしれませんね。また、身体的な属性をわかりにくくするオンラインでの集まりであるということも、フラットな関係性を作るためによい作用をもたらしているように思います。

以前、小学生から高校生くらいまでの若い人たちと、『この気もち伝えたい』という絵本を題材にオンラインでお話をする機会がありました。子どもたちが「聴くのは難しいけど大事だ」という話を、クラスの問題を交えながら話してくれて。出てくる質問があまりに本質的で質が高いものだから、こちらの方が勉強になりました。

でも、本が間になかったら、いきなりやってきた初対面の大人に話をする気になんてならなかったと思うんですよ。本があったから、自分の経験を振り返って考え、語れたのだと思います。それに、対面だったら私自身も「大人」対「若い人」という思い込みにとらわれてしまったかもません。小さな画面にフラットに並んでいる状態で対峙したからこそ、彼らから出てきたものをリスペクトできたんです。

荒木:

リアルで話すと上下関係がはっきりしてしまうところはありますよね。Zoomのようにバーチャルで視覚的にもフラットな場面で、本という対象を経由してコミュニケーションを行うと、そうした関係から解放されそうですね。

篠田:

「聴く」という概念にここまで時間をとって考えるようになる前から、私は「あなた」対「わたし」という、どちらが強いか、どちらが勝つかという関係ではなく、「課題」対「わたしたち」のような関係になるのが理想だと考えてきました。お互いに課題をどちらから見ているかは違うけど、同じテーマに向かっていて、フラットでいられる状態で仕事をするのが好きなんです。

本への感じ方は人それぞれであって、読み方が合っている、間違っているってことはないですよね。同じ本でも人によって心に響く箇所が違うのは当然だという了解が得られやすい。だから、本を真ん中に置いて語り合うことはフラットになりやすいのだと思います。

荒木:

まだまだ語り足りないところですが、お時間になってしまいました。篠田さんのお話をさらにお聞きになりたい方は、flier book laboのバックナンバーを要チェックですね。


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flier book labo の魅力が体験できるオープントークセッションは、今後も定期的に開催予定です。次回もお楽しみに!

篠田真貴子(しのだ まきこ)

1968年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年10月にほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)に入社。取締役CFOを務める。2018年11月に退任し、1年3カ月のジョブレス期間を経て、2020年3月からベンチャーのエール株式会社取締役に。家族は夫と長男(高2)、長女(中1)。趣味は料理。

荒木博行(あらき ひろゆき)

株式会社学びデザイン 代表取締役社長、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリスト、株式会社ニューズピックス NewsPicksエバンジェリスト、武蔵野大学教員就任予定。

著書に『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』『見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』(日経BP)など。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。

flier book laboについて

flier book laboは、フライヤーが主催するオンラインコミュニティです。さまざまな領域で活躍するパーソナリティによる音声コンテンツの「TALK」、パーソナリティーといっしょにオンラインで書籍について語り合うワークショップ「LIVE」、labo会員の皆さんの自主企画による読書会「CLUB」を中心に活動を行っています。

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文責:池田友美 (2021/02/01)

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