未来を変える「考え続ける力」
第11回 flier book labo オープントークセッション 【イベントレポート】

無料オンラインセミナー、今回のゲストスピーカーは、予防医学研究者であり、フライヤーのオンラインサロン「flier book labo」のパーソナリティの一人でもある石川善樹さんです。
今回のテーマは「考えること」です。ファシリテーターは、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリストの荒木博行さん。本記事では、当日の様子を再構成してお届けします。
「考える」ことの価値を過信していないか?
荒木博行(以下、荒木):今回の対談テーマは、未来を変える「考え続ける力」。善樹さんにとって「考える」とはなんでしょうか?
石川善樹さん(以下、善樹):「考える」って幻想だと僕は思います。石や川とは違って実体がありませんから、結局、人間が作り出す妄想でしかないと。
また、「考える」の定義も、「考えること」に対する価値も、時代によって変わってくるもの。いまの時代は、考えることに価値が置かれすぎていると思います。「考える教」とでもいいましょうか。
荒木:考えるなんて幻想で、考えることに価値が置かれすぎている! 興味深い指摘ですね。どういうことですか?
善樹:「考える」の価値を盲目的に信じるのではなく、「価値とは何か」「価値にどう貢献するか」を考えて、「問う」「考える」「行動する」のなかからベストなものを選ぶ必要があると思うんです。たとえばカレーをつくるときは、行動することが価値でしょう。考えてばかりいては、全然カレーができませんよね(笑)。
30代前半の僕は、問いを立てることが価値だと思っていました。30代半ばになると、考えることに価値を置き始めます。そしていまの僕にとっては、行動することに一番価値がある。
「問う」「考える」「行動する」のうち、どれで価値貢献するか。それは、人によって、時と場合によって違います。
荒木:なるほど。環境次第、目的次第で選ぶべきものが違ってくるということですね。善樹さんはいま、行動が重要な環境にいると。
「問う」「考える」を完全にアウトソースする「行動教」の人もいますよね。善樹さんのように「問う」「考える」プロセスを経て「行動する」を選ぶのではなく、ただただ行動だけをし続けている人たちです。
そんな人が「問うこと、考えることは上層部の人たちの仕事だ」という暗黙の理解がある組織にいたとしましょう。状況が変わり、そういう人が「問う」「考える」役割を担わなければならなくなったらどうでしょう? 何もできないかもしれませんね。
「何もしてません」と言える人が強い理由
荒木:行動から新たな問いが生まれることもあると思うんです。ある行動をする前後の善樹さんは、立てる問いも考える内容も変わってくる……と。
善樹:それはあると思います。実際、身体を動かした方が脳が活性化する、という研究もありますしね。
それと、法政大学准教授の永山晋さんによると、「移動の多様性」と「思考力」や「クリエイティビティ」には強い相関があるそうです。移動する、つまり行動すると考えやすくなる、ということです。
参勤交代がそのいい例ではないでしょうか。鎖国していたにもかかわらず、日本の文化が発展したのは、参勤交代によって強制的な移動が発生し、人々の交流が生まれたからだと解釈しています。
荒木:参勤交代ですか、なるほど。コロナ禍でのステイホームは、そういう意味ではネガティブなことでしょうか?
善樹:ある意味ではポジティブとも言えるのではないでしょうか。近所を歩き回る機会が増え、いままで知らなかった人との触れ合いが生まれたり。
荒木:たしかにそうですね。この話には、2つの側面があるように思います。まず、物理的に肉体を動かして脳が活性化されるということ。次に、新しいモノやヒトとのインタラクションによって思考が触発されるということです。
善樹:そうですね! 加えてもう一つ、移動すると自分が何者でもなくなる、という側面もあると思います。
会社というコミュニティのなかにいると、「営業部の部長」というだけで通じます。でも違う土地に行くと、その肩書きは意味をなさない。移動すればするほど、より人間としての自分が問われますよね。
この観点から言うと、大企業に勤めている人は損だと思います。「〇〇社の部長」というだけで相手に通じるから、一人の人間としての自分を知ってもらう機会を失ってしまう。わかりにくいほうがもっと知りたくなる、みたいなことってありませんか?
荒木:すごくいい指摘ですね。大きな記号があると、自分も他者も思考停止して、それ以上の問いを挟まなくなってしまう。
僕もこの前、「荒木さんって何してる人なの?」って聞かれて、すごく苦しみながら自分のことを伝えたんですよ。自分をどう表現するかを考えてみることも、大事ですよね。
善樹:僕は、「何してる人なの?」と聞かれたときに「何もしてません」って答えられることが重要な気がしています。
人間って弱くて、自分のことを理解してもらいたい生き物なんです。だからつい、「こういうことをしています」と説明してしまう。
でも説明したところで、その情報はスッと流れていってしまうもの。それならば、相手が一つひとつ、自分について発見していってくれるほうがいいと思うんです。
荒木:なるほど、おもしろいですね。そういうふうに考えるようになった原体験はあるんでしょうか。
善樹:30代前半のとき、ある会で自分がやっていることを説明したら、「ふーん」って言われたんです。ちょっと驚いたんですけど、「全然違うコミュニティだから当然だよね」という気づきがありました。
いくら日本社会で頑張っていても、別の国に行けば「ヤギも持っていないかわいそうなヤツ」と思われるかもしれないじゃないですか。
荒木:ヤギね、その通りです(笑)。
「考える人が上、行動する人が下」という風潮をどう思う?
荒木:視聴者の方からのコメントで、「考える人が上、行動する人が下という構造があるように思います」とありました。たしかにそういう風潮はあるかもしれませんね。この点について、善樹さんはどう思いますか?
善樹:その人が何に価値を置いているかですよね。考える人が上と思う人がいるのはわかります。
荒木:そうですね。僕は、いい・悪いじゃなくて、外部環境とマッチしていればいいと思います。
善樹:僕は今まで、『問い続ける力』『考え続ける力』という本を出版してきました。
『問い続ける力』には「問うことには価値がある」、『考え続ける力』には「問いなんかに価値はない、考えろ」というメッセージを込めている。そしてもし『行動し続ける力』という本を出版したら、「考えること」を否定するのでしょう(笑)。
荒木:こうして進化し続けるところが、善樹さんの魅力の一つだと思っています。あらためまして、今日はありがとうございました!
「flier book labo オープントークセッション」は、今後も定期的に開催予定です。次回もお楽しみに!
石川善樹さんのご著書、監修書の要約もぜひご覧ください!
『問い続ける力』
『Mindful eating』
『フルライフ』
『考え続ける力』
石川善樹(いしかわ よしき)
予防医学研究者、博士(医学)、1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。
公益財団法人Wellbeing for Planet Earth代表理事。「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。
専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念工学など。近著は、『フルライフ』(NewsPicks Publishing)、『考え続ける力』(ちくま新書)など。
荒木博行(あらき ひろゆき)
株式会社学びデザイン 代表取締役社長、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリスト、株式会社ニューズピックス NewsPicksエバンジェリスト、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、株式会社絵本ナビ社外監査役、株式会社NOKIOO スクラ事業アドバイザー。
著書に『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』『見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』(日経BP)など。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。