
第14回 flier book labo オープントークセッション 【イベントレポート】
フライヤーが主催するオンラインコミュニティflier book laboでは、さまざまな会員限定コンテンツを提供しています。その魅力をちょっとだけ体験していただける、無料のランチタイムセッションが2021年11月18日に開催されました。
今回のゲストスピーカーは、flier book laboでパーソナリティーを務め、オンライン講座「flier book camp」で講師を務めてくださる予定の、渡邉康太郎さんです。普段はコンテクストデザイナーとして「ともに編む」をテーマに活動している渡邉さんは、今回担当予定の講座で、みんなのクリエイティビティを発揮できる場をつくりたいと語ります。誰もが持っている「弱い文脈」と、それをあわよくば「強い文脈」に育てていく過程とは——。
株式会社フライヤー アドバイザー兼エバンジェリストの荒木博行さんのファシリテーションで、渡邉さんの「柔らかい社会変革」と呼ぶべき活動に迫ります。本記事では、当日の様子を再構成してお届けします。
ライター・池田友美
こんにちは。デザイン・イノベーション・ファーム、Takramの渡邉康太郎です。普段は「コンテクストデザイン」をテーマに活動しています。「コンテクスト」という言葉は、ラテン語の原義だと「ともに編む」という意味があります。企業や組織の背景を一方的に伝えるのではなく、いっしょに編んでいく、ということができたらと考えています。今日のセミナーも、今後のオンライン講座も、みんなが持っているクリエイティビティをいかに発揮するかを考える場にしたいです。
荒木博行(以下、荒木):渡邉さんには、2021年12月から始まるflier book campというオンライン講座で、講師を務めていただきます。講座のタイトルは「人文知とビジネスをつなぐイノベーションスケッチ」です。
渡邉:「人文知」という言葉を出したのは、普段ビジネスでは扱わないようなことこそをおもしろがっていきたい、という思いからです。僕は日々の仕事で、ビジネスの教科書やメディアに出てくるようなケーススタディとは全然違うところを参照することがしばしばあります。こんなおもしろい話があるよと、複数のジャンルをまたがって考えるきっかけを提供したいと思っています。
講座では、僕だけではなく、参加者のみなさん一人ひとりの趣味を爆発させるような場にしていきたいですね。美術や漫画、将棋、スポーツ、ゲームでもなんでもいいのですが、一見ビジネスと関係ないものを深掘りして組み合わせたらどうなるか。生活のあらゆる場面にある、僕たちが心躍るものを、知的好奇心のおもむくままに、いろんな場所で咲かせられるようになります。
荒木:イノベーションスケッチの「スケッチ」とはどういう意味ですか?
渡邉:イノベーションとは、既存のもの同士を新たな作法で組み合わせる「新結合」のことですよね。誰も見たことのない組み合わせは、「明後日の方向」からやってきたりします。だからみんなの「明後日」を持ち寄って披露し、そこから刺激を得るというのはとても効果的なことだと思っています(博報堂ケトルの嶋浩一郎さんも、『アイデアはあさっての方向からやってくる』という本を書いています)。
イノベーションを起こすべくある決まった手順を学ぶのではなくて(決まった手順というものはそもそもありませんが)、「もしかしたらイノベーションにつながるかもしれないもの」を、みんなでスケッチする。そんな場にしたくて、「スケッチ」という言葉を使っています。
荒木:「人文知」というと自分からは縁遠いものに感じて、腰が引けてしまう方もいるかもしれませんが、自分が熱く語れるものならばなんでもよいということですね。ビジネスに関わりのないようなものも含めて、なるべく広く地図を広げていこう、と。
渡邉:そのとおりです。題材は学問分野なんかでなくても、自分なりの趣味でも大丈夫です。一人ひとりに広いものを求めたいというわけではなくて、ちょっとずつ違う興味関心を持った人がたくさん集まることで、全体の視野が広がるはずです。視点や認知の多様性ですね。
ビジネスの現場では、全員で同じ教科書を持って、真面目にやらなければならない、という考え自体が創造性の足かせになっているような気がします。組織での意思統一は必要ですが、それでも経済合理性という単一の物差しは貧弱で、イノベーションから遠い可能性すらある。仕事は仕事、特技は特技、遊びは遊び、趣味は趣味と区切るのではなくて、いろいろなことをおもしろがりながら、関係ないものを結びつけちゃおう、という呼びかけです。
荒木:みんな何らか好きなことやはまっていることがありますよね。自分はなぜこれにはまっちゃったんだろう、これはどういう構造なんだろうと考えて、他の人が熱を込めて語っているものを聞いてみると、自分の関わるビジネスに違う色が見えてくるということがあると思います。
渡邉:現場で企画を考えてビジネスを進めようとしている人は、めちゃくちゃ集中していますよね。画家にたとえるなら、キャンバスの目の前で絵筆を握っている状態です。でも、3メートルくらい離れて、ソファーに座りながら自分の絵を眺めると、見え方が変わるはずです。自分がこだわっていたところは全然目立たない細部のことだと気づいたり、全体のバランスが崩れて見えたり。もしかすると周りにある別の人の絵が目に入ってはっとすることもあるかもしれません。flier book campは、ソファーに座って絵を眺めるような時間にもなるのではと思います。
荒木:企画やイノベーションに関わっていない人でも、とても意義のある時間になりそうですね。仕事に集中するとどうしても視野が狭くなって、仕事と趣味を切り分けようとしてしまいます。でも、一見仕事に関係なさそうなことでも、抽象度を上げて見てみると、関連を見出すことができるようになる。自分の仕事の再定義につながると思います。
講座の最初のテーマは「弱い文脈が強い文脈になるとき」です。
ものがたりや、ものがたりを語ること自体を表す、「ナラティブ」という言葉があります。歴史は、何かしらナラティブが更新されることによって動いていると思うんです。それまで信じられていたナラティブが移り変わっていくということは、かつて異端だったものが新たな常識をつくるというプロセスだといえます。
それはビジネスの世界でも同じです。「みんなは良いって言ってないけど、これが良いんじゃない?」と、誰かが提案する。それは、誰かが社会を「誤読」し、弱いものを世の中に問うていくということです。「弱い文脈」は最初は異常と評価されてしまうし、統計的には外れ値で、現在の「非常識」に過ぎないものです。
でも、いま世に浸透しているあらゆるものは、印象派でもiPhoneでもヒップホップでもSDGsでも、かつて弱かったものが強さを帯びていった結果ですよね。講座ではこうしたものの具体例をあげて、参加者の方とのディスカッションも交えて考えていきます。きっと、「えっ、それ知らなかった!」という驚きがあると思います。
荒木:ある課題意識を持っていても、会社にとってはそれは重要ではないと見なされることは多いですよね。自分一人の弱い文脈を強い文脈に変えるためのアプローチを考えようとしても、狭い範囲での思考に留まりがちです。ビジネスの枠組みから飛び出して、まったく別の文脈から補助線を引こうとするのは、面白いアプローチですね。
渡邉:ビジネスのネタをビジネスのフィールドから持ってくると、教科書通りにしかならないし、なかなか自分の経験から話せず距離が生まれてしまうんですよね。漫画でも音楽でもダンスでも、自分がすごく興味のあるテーマや親しんでいるネタをメタファーとして取り入れていくと、いろんな発想ができて、新結合にもつながりやすいと思います。
荒木:ビジネスのネタって、手垢がついている感じがしますもんね。新しい鉱脈から持ってくるようなおもしろさがありますね。
渡邉:会社のビジネスが魚釣りだったとして、いま儲かる漁場に全員で向かっていたら、なにかの事情でそこで魚が捕れなくなった途端、ビジネスごと終わってしまう。決まったところに出かけていく人と、全然違う、まだ魚がいるかもわからない場所に出かけていく人、両方が必要なんです。
『京大的アホがなぜ必要か』という、「アホ」を礼讃する本が僕は大好きです。予測不可能でカオスな世の中で、ロジックだけでやっていこうとすることには限界があります。だから、適度にランダム性を持って行動したほうがいい。今役に立っているものだって、かつては役に立たなかったわけです。役に立たない情報でも、一定以上集まると、突然意味を帯び始める瞬間があります。その臨界点を超えるまでのプロセスは、一人よりも、みんなでキャッチボールしながらのほうが考えやすいんです。
荒木:「アホ」というのは大事なキーワードですね。自分が熱くなっていないけれど、小綺麗なネタを仕入れてきたのでこの場で披露しますというのは、あまりおもしろくないんですよね。それよりも、今めちゃくちゃはまっていることを、情熱を持って語って、そこから考えるほうが、示唆が得やすいと感じます。
渡邉:今存在しない価値観や切り口でも、勇気を持って提示してみたら、実はみんなが求めていたものだった、となることもありますよね。スティーブ・ジョブズも言っていたように、「今、何が欲しいですか」と聞いて、まだ存在しないものを答えられる人はまずいません。新しいものを提示されてはじめて、人々はそれを欲していたことに気づく。
弱い文脈を、弱いままただ自分の中にしまっておくことも一つの選択肢です。でも、ちょっとずつ、他の人との対話に活かしていくことで、浸透させられることもあるかもしれない。
もちろん、弱い文脈を育てた結果、必ずしも世界を変えなくてもいいと思います。ケビン・ケリーが「千人の忠実なファン」と言ったように、大規模なビジネスをつくらなくても、世界全体をマーケットにするのであれば、一定数が集まって充分成立するかもしれない。だったらなおさら、自分が本当に楽しめる内容をビジネスに織り込んでいくことこそが、スタート地点なのではないでしょうか。
渡邉さんの活動には、すごく社会的意義があると思います。柔らかい社会変革運動といってもいいですね。自分一人が熱くなっていることや、妄想や仮説を語る場って、今の社会にあまりないですよね。それをやるにはある種の作法や空気が必要です。心理的安全性という言葉に置き換えてもいいかもしれません。そういうものがあって、ようやく弱い文脈や妄想が話せるようになるのだと思います。
渡邉:今の組織が受け入れられない価値観を主張するのは骨が折れることです。あまりに弱く響くし、不正解だと言われてしまう。だから、本当に信頼できる人にしか言えない、という人もいるかもしれません。現在に最適化した正解・不正解だったら、たしかにそうなりますよね。
最近のベルリンでは変わった専門店が増えているそうです。粘着テープ専門店とか、ミニチュア弦楽器専門店とか。ECの発達で一般的な小売店は売り上げを落としているなか、特化型の専門店は売上を伸ばしていて、なおかつ街に特色を与えるから、街も活気づくらしいんです。これは、世界をガラッと変えるような、イノベーションではないかもしれません。でも、一見頼りなく見えるような弱いものが弱いまま世に放たれて、それが経済的に自立し、維持できているという例が増えている。それを可能にするインフラも整ってきているんです。
今の正解じゃなくて、みんながちょっとずつ、自分の正解を信じて発信できるほうが、世の中楽しいんじゃないかと思うんです。
荒木:SNSのおかげで、発信のしやすい社会になったといわれていますよね。それは一面の真実ですが、自分の弱いオピニオンをTwitterやFacebookで実際に発信できている人は、ほとんどいないですよね。発信するまでには、けっこう深い川を渡っていかなければいけない。それを一歩ずつ渡っていくと、仲間や同士ができていくという感覚があります。それは社会的にも必要なことだと思うし、「こういうことに共感してくれる人っているんだ」と知ることは、その人の自己肯定感を高めることにもつながるはずです。
渡邉:発信することは、リスクでしかないですもんね。弱いものがナイーブに弱いまま、ただ矢を受けて終わってしまう可能性だってもちろんあります。でも、それを磨いていくこともできるはずで、そのときに有効なのが小さなチームです。
ミラノやストックホルムで教えるロベルト・ベルガンティ教授によれば、イノベーションの芽を育てるには自分の近くで批判してくれるパートナーが必要だといいます。「世の中にこれが求められているからやる」というのではなくて、「自分がこれを世界へ贈りたいからやる」。そのパートナーは、手厳しくあなたを批判してきます。でも、あくまでスパーリング・パートナーなので、目的はあなたを痛めつけることではなく、あなたを強くし、弱い文脈を一緒に磨くことです。「意味のイノベーション」という分野では、このような対話による磨き込みを、一対一で行うだけではなく、専門家のグループとも行いますね。自分がやりたいことを世に投じていくまでのプロセスには、こんなやり方もあります。
荒木:改めて、講座にはどんな方に来てほしいですか? 本当は全人類だと思うんですが(笑)。
渡邉:そうですね。あえて言うなら、ビジネスを広い視野でとらえたい人、いろんな分野に興味があって、それを縦横無尽に結び付けて企画を出したい人や、自分の弱い文脈をビジネスに活かしたい人に来てもらいたいです。それから、他の人の弱い文脈や趣味関心を知って、そこからヒントを得たい人、「明後日」からのノイズを吸収したいという人にもめちゃくちゃおすすめです。
みなさんとディスカッションで盛り上がれるのを楽しみにしています!
渡邉康太郎(わたなべ こうたろう)
Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授 使い手が作り手に、消費者が表現者に変化することを促す「コンテクストデザイン」に取り組む。サービス企画立案、企業ブランディング、UI/UXデザイン、企業研修など幅広いプロジェクトを牽引。J-WAVEのブランディングプロジェクトで、新ステートメントの言語化とロゴデザインを行い、2020年度グッドデザイン賞を受賞。ほか、国内外で受賞や講演多数。著書に、『コンテクストデザイン』『ストーリー・ウィーヴィング』『デザイン・イノベーションの振り子』。
荒木博行(あらき ひろゆき)
株式会社学びデザイン 代表取締役社長、株式会社フライヤーアドバイザー兼エバンジェリスト、株式会社ニューズピックス NewsPicksエバンジェリスト、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、株式会社絵本ナビ社外監査役、株式会社NOKIOO スクラ事業アドバイザー。
著書に『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』『見るだけでわかる!ビジネス書図鑑 これからの教養編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)など。Voicy「荒木博行のbook cafe」毎朝放送中。