【高津尚志の推し本】リベラルアーツを体現したハラリの真骨頂
『21 Lessons』

フライヤーが主宰するオンラインコミュニティflier book labo。さまざまな地域、年齢、職種のメンバーが、書籍の要約から得た気づきや学びを語り合います。

コミュニティの目玉の1つに、オンライン上で書籍について語り合う読書ワークショップ「LIVE」があります。第4弾のゲストスピーカーは、スイスのビジネススクールIMDの北東アジア代表で、世界の経営幹部育成に携わる高津尚志さんです。

高津さんがおすすめする一冊は、『21 Lessons』(河出書房新社)。各国のリーダー層たちとの対話を重ねてきた高津さんが、「変化が激しく、基本的な前提が崩れつつあるいまこそ、本書を読むべき」と語る理由は何なのでしょうか? 高津さんに魅力を伺いました。

ハラリは真の「リベラルアーツ」を体現した人物

本書『21 Lessons』をおすすめする理由は何か。それは、新型コロナウイルスにより基本的な前提が大きく変わってしまったいまこそ、私たちが「立ち止まって考えるべき問い」を得るのに格好の一冊だと思ったためです。

この本自体はコロナ禍の前に書かれたものですが、著者ユヴァル・ノア・ハラリは、世界の大きな前提の変化を明確にとらえ、そのうえで私たち人間がどう生きていくべきなのかを考えに考え抜いてきた現代の人物のひとりだと、私はとらえています。『サピエンス全史』では人類の歴史をたどり、『ホモ・デウス』ではテクノロジーの進化が生み出す衝撃的な未来像を描きだした。選ばれた少数のホモ・デウス(神のヒト)が支配するか、あるいはデータがすべてを飲みこむか。彼のシナリオのいずれもが、私たちが望むものではないでしょう。

ハラリはそこで、「望んでいない未来は何だろうか? その未来を回避する方法はないか?」と自問し、私たちにその問いを投げかけます。そこには、ハラリの知識の幅広さ、洞察の確かさに加えて、人間(サピエンス)への深い愛を感じます。その結晶が『21 Lessons』だと考えています。
21 Lessons
21 Lessons
ユヴァル・ノア・ハラリ,柴田裕之(訳)
河出書房新社
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21 Lessons
21 Lessons
著者
ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之(訳)
出版社
河出書房新社
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また、本書はリベラルアーツとは何かという問いにも立ち返らせてくれます。リベラルアーツというと、「世界の人と渡り合っていくためにもつべき教養」ととらえている方も多いかもしれません。ですが、それはリベラルアーツの本当の高みとは別のものです。
ハラリは、ファクトとロジックを積み上げて現実をあぶりだし、未来を描き、さらに、まるで幽体離脱をするかのようにそれを鳥瞰する。そして、望まない未来を避け、望む未来に向かうにはどうすべきか、と問いを投げかけます。これは、現状の延長線上に必然的に帰結する未来に「ハックされずにいる」ということ。これこそ、真に知的に自由な状態だと思います。

リベラルアーツとは本来、自由人であり続けるための技術を意味します。その意味で、ハラリはリベラルアーツの高みを体現した人物だといえますし、私自身がハラリに共鳴した理由のひとつもそこにあります。

人それぞれの“21 Lessons”がある

flier book laboの参加者と対話して、印象的だったことがあります。ある方が、「21章の目次に、食糧問題、環境問題のような日本のメディアでよくとりあげられる社会問題が、なぜ入っていないのだろうか?」という問いをくださったのです。非常に面白い観点だと思いました。一方、14章は「世俗主義」をテーマにしていますが、日本では宗教の存在はあまり意識されないため、このテーマに焦点をあてる人はそこまでいないかもしれません。

ハラリは、世界中の人たちと対話を重ね、21のテーマを選び抜いたといいます。おそらくこのセレクションには、イスラエルという宗教的・政治的に複雑性を極めた地に生まれ育ったハラリの文化的背景も絡んでいるでしょう。彼自身の人生の中での様々な葛藤も反映されていると推察します。そして、そのなかで彼が彼なりの倫理観を育み、神という存在を客体化し、建設的な異議申し立てをしてきた結晶が、彼の著作群ではないでしょうか。本書で私が特に感銘を受けたのは、12章「謙虚さ」、13章「神」、14章「世俗主義」でした。ハラリの生き様が凝縮されている、ハラリの真骨頂だと思います。

21のレッスンの中でどれが特に自分に響くかは人によって異なるでしょうし、それでいいと思います。「もし私だったらどのレッスンを選ぶだろう?」と考えながら、本書と向き合ってみてもいいかもしれませんね。

『21 Lessons』をどう生かすかは私たち一人一人にゆだねられている

本書をどう生かすのか。それは私たち一人一人にゆだねられていると考えています。興味のあった章に関して知識を高めたり思索を深めたりするのに生かすのもいい。また、本書の翻訳は非常によいリズムを持っているので、21章の壮大な流れを、まるで良質な交響曲に身をゆだねるように味わってもいいでしょう。

あるいは、より実践目線だと、ビジネスパーソンなら世の中の潮流をつかみ、事業開発やマーケティングに生かせるかもしれません。また経営層なら、本書をこれからの基本的な前提を理解する礎として、自社のビジョンを描いていくのもよいでしょう。私にとっても大事な問いを数多く得られる一冊であったことはまちがいありません。リベラルアーツの高みを体現したハラリとの対話を、多くの方に味わっていただければと思います。
21 Lessons
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ユヴァル・ノア・ハラリ,柴田裕之(訳)
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21 Lessons
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ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之(訳)
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サピエンス全史(上)
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【編集後記】 高津さんはflier book laboで「地球時代のリベラルアーツ」という音声コンテンツを配信されています。「いま、この時期に、リベラルアーツを学ぶのに良い本は何か」、「その本をもとにどんな問いを投げかけようか」と力を注いでくださっています。その思いがのったコンテンツだからこそ、聞いている最中だけでなく、その後も自分にとって大事な問いが心に残り、内省の機会を与えてくださいました。

真のリベラルアーツとは何か。そのリベラルアーツの一部でも自分なりに理解しようとし、身につけていくために、いま置かれた状況で何ができるだろうか? フライヤーでコンテンツをつくる立場として、そんな問いを胸に、ハラリと再度対話をしてみたいなと思います。

LIVE第5弾以降も、さまざまなゲストスピーカーがおすすめの本を紹介してくださいます。お楽しみに!

高津尚志(たかつ なおし)

早稲田大学政治経済学部卒業後、1989年日本興業銀行に入行。フランスの経営大学院INSEADとESCP、桑沢デザイン研究所に学ぶ。ボストン コンサルティング グループ、リクルートを経て2010年11月より現職。IMDは企業の幹部育成や変革支援に特化をした、スイスに本拠を持つ世界的なビジネススクールとして知られている。主な共著書に『なぜ、日本企業は『グローバル化』でつまずくのか』『ふたたび世界で勝つために』(ともに日本経済新聞出版社)、訳書に『企業内学習入門』(シュロモ・ベンハー著)がある。

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文責:松尾美里 (2020/09/09)

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