【岩佐文夫の推し本】『2020年6月30日にまたここで会おう』

2020年5月からはじまりました、フライヤーが主催するオンラインコミュニティflier book labo。さまざまな地域、年齢、職種のメンバーが、書籍の要約から得た気づきや学びを語り合います。
コミュニティの目玉の一つに、オンライン上で書籍について語り合う読書ワークショップ「LIVE」があります。第7弾のゲストスピーカーは、プロデューサー/編集者の岩佐文夫さんでした!
岩佐さんがおすすめする一冊は、『2020年6月30日にまたここで会おう』(星海社)。2012年6月30日に東京大学の伊藤謝恩ホールで行われた、瀧本哲史さんによる“伝説の講義”の様子をまとめた一冊です。瀧本さんとは公私ともに交流があったという岩佐さんに、この本の魅力をお聞きしました。
いくら本が売れても、社会が変わらなくては意味がない
本書を選んだ理由は、思い入れのある一冊だから。瀧本哲史さんは僕にとってメンターのような人だったので、亡くなったときは大きなショックを受けました。瀧本さんと僕、この世を去る順番が逆だったんじゃないか――そう感じたくらい、僕に影響を与えてくれた人だったんです。
瀧本さんは、著書から受ける印象と、実際にお会いしたときに受ける印象がまったく違う方でした。本から、突き放すような印象を受ける方もいるでしょう。ところが実際にお話ししてみると、ご自身の時間と能力を、それを求める人に無条件で捧げてくれる人でした。
いつも楽しそうに僕の悩みごとを聞いて、解決策を導き出してくれた瀧本さん。そんな彼の雰囲気が、本書にはよく出ていると思います。
この本で瀧本さんは、「本は読むだけではいけない」と何度も書いておられます。自分の本が100万部売れることを望んでいるわけではない。たった10人しか読まなくても、その10人が行動に移してくれるほうがずっといいと。
これはまさに、僕が本を作っているときに考えていたことと同じです。本がいくら売れても、社会が変わらなければおもしろくないですから。
瀧本さんが亡くなられた後、岩佐さんが発表されたnote瀧本哲史さんと『ハーバード・ビジネス・レビュー』と
「次の世代のために何ができる?」と考える余力を
本書において共感したポイントはたくさんあるのですが、特に2つ挙げるならば、まず「個人が行動したら社会は必ず変わる」と断言していること。
個人の行動によって社会が変わるかどうかなんて、本当は誰もわからないはず。ですが瀧本さんは、そう固く信じているんです。彼は実際、「それは大変だね」「できないよ」とは決して言わない人でした。どんな状況でも「こうすればいい。それがだめなら、こうしてみたらどうだろう」と次々に提案し、「絶対にできる」と言ってくれるんです。
もう一つは、本書の最後、質疑応答のパートに書かれていることについて。瀧本さんは、参加者からの「なぜ日本を良くしたいのか」という問いに対して、「僕は自分の人生に150%満足しているので、自分の人生をますます豊かにすることよりも、自分の力をインパクトのあることに使いたいから」というようなことをおっしゃっているんですね。
僕たちはどうしても、「もっといい企業に入りたかった」「他の人が羨ましい」なんて考えてしまうものです。でも少し視野を広げてみれば、今の日本に生まれただけでラッキーですよね。戦争に巻き込まれることなく、衛生的な生活ができ、言論の自由も保障されているのですから。しかも本書を手に取る人の多くは、高度な教育を受けてきているでしょう。
そんな恵まれた人たちが、「次の世代のために何ができるだろう」と考えるのは、決して傲慢なことではないと思うんです。それくらいの余力って、きっとあるんじゃないかなと。瀧本さんの発言から、僕はそんなメッセージを受け取りました。
岩佐さんが本書の魅力を語られているnote瀧本哲史さんの肉声が伝わる本――『2020年6月30日にまたここで会おう』
未来を計画する必要なんてない
本書で一番好きな言葉は、「ボン・ヴォヤージュ(bon voyage)」です。これはフランス語で、船長たちが交わす「よき航海をゆけ」という挨拶。この挨拶は、船員たちは使わないものとされています。
なぜなら船長とは、航海するリスクを取って自ら意思決定する人だから。「ボン・ヴォヤージュ」は、意思決定する人だけが使うことを許された、特別な挨拶だったんです。そのことを知り、「ボン・ヴォヤージュと言えるような生き方をしたい」と感じました。
意思決定をしているか。その観点で言うと、僕は今、かつて想像していたよりも、はるかにおもしろい人生を歩んでいるという実感があります。
編集者になることも、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューという有名な雑誌の編集長になることもまったく想像していなかったし、「海外に住んでみたい」という夢を叶え、フリーランスになってラオスやベトナムに住むなんて思ってもいなかった。でもそんな人生が楽しくて、今はますます「未来を計画する必要はないんだ」と感じることができています。
僕は、それまで想像もできなかったような世界を築いてきて、これから先も何を経験するかまったくわかりません。でも、きっとおもしろい未来が待っていると確信しています。


岩佐さんは2020年9月から、flier book laboで「書籍の向こう側にある著者の魅力」という音声コンテンツを配信してくださっています。これまでの音声コンテンツや、今回のお話を伺って、「著者のことを考えながら読む」という新しい読書の形を発見したように感じました。岩佐さんの口から語られる瀧本さんの姿を踏まえて本書を再読すると、また別のメッセージが見えてきそうです。
今回のLIVEの様子は、別の記事で後日配信予定です。お楽しみに!
岩佐文夫(いわさ ふみお)
プロデューサー/編集者。ダイヤモンド社にてビジネス書編集者、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長などを歴任し2017年に独立。2018年3月からハノイに3か月在住し、6月よりラオスのビエンチャンに3か月滞在。現在は東京。書籍『シン・ニホン』などをプロデュース。