三谷宏治流「ほめ方・叱り方」の本質とは?
『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』

フライヤーのコミュニティflier book laboの目玉は、オンライン上で書籍について語り合う読書ワークショップ「LIVE」です。第8弾のゲストスピーカーは、KIT虎ノ門大学院の教授を務め、子ども・親・教員向けの教育活動で全国をとびまわる三谷宏治さんでした! 『戦略読書〔増補版〕』『新しい経営学』『経営戦略全史』など、要約を通じてそのご著書に親しまれている方も多いのではないでしょうか。
三谷さんがLIVEでとりあげた一冊は、『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。本書のテーマは、モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育流の「親の声かけ」です。これに関連して、三谷さんの考える「ほめ方・叱り方」とは何なのか、この本の魅力とともにお聞きしました。
ほめるためにはまず「聴く」こと
この『自分でできる子に育つ ほめ方叱り方』という本は、「無条件子育て」がベースになっています。子どもの表面的行動の善し悪しによって愛情を調整する「条件付き子育て」ではなく、子ども全体を見てあげて肯定し愛情を注ごう、と。
そのうえで提示されていたのが、「ほめるときの3つのポイント」と「叱り方4箇条」です。前者は、①成果よりもプロセスをほめる、②具体的にほめる、③質問する、ですが、これは私自身が3人娘たちを育てるとき大切にしていた、「子どもの話を、100%注意を傾けて聴く」という方針にも通じるところがあります。

たとえば子どもが運動会の徒競走で3位に入ったとしましょう。この「3位」という成果に親はどう反応すべきなのでしょうか。「3位に入れてすごいね」なのか、「1位になれなくて惜しかったね~」なのか。成果ではなくプロセスをほめるというなら、「準備にとっても頑張っていたね」というのか。
私の答えは「ほめてほしいポイントを子ども自身に聴く」です。ニコニコしながら「すごかったね~、何がうまくいった?」と尋ねます。そうしたら「最後は抜かされそうになったけど、頑張れた!」と教えてくれるかもしれません。すると「抜こうとしていた子も必死だったね。でもあなたはなぜ、あそこでスピードが落ちなかったの? すごいね。お父さんにはムリだ(笑)」といった感じで応えます。
子どもの話を聴く際に意識していたのは、どんなに話が長くても最後まで遮らずに耳を傾けること。人って最後まで関心をもって聞いてもらえるとわかると、安心して自分の考えを話せます。心理的安全性が担保されるわけです。たとえそれが失敗したときの言い訳でも、最後まで聴いてあげましょう。
ほめるときや叱るときの出発点が「聴く」ことにある、というのは子育てに限らず組織マネジメントでも同じです。ほめるも叱るも、その目的は、相手の行動の持続や変容にあるからです。あくまで主体は相手なのです。だからまずは聴くことからスタートします。つまり、上司や先輩は、部下や後輩が失敗の言い訳をしにきても、ちゃんと手をとめて相手に視線を向けて最後まで耳を傾けられるかが勝負なのです。これって上司や先輩側に余裕がないと難しいことですが。
本書の「叱り方4箇条」の1つに“「ダメ!」「違う!」をできるだけ使わない”とありました。「ダメ!」と口走る前に、子どもが何をしたかったのかを理解し、ありのままの子どもを受け入れたうえで手を差し伸べることが必要だと書かれています。親はつい感情的になってしまうから、親側が余裕をもつことはとても大切です。

私が子どもたちを叱るときに気をつけていたのは、「姉妹ゲンカの仲裁をしない」ことと「改善提案を求める」ことでした。ケンカした者同士はどちらがどれくらい悪いかわかっている。そこを親が仲裁するからこじれます。子どもは自分がウソをついても、親に信じてもらいたいのですから。だから「仲良くなったら教えて」と突き放します。
そしてもう1つが「改善提案」です。叱るような出来事がもう一度起こらないように、子どもたちには再発防止策をその場で考えてもらいます。たとえば「けるな!というポスターをつくります」となるかもしれません。その策に効果があってもなくてもいいのです。なければまたやってしまい、また私に改善提案を求められる。その繰り返しです(笑)。


大切なのは「子ども自身が考え・決めたかどうか」
LIVEでみなさんと話すなかで、「三谷さんはこだわりのレイヤーがかなり抽象度の高いところにある」といわれました。たしかに私がこだわっていたのは、常に目的レベルのことで、手段レベルのことではありません。子育てとは人材育成であり、その目的は「自立と幸せ」です。そのために「決める力」と「発想力」を育みたい。家でのお手伝いも、習いごとも、お小遣いも、すべてはそのための機会にすぎません。私はあらゆる機会において娘たちに、自分で調べ、考え、決めて、行動することを求めました。
自著の『戦略子育て』でも書きましたが、これからの世の中で、「経験や知識」はさして役立ちません。新しいものを生み出すためには、「試行錯誤する力」が必要なのです。「決める力」「発想力」は、そのためのものでもあります。
親は相談しにくる子どもがかわいいので、すぐ「アドバイス」という名の答えを与えます。こうすればお母さん・お父さんはあなたに反対しないよという事実上の答えです。でもそれに従って行ったことで失敗しても、子ども自身は何も反省しません。また、成功しても自信につながらない。自分で決めたからこそ「自信」や「反省」につながるのです。結局、親がすべきことは、子どもがどのように考えて、その主張に至ったのかを聴いてあげることです。もしその内容が不十分なら、それを指摘して「また話をしに来てね」と伝えます。それがたとえ自分の嗜好と違っていても、十分だったならば受けいれます。
子育ての主体はあくまで子どもたちです。親はそのサポーターであり応援団にしかすぎません。子どもたちが戦うフィールドの外から、でも声を枯らして応援し続けましょう。あなたの味方はここにいるよ、と。
参考:重松清『小さき者へ』の「団旗はためく下に」【編集後記】
三谷さんはflier book laboでは『ミタニ教授の独り言』という音声コンテンツを届けてくださっています。そこでの三谷さんのお話からも、自分なりの思考や発想が大事であるというメッセージが伝わってきます。
「自ら考える力」の原点には「親や上司から聞いてもらう経験」があるというのが、今回のLIVEでの大きな学びでした。相手の思考プロセスやこだわりに耳を傾ける習慣を身につけたいと思いました。子育てに限らず組織の人材育成にも活きる学びをたくさんいただいたことへの感謝を込めて。次回のLIVEもお楽しみに!
三谷さんのご著書の一部はこちらの要約から。


![戦略読書[増補版]](https://fl5cdn2.azureedge.net/summary/2373_cover_300.jpg)
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三谷宏治(みたに こうじ)
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
1964年大阪生まれ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業後、BCG、アクセンチュアで19年半、経営戦略コンサルタントとして活躍。1992年 INSEAD(インシアード)でMBA修了。2006年から教育分野に活動の舞台を移し、年間1万人以上に授業・講演。無類の本好きとして知られる。著書多数。『経営戦略全史』はビジネス書賞2冠。『ビジネスモデル全史』『新しい経営学』の他に、『お手伝い至上主義!』『戦略子育て』など戦略視点での家庭教育書も。
早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学で客員教授、放課後NPOアフタースクール・認定NPO 3keysで理事を務める。永平寺ふるさと大使、3人娘の父。