リーダーが「乱時」にもブレることなく決断するには?
中尾隆一郎の推し本『WHO YOU ARE』

フライヤーが運営するオンライン読書コミュニティ「flier book labo」。コミュニティの目玉の一つに、オンライン上で書籍について語り合う読書ワークショップ「LIVE」があります。
2021年5月の「LIVE」のゲストスピーカーは、株式会社中尾マネジメント研究所代表取締役社長であり、数々の企業のマネジメント力向上を支援している、中尾隆一郎さんでした!
中尾さんがおすすめする一冊は、『WHO YOU ARE』(日経BP)。時代も場所も異なるリーダーたちを取り上げて、企業文化について徹底的に考察した一冊です。中尾さんに、この本の魅力をお聞きしました。
『WHO YOU ARE』を課題本として選んだ理由
読書会の課題本として『WHO YOU ARE』を選んだのは、まず、登場する事例がユニークだと感じていたからです。企業文化をテーマにした本だと理解していますが、メインのトピックスの中に一般的な企業はほとんど登場せず、武士道や奴隷などの事例を出しているのがおもしろいなと。
また、読書会でおもしろい議論が生まれそうだと考えたのもひとつ。たとえばNetflix創業者、リード・ヘイスティングスの事例を見てみましょう。DVDの郵送事業で成功していたNetflixが動画配信事業に乗り出そうとしたとき、毎週の経営会議では、どうしてもDVD事業をどう最適化するかという議論に戻ってしまっていたと。そこでヘイスティングスは、経営会議からDVD事業の幹部をひとり残らず追い出すことにした――衝撃的なエピソードですが、「みなさんがヘイスティングスの立場なら、この判断ができますか?」と問いかけてみたかったんですよね。


企業理念やミッションが、あらゆる物事の判断軸になる
本書において特に共感したのは、言行を一致させることの重要性でした。
私は経営者塾「中尾塾」を運営するなかで、常に「判断軸を決めましょう」と言っています。経営者は判断軸を決め、同僚や部下に開示しましょうと。すると、同僚や部下が経営者に相談しようとしたとき、その判断軸に則っているか、自分で一次チェックができますから。
メンバーの判断軸になる――企業理念やミッション、ビジョン、バリューはそういうものだと思います。「従業員の振る舞いが企業文化に合っていない」と相談を受けることがありますが、その原因は、経営者自身が企業文化に合った振る舞いをしていないからなんですよね。つまり、経営者の言行が一致していないんです。
言行を一致させるのは簡単ではありませんから、日々の訓練が欠かせません。平時のときにできなければ、乱時にできるはずがないのです。
「値引きNG」なのに、締め日に値引き受注してきた人がいたら?
私のかつての上司に、「定価で買ってくれたお客様に対して誠実でないから、値引きは絶対にしてはいけない」というポリシーの人がいました。
ところがある日、期末の締めの3時間前に、自分の判断で値引きをして受注してきた人がいたんです。しかも、その受注を持って営業部全体の目標が達成するという、非常に貴重な受注でした。
しかしその上司は、「絶対に認めない、もう一度お客様のところに行って話をしてきなさい。その結果、キャンセルになってもかまわない」と指示したんです。どうでしょう、なかなかできないことだと思いませんか?
「目標達成のためならルールを破ってもかまわない」となると、営業担当者は、値引きして受注したことを期末まで隠し続けるようになるでしょう。そしてこの「裏ワザ」はやがて営業部の「ノウハウ」になり、さらには一種の「企業文化」のようになる。
前述の上司は、「どんなときでも常に値引きを認めない」という判断軸を持っていることで、締め日という「乱時」であってもお客様に対して誠実であり続けた。企業文化は、こうした日々の積み重ねによって形成されるのだと思います。
中尾さんは2021年5月から、flier book laboで「最高の成果を生むマネジメント」という音声コンテンツを配信してくださっています。今回のお話をうかがって、企業文化とは何なのか、企業文化を守るために「平時」にどのような選択、行動をするべきなのかという問いを受け取ったように思います。
このインタビューや『WHO YOU ARE』の要約を読み、企業文化やリーダーのあり方を考えるきっかけとしていただければ幸いです。
来月以降も、さまざまなゲストスピーカーがおすすめの本を紹介してくださいます。お楽しみに!


中尾さんのご著書の要約はこちらから






中尾隆一郎(なかお りゅういちろう)
株式会社中尾マネジメント研究所(NMI) 代表取締役社長
株式会社旅工房取締役、株式会社LIFULL取締役、LiNKX株式会社監査役
1989年リクルート入社。29年間で主に住宅、人材、IT領域に従事。住宅領域の新規事業であるスーモカウンターを6年間で売り上げを30倍、店舗数12倍、従業員数を5倍にした立役者。リクルートテクノロジーズ社長時代はリクルートグループ全体の方針「ITで勝つ」にIT人材大量採用で貢献。リクルートテクノロジーズ代表取締役社長、リクルート住まいカンパニー執行役員等を歴任後、株式会社中尾マネジメント研究所(NMI)を設立。
専門は事業執行、事業開発、マーケティング、人材採用、組織づくり、KPIマネジメント、ОJTマネジメント、管理会計など。良い組織づくりの勉強会(TTPS勉強会)主催。著書に『最高の結果を出すKPIマネジメント』(フォレスト出版)、『TTPSマネジメント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)ほか多数。