【人事プロフェショナル・安田雅彦氏の推し本『強みを活かす』】
強い組織のカギは「現場のマネージャー」にある

フライヤーの読書コミュニティflier book laboの目玉は、オンライン上で書籍について語り合う読書ワークショップ「LIVE」です。第21弾のゲストスピーカーは、ジョンソン・エンド・ジョンソンやラッシュジャパンなどさまざまな企業の人事に30年近く携わってきた安田雅彦さんです。
人事のプロフェショナルである安田さんがおすすめする一冊は『強みを活かす』(PHP研究所)。本書の魅力とともに人事担当者やマネージャーに求められる役割についてお聞きしました。
これからの人事に必要なのは、従業員との「関係性の質」を高めること
いま人事のなかでも「戦略実現パートナー」としての役割にスポットライトがあたっています。これは、企業が将来的に目指したいゴールにたどり着くために、人事戦略策定や組織設計を通じて、現実と理想とのギャップを埋めていく役割といえます。
ただし、これを実現するためには、従業員一人一人との「関係性の質」を高める「従業員パートナー」としての役割が大事になります。自社のパーパスや価値観に共感する人たちとの信頼関係をどうやって築いていくのか。そこでのカギは、人事が自己理解、他者理解、他者受容のプロセスを促すことだと考えています。
では具体的に何を実践すればいいのかに関してはあまり言語化されていません。そこで、私自身がさまざまな企業の人事に30年近く携わるなかで見出してきたメソッドを、メディアや講座を通じて発信してきました。その一環で、NewsPicks主催のプロジェクト型スクールにゲスト講師としてお越しいただいたのが、『強みを活かす』の著者、曽山哲人さんでした。曽山さんはサイバーエージェントの人事トップとして有名な方です。
この本の魅力は、彼自身が実践し成果が出たことが、再現可能なノウハウとして惜しみなく紹介されていること。曽山さんは過去に営業職としても活躍されていて、相手が理解しやすい説明をするのが得意な方です。そんな曽山さんの強みを活かした本書をもとに、flier book laboの皆さんと対話をすれば、人事の役割や意義についてより掘り下げられるのではないか。そんな思いから本書を紹介しようと決めました。


強い組織では、「現場マネージャー」が高いエンゲージメントで働いている
「従業員パートナー」としての人事の役割とは何か。それは、現場の最前線にいるマネージャーが高いエンゲージメントを保って働けるように支援することです。これが強い組織づくりの土台になります。『強みを活かす』には、まさにそこに効果を発揮するような、強みと伸びしろをバランスよく伝える「フィードバック」や1on1の方法がわかりやすく書かれています。
マネージャーのなかには「営業同行の移動中に部下とよく話しているから、フィードバックの1on1は必要ないのでは」という方がいます。ですが、日常的な会話の延長線上で話すのと、オーガナイズされた環境で話すのとでは全然違う。目的意識が明確な1on1には部下側も事前に準備をして臨むため、コミュニケーションの質が変わってくるのです。
同時に、マネージャー側も部下からのフィードバックに真摯に耳を傾けることが大切です。本書では、お互いの成長ポイントの発見に役立つ「グロースファインダー」というワークショップも紹介されているので、ぜひ読んでみてほしいですね。
私が人事をしていたときは2種類の1on1を使い分けていました。1つは1回30分ほどのキャッチアップを目的とした1on1。隔週で行い、部下の良かった点をこまめにフィードバックしたり、困ったことがないかを尋ねたりします。この1on1を機能させるには部下との日頃の関係性が問われます。つまり、部下が相談したくなるような上司でいることが大事なんです。
もう1つは、半期や四半期に一度、パフォーマンスについて1時間かけて対話する1on1。具体的なトピックは、本人の強みは何か、来期の目標は何にするのか、それを達成することで将来的にどんなキャリアを歩みたいのか、といったことです。ポイントはキャリアに関する話をすること。「今後こんなキャリアを歩みたいから、いまはこの強みをもとに、こんな経験を積もう」などと、現状とゴールへの道筋を描き出せるようになります。
このとき社外のキャリアパスも含めてディスカッションすることをおすすめします。すると、部下は「この会社には自己実現の成長機会があるし、上司もそれを支援してくれる」と理解し、目の前の業務に高いエンゲージメントをもって取り組んでくれます。それが結果的に、意欲も能力も高い人材をひきつける組織づくりにつながるのです。
「働くことで成長実感やハッピーを得られる社会」をめざす
これからの時代は、私たち一人一人が、自分のハッピーを純粋に追求することが求められると考えています。働くことは本来、成長実感や心理的充足感を得る機会です。現に私自身も人事という仕事に出合って、やりがいや充足感を得ることができました。自分自身はどんなときにハッピーなのかを理解し、その状態に近づいていくことが、世の中をハッピーにしていく一歩になると考えています。
これは個人だけでなく組織にもあてはまります。私が2021年に人事・組織コンサルティング事業を行う We Are The Peopleを起業したのも、「働くことで成長実感やハッピーを得られる社会」を実現していきたいという想いがあったから。日本の企業の99.5%は中小企業です。企業の歴史や大切にしている価値観によって、適した組織形態やパフォーマンススタイルはさまざま。それを企業の方々とともに見出し、つくっていくことができれば嬉しいですね。


安田雅彦(やすだ まさひこ)
1989年に南山大学卒業後、西友にて人事採用・教育訓練を担当、子会社出向の後に同社を退社し、2001年よりグッチグループジャパン(現ケリングジャパン)にて人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年からはジョンソン・エンド・ジョンソンにてHR Business Partnerを務め、組織人事やTalent Managementのフレーム運用、M&Aなどをリードした。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、2015年からラッシュジャパンの人事統括責任者 Head of Peopleに就任。2021年7月末に同社を退社し、人事・組織コンサルティング事業を主とする株式会社 We Are The People を起業。