「人生の転機を支えた一冊」vol.01 篠田真貴子さん
「見晴らしのいい場所に行きたい」、キャリアの指針になった本

「いま振り返ると、あの本が人生の転機を支えてくれた」

「あのとき出合った本が自分の人生観を大きく変えたかもしれない」

あなたには、そんな一冊がありますか?

フライヤーでは、「人生の転機を支えた一冊」についてうかがうインタビューを始めていきます。第1回目に登場していただくのは、社外人材によるオンライン1on1サービス「YeLL」を提供するエール株式会社取締役の篠田真貴子さんです。篠田さんは読書家で、noteで本にまつわるマガジン「きのう、なに読んだ?」や「篠田真貴子の選ぶすごい洋書!」を連載されています。

篠田さんは、フライヤーが運営するオンライン読書コミュニティflier book laboにて、パーソナリティーを務めてくださっています。篠田さんにとって「人生の転機を支えた本」は何だったのでしょうか?

「見晴らしのいい場所」にいたいという内なる声に気づかせてくれた

人生の転機を支えた一冊としてまっさきに思い浮かんだのは、「Web 2.0」ブームの火つけ役である梅田望夫さんの仕事論『ウェブ時代をゆく』。ベストセラー『ウェブ進化論』シリーズの一冊で、私が「どんな場所でキャリアを積みたいか」を考えるうえでとても大事な気づきをくれた本でした。

この本から私が受け取ったのが、「キャリアに迷ったら見晴らしのよい場所にいけ」というメッセージです。この本が出版された2007年というと、ネット通販などインターネットビジネスが私たちの生活に浸透し、社会が大きく変化している実感があった時期。周囲を見渡すと、インターネットビジネスの世界に新天地を求める人たちもいました。

一方、当時の私は30代が終わろうとしていて、伝統ある外資系大手食品メーカーに勤務していました。「もっと面白い仕事もしたい、でもこれから子育てとの両立を考えるなら働き方を刷新しないといけない」。そんなジレンマを抱え、鬱々とした気持ちがあったのは事実です。

そんななか、『ウェブ時代をゆく』を読んで、「あぁ、私は今すぐ見晴らしのいい場所に行きたいんだな」と、自らの内なる声を明確に自覚しました。私にとって見晴らしのいい場所、それは世の中の変化を生々しく感じられる場所です。この本が、自分自身が働く場所を選び、キャリアを形づくる際の指針になってくれましたね。

エール株式会社のメンバーと語らう篠田さん
ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)
ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)
梅田望夫
筑摩書房
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ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)
ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)
著者
梅田望夫
出版社
筑摩書房
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人も組織もその「背景」を知ることで、より深い理解につながる

『ウェブ時代をゆく』以外にも私の人生にとって重要な意味のある本はいくつかあります。その1つが、アメリカのファミリーセラピストのMonica McGoldrickが書いた『You Can Go Home Again: Reconnecting With Your Family』です。この本によると、ある人の行動特性や悩みの本質を知るには、その人の家族4代をさかのぼる必要があるそうです。本書では、アメリカの「建国の父」と称されるベンジャミン・フランクリンやジョン・F・ケネディの生涯をひも解きながら、その人格に影響を与えたであろう家族のルーツを解説していきます。この本から得た大きな学びは、人の行動特性は、本人でも理解できないほど複雑で、その人の祖先の生い立ちといった重層的なものによって形成されているということです。

これは個人だけでなく組織でも同じですよね。どんな企業でもベンチャーの時代があったわけで。「創業期の危機をこうやって乗り越えた」という歴史が、その企業のDNAとして現在まで受け継がれている。その歴史や背景を知っておくことは、その企業を理解するうえでとても大事なのではないかと思います。

私は約1年3カ月のジョブレスの時期を経て、2020年3月からエール株式会社の取締役になりました。それを機に、取締役の役割とは何かを改めて知りたいと思い、株式会社そのものの歴史や会社法の成り立ちについて調べることにしたのです。

法律やルールというものは時に厳然たる権力として私たちの前に立ちはだかります。ですが、どんなルールでも、それをつくった人たちの志や動機が反映されているものです。その背景を、まるで物語を読むようにひも解くと、こちらがフラットに向き合えるようになる。だから、そのルールの本質をより深く理解したうえで意思決定ができるようになるんです。

こうした体験から、「人や組織には、本人も認識していないけれどもそれ自体に影響与えた背景がある」という考え方ができ、それが私の根っこの部分になっている気がします。

「聴く」ことの力に気づかせてくれた二冊の本

ジョブレスの期間には、ありがたいことに、人に話を聴いていただくことが増え、感情や考えが整理されていきました。一方で、色々な方とお話するなかで、聴いてもらう側だけでなく、聴く側も大きな力を得られるという嬉しい発見に恵まれました。そんなときに出合ったのが、「聴く」ことを事業にしているエールでした。利害関係のない人が深く話を聴いてくれるという関係が増えていけば、きっと世の中がよくなっていく。エールの取締役という道を選んだのは、そんな確信があったためです。

「聴く」というテーマで私の拠りどころになっている本といえば、『こころの対話 25のルール』。「聴くってこういうことなんだよな」というのを教えてくれた本です。冒頭から「あなたは聞かれていない、あなたは聞いていない」とあり、胸に迫ることがありました。10年ほど前に出合ってから、折に触れて読み返している本です。

目の前の相手とよい関係を築きたいのに、なんだか構えてしまったり、苦手意識をもってしまったりすることがありませんか? これは実は、相手との間に問題があるからではなく、自分の過去において「未完了」のことが残っているから。普段は意識にものぼってこないけれど、未解決の心の傷がある。だから全く別の場面で別の人と対峙していても、その過去と似た状況に陥ると、昔の傷が反応してしまう。それで余計な一言をいって後悔することもしばしば。

ですが、人からじっくり興味をもって「聴いてもらう」ことを通じて、「未完了」を「完了」に変えられるんです。たとえ傷を完全に癒すことができなかったとしても。

こころの対話 25のルール (講談社+α文庫)
こころの対話 25のルール (講談社+α文庫)
伊藤守
講談社
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こころの対話 25のルール (講談社+α文庫)
こころの対話 25のルール (講談社+α文庫)
著者
伊藤守
出版社
講談社
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「聴く」というテーマで紹介したい本はもう一冊あって、それは『いま、翔び立つとき 女性をエンパワーすれば世界が変わる』です。著者メリンダ・ゲイツの聴く力に心が震えましたね。この本は、ビルゲイツ財団での活動やそこでメリンダが出会った女性たちを紹介しながら、教育問題、児童婚、職場でのジェンダー不平等などの現状とその解決策を提示していく一冊です。私たちの想像を絶するような過酷な状況の渦中にある人の感情をどう聴くのか――。私ならたじろいでしまうようなお話でも、メリンダはしっかりと耳を傾けて、自身を高めるための原動力にしています。

いま、翔び立つとき 女性をエンパワーすれば世界が変わる
いま、翔び立つとき 女性をエンパワーすれば世界が変わる
メリンダ・ゲイツ 久保陽子(訳)
光文社
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いま、翔び立つとき 女性をエンパワーすれば世界が変わる
いま、翔び立つとき 女性をエンパワーすれば世界が変わる
著者
メリンダ・ゲイツ 久保陽子(訳)
出版社
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読んで数カ月後に「判断の拠りどころにしている本」が見えてくる

私が常々大事にしているのが、インプットとアウトプットのバランスです。人に会うときも、第一声で「私、最近インプット過多なの」と話してしまうくらい(笑)。本を読んで終わりというインプットだけでは、なかなか学びにつながらない。人に伝わるように、自分の気づきを整理して言語化するというアウトプットを大事にしています。アウトプットの時間は自分で設定しないと後回しになりがち。だから今後は、「書く」時間をちゃんとスケジュールに入れていきたいと思っています。

あとは、色々な本にふれて数カ月後くらいに、「この本は、判断する際の拠りどころにしているな」という本がだんだんわかってきます。その本からの学びを、いかに折にふれて思い出し、実践に移せているか。これによって、「自分にとって糧になる本」を見出すことができます。

100人いれば100通りの読み方を分かち合う場

私が本についてnoteに綴っているのは、「自分が面白いと思ったものを、一人でも面白がってくれたら嬉しい」という思いがあるからです。ある本について面白いと感じるポイントって、100人いれば100通りありますよね。色んな読み方や感じ方を味わえたら読書体験がもっと豊かになるし、flier book laboはまさにそんな場だと感じました。

参加者のみなさんが本当に熱心で、すごいなと思っています。特にオンライン読書会LIVEは、一冊の本をもとにお互いの感じ方や読み方をリアルタイムで分かち合える場。あるテーマについて詳しい人から一方的に教わるのではなく、本をきっかけに気づきや感じ方を分かち合っていくスタンスがいいなと思っています。そういう雰囲気がいいなと感じる方におすすめしたいですね。

編集後記

篠田さんがキャリアの指針として大事にされていた『ウェブ時代をゆく』をはじめ、どの本もぜひじっくりお読みしたいと思うものばかりでした。また、篠田さんのおっしゃるように、「色んな読み方や感じ方」を共有し合うことで、自分の視野が広がるし、世の中の「多様性」の背景に対して思いを馳せやすくなるのではないか、と感じました。読書コミュニティflier book laboは、オンラインだからこそ、国内外のさまざまな背景の方と知り合える場。本を通して「気づき」を語り合うことの楽しさを、より多くの方に味わっていただきたい――。そんな思いを込めてコンテンツを届けていければと思いました。

コミュニティの詳細はこちらから。

flier book labo広報委員

https://twitter.com/FlierBookLabo

プロフィール:

篠田真貴子(しのだ まきこ)

1968年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年10月にほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)に入社。取締役CFOを務める。2018年11月に退任し、1年3カ月のジョブレス期間を経て、2020年3月からベンチャーのエール株式会社取締役に。家族は夫と長男(高2)、長女(中1)。趣味は料理。

読書コミュニティflier book laboとは?

フライヤーでは、オンライン読書コミュニティflier book laboを運営しています。参加者がインスピレーションを与え合い、ヒラメキを得るとともに、新しい読書の形を提案・実践する場――それが、フライヤーがめざすコミュニティのあり方です。

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文責:松尾美里 (2020/10/16)

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