【伊藤羊一さん】「人生の転機を支えた一冊」vol.02
自分の価値観になかった「勝ちぐせ」を意識させられた本

「いま振り返ると、あの本が人生の転機を支えてくれた」
「あのとき出合った本が自分の人生観を大きく変えたかもしれない」
あなたには、そんな一冊がありますか?
「人生の転機を支えた一冊」についてお聞きするインタビュー第2回目に登場していただくのは、ヤフー株式会社のコーポレートエバンジェリスト、伊藤羊一さんです。伊藤さんはフライヤーが運営するオンライン読書コミュニティflier book laboにて、パーソナリティーを務めてくださっています。伊藤さんにとって「人生の転機を支えた本」は何だったのでしょうか?
社会人としての自信を初めてもてた「転機」を支えた本
人生の転機の1つは、日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)に入行して4年目のときです。当時は営業担当だった僕は、メンタルを病んでしまっていた。精神的にはずっと引きこもり状態。実際に数週間会社に行けないこともあったほどです。そんなとき、周囲の人たちに助けられて、ある融資案件の実現にこぎつけることができた。そこから仕事が回り始めて、やっと社会人としてのスタートを切れました。そんなときに、ページが擦り切れるくらい何度も読んだのが『まずは、「勝ちぐせ」をつけなさい』という本です。
本書で提案されているのは、気分が爽やかになる行動をとること、有言実行であること、人に好かれる人になることの3つ。これらを続けていれば、「勝ち」を自分に引き寄せることができる。それを読んで、「そうか、勝つかどうかも意識しなきゃいけないんだな」と気づかされた。
僕の原動力は、「数字を上げたい」というものではなく、「関わった人を笑顔にしたい」というもの。だから「勝ちぐせ」という言葉に相容れないものを感じました。とはいえ、そもそも確固たる自分があるわけでもない、まずはフラットな気持ちで、自分にない価値観だからこそ読んでみようという心持ちでした。その甲斐あって、目の前の仕事で成果が出るようになり、社会とのつながりや自信が芽生えていったように思います。

東日本大震災で気づいた「イシュー」を設定する力の重要性
『まずは、「勝ちぐせ」をつけなさい』のほかにも、人生の転機を支えてくれた本は何冊かあります。僕は2003年、文具大手プラスの今泉嘉久さん(現会長兼社長)に出会い、「この人と一緒に働きたい」という思いで、プラスに転職を決めました。現場で事業をつくり上げる側にまわりたい――。だから財務部や経営企画部ではなく、あえて物流部門を志願した。1年半現場を見た後は、物流企画部長として物流のコスト構造改革に携わり、マーケティングや事業統合の経験を積んでいきました。
その後迎えた大きな転機が、2011年に起きた東日本大震災です。これまでの常識や仕組みが通用しなくなり、まさに「アンラーニング(学びほぐし)」が求められました。刻一刻と状況が変化するなかで、瞬時に意思決定をしなければならない。このとき「俺が決めないといけないんだ」と腹が据わり、自分のなかのリーダーシップが明確になっていきました。
リーダーシップは、決断の連続を通じて否が応でも身についていきます。けれども、それらをサポートするための思考力は鍛え直す必要があると痛烈に感じました。パッションとロジックの両輪がそろってはじめて志を実現できるのだから。そこで手に取ったのが、安宅和人さんの『イシューからはじめよ』でした。
震災のような有事は、本当にそれが解くべき問題、つまりイシュー自体が決まっていない状況です。だからこそロジカルシンキングで課題解決に臨む前に、それがイシューであるかどうかを見極めないといけない。その具体的な思考プロセスを教えてくれたのが本書でした。



面白いストーリーを語るから人はついてくる
こうして震災の経験を経て、プラスのマーケティング本部長からヴァイスプレジデントに就任し、数百人のマネジメントを行うようになりました。そこで何度も読みこんだのが、楠木建さんの『ストーリーとしての競争戦略』です。楠木さんは、優れた戦略とは、思わず人に話したくなるような面白いストーリーだとおっしゃっている。要は、面白いストーリーだから人がついてくるということです。この本自体がとにかく面白いし、ポーターの『競争の戦略』などの理論的な本だけではカバーできていなかった部分が腑に落ちました。
イシューにフォーカスし続けることと、戦略の面白さを伝えること。この両者の重要性に気づかせてくれたのが『イシューからはじめよ』と『ストーリーとしての競争戦略』です。


5年ほど前からYahoo!アカデミアの学長など、次世代リーダーの育成に携わるようになり、人の生き様が変わる瞬間に立ち会ってきました。それに伴い、自分の「こうありたい」という思いと、社会で果たしている役割との間に、葛藤が生じていることに気づきはじめました。
そんなときに読んだのが『嫌われる勇気』です。個を確立することと、共同体の一員としての使命を果たすこと。両者を満たすことが大事なのだと腹落ちさせてくれた本でしたね。哲学者と青年の対話を読み進めるなかで、自分なりの哲学が形成されていった。そして、そのプロセスを1つのサンプルとして、みんなに共有していきたいと思ったんです。
『イシューからはじめよ』と『ストーリーとしての競争戦略』が人間としての「強さ」を教えてくれた本だとすれば、『嫌われる勇気』は人間としての「あたたかさ」を学ばせてくれた本だといえます。こうした本が僕のリーダーシップや人間性の土台になっています。
本を介在して、対話から自分の内面を掘り下げられる場
一人一人がリーダーシップを育てていくうえで、僕は自分の内面を掘り下げていくことが大事だと思っているんです。その方法の1つが、人生の幸福度の変化を振り返る「ライフラインチャート」。ライフラインチャートを開示して、仲間と対話をするのですが、それって少しハードルが高いときもありませんか。
ですが、自分の大事にしている価値観を、「本」を介して伝えるという方法なら敷居が低くなる。ある本について「自分はこう思った」というのを語り合えば、自分の内面を掘り下げられるし、相手の価値観の理解にもつながりやすい。
僕がパーソナリティーを務めてきた読書コミュニティflier book laboはまさにそんな場でした。誰かが一方的に何かを教えるのではなく、参加者みんなとフラットに考えを伝え合うからこそ、心理的安全性も保ちやすいのだなと。自分はどんな人生を生きたいのか、何を使命にしたいのか。そこにモヤモヤを抱えている方にこそ、flier book laboをおすすめしたいですね。
編集後記
伊藤さんの講演やプレゼンテーションは、ご本人も「ライブ」だとおっしゃるように、聴く人を鼓舞し、エネルギーに満ちあふれています。その源流に、こんな素晴らしい本の数々があったと知り、一冊一冊と深く向き合いたいと思いました。
また、印象的だったのは、「本」を介して対話をすることで、自己理解だけでなく他者理解も進みやすくなるというお話です。多種多様な本の要約を通じて、自分の考えや想いを、差し支えない範囲でシェアし合える。flier book laboも、そんな安心感と刺激に満ちた場にできればという思いでいっぱいです。
コミュニティの詳細はこちらから。flier book labo広報委員が更新中!
伊藤羊一
ヤフー株式会社コーポレートエバンジェリスト、Yahoo!アカデミア学長。株式会社ウェイウェイ代表取締役。1967年、東京都に生まれる。東京大学経済学部卒業後、日本興業銀行に入行。2003年、プラス株式会社に転じ、事業部門であるジョインテックスカンパニーにてロジスティクス再編、事業再編などを担当し、2011年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括する。2015年にヤフー株式会社に転じ、次世代リーダー育成を行うだけでなく、グロービス経営大学院客員教授として教壇に立つほか、大手企業で様々な講演・研修を実施している。2021年4月より武蔵野大学アントレプレナーシップ学部開設、学部長に就任予定。著書には、『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』『「わかってはいるけど動けない」人のための 0秒で動け』(ともにSBクリエイティブ)、『やりたいことなんて、なくていい。将来の不安と焦りがなくなるキャリア講義』(PHP研究所)などがある。
読書コミュニティflier book labo
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