澤円さんが語る「人生の転機を支えた一冊」
徹底的な自分軸を教えてくれた本

「いま振り返ると、あの本が人生の転機を支えてくれた」

「あのとき出合った本が自分の人生観を大きく変えたかもしれない」

あなたには、そんな一冊がありますか?

フライヤーでは、「人生の転機を支えた一冊」に関するインタビューを始めています。第4回目に登場していただくのは、株式会社圓窓代表取締役であり、「プレゼンの神」として知られる澤円さんです。

澤さんは、読書コミュニティflier book laboにてパーソナリティーを務めていらっしゃいます。『個人力』などのご著書を通じて、「Being(ありたい自分)」の重要性を伝えてくださっている澤さん。「人生の転機を支えた本」は何だったのでしょうか?

「自分が気に入っているかどうかが大事」

僕の場合、「ある転機でこの本を読んで、こう変わった!」というのはないんです。人生のフェーズごとに、直感的に惹かれて読んだ本から、じわじわと影響を受けてきたといったほうが正確です。高校時代から社会人初期のころに出合い、人生のスパイスになってくれた3名の小説家を紹介したいと思います。

一人目は、流行作家として人気を博した片岡義男さん。男女の恋愛模様を淡々と客観的に描いた恋愛小説や、ハワイ・食に関するエッセイを数多く執筆されています。片岡さんの世界観でいいなと思うのは、本人が好きでやっていることが、結果的に第三者から見てもカッコよく見えているという点です。他者からの評価は関係なくて、自分が気に入っているかどうかが基準になっている。

たとえばあるエッセイでは、片岡さんが最高だと思うコーヒーの1つとして、大衆的なデリのコーヒーを挙げていました。片岡さんご自身が自分軸で生きていらっしゃるのでしょう。彼の作品を40冊ほど読むなかで、「こういうライフスタイルっていいな」と、僕の価値観に影響を与えた気がします。

撮影・山形悟

「どんな出来事も大したことではない」、村上春樹の小説が教えてくれたこと

2冊目は村上春樹さんの小説です。ハルキストの僕は、彼の作品をほぼすべて読んでいますが、あえて1冊を選ぶとしたら『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』です。暗号を取り扱う計算士の主人公が、自らに仕掛けられた「装置」の謎を探す物語です。

そのなかで印象的なシーンがあります。怪しげな二人組が突然、主人公の家を襲撃して、こう言い放つんです。「これだけは壊されたら困るというものを1ついえ。それだけは守ってやる」と。ところが、主人公が「ヴィデオモニター」というと、ヴィデオモニターが真っ先に目の前で破壊されてしまう。普通なら慌てふためくはずなのに、主人公は悠長にキッチンで冷蔵庫からビールを出して破壊行動を眺めながら飲み始める……。想像するとちょっとコミカルですよね。

僕はこのシーンを「社会のとらえ方」のメタファーとして受け取りました。どんな大変な出来事が起きても、それをネタだと思えば淡々と生きられるのではないか。

ちょうどこの小説を読んだのは、僕が社会人駆け出しのときです。プログラマーとしてキャリアをスタートさせたものの、仕事はできないし、まさに地獄の数年間。自己肯定感は低いし、心がささくれ立っていたんですよね。でも、この主人公のようなとらえ方をすれば、「起きている出来事は大したことではない」と、肩の力が抜けるような面があった。それ以降、「自分にとっていいと思えるか」という自分軸に沿って生きていくと、勤めていたマイクロソフト社から与えられる数多くのアワードを受賞するまでに至りました。もちろん、キャリアアップをしても、そうした出世志向にも固執することなく過ごしてきた。自分がどう生きようと世界は1ミリも動いていないという考え方なんです。

撮影・在本彌生

武士の世界の精神性・強さにふれた池波正太郎の小説

影響を与えた小説家の3人目は、日本の代表的な時代小説・歴史小説家の池波正太郎さん。『剣客商売』や遺作となった『仕掛人・藤枝梅安』から感じ取ったのは、西洋のマッチョイズムとは違った、武士の世界の精神性や強さです。武士としてのきちんとした振る舞いや生き方をカッコよいと思うようになったのは、池波さんの小説の影響でしょう。

それに関連して、江戸時代中期の作品で武士の心得が書かれた『葉隠』、そして新渡戸稲造の『武士道』も好きですね。『葉隠』といえば、「武士道といふは、死ぬ事と見つけたり」という一文が有名です。この文に対し、「死を美化している」と誤解する人もいますが、逆説的に読む必要があります。本来は「いつ死んでも後悔のないよう、真摯に生に向き合いなさい」というのが正しいとらえ方です。

これまで紹介してきた片岡義男さん、村上春樹さん、池波正太郎さんの作品は、自分の生き方やあり方に知らず知らずのうちに影響を及ぼしてきていますね。

葉隠 処世の道
葉隠 処世の道
前田信弘(編訳)
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葉隠 処世の道
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著者
前田信弘(編訳)
出版社
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武士道
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新渡戸稲造,矢内原忠雄(訳)
岩波書店
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武士道
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新渡戸稲造 矢内原忠雄(訳)
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撮影・在本彌生

本からの学びを得るには、「手に汗を握って読める本」を選ぶ

本からの学びを血肉にしたいのなら、選書の段階で意識したい点があります。それは当事者意識をもって読める本かどうか。手に汗を握って読める本や、主人公の立場になって読める本は、すらすら読みやすい。だから結果的に内容が吸収しやすいのです。

また、本から最大限の学びを得るには、学びを「抽象化すること」も大事です。このまえ講義で、ある理論を紹介したとき、参加者から具体例も教えてほしいといわれました。ですが、あえて具体例を挙げないのには理由があります。それは具体的なケースまで伝えると、聞いた人はその理論をどう活用するかという変数の部分にまで、ケースを丸ごと適用してしまうから。ケースはあくまでケースにすぎません。y=axという公式があるとしたら、傾きにあたるaも、変数のxに何を入れるかも、自ら考えて定義しないといけない。つまり「自分や自社の文脈でならどう適用できるか」を考えるのも自分自身なんです。

先ほど述べた『葉隠』『武士道』も、いまとは全く違う時代背景のもとで書かれた内容です。だからこそ、いまの自分に活かせることは何かという姿勢で向き合っていくと、より本質的な気づきを得られるはず。読書の効用の1つは、こうした抽象化能力を養うことかもしれません。

僕にとっての読書とは、著者が自身を削りとって生み出したものを「いただく」もの。小説であれビジネス書であれ、本にはその著者の人生のエッセンスが詰まっています。その一部を効率よく補給させていただいている。そう考えて読むと、本のありがたさを実感できます。

フライヤーの読書コミュニティflier book laboは、そんな著者のエッセンスを一緒に学び合う場ですね。高校時代の文化部のような心地よさに包まれています。本という共通項のもとに、心理的安全性が保たれた状態で気づきや感想を共有する。こうした場だからこそ、「大人の学び」が広がり、深まっていくのではないでしょうか。


編集後記

澤さんの価値観にじわじわ影響を与えてきた小説についてお聞きするなかで、「自分なりの価値基準で生きること」がいかに大事なのかを痛感しました。同時に、一冊一冊の本を著者の人生の一部だととらえることで、読書体験がより豊かになっていくように思いました。

flier book laboでは、こうしたlaboパーソナリティーの方々の本の読み解き方にふれられる場を今後もつくっていきたいと思います。コミュニティの詳細はこちらから。

flier book labo広報委員が更新中!


澤さんのご著書の要約・インタビュー記事はこちら!
「あたりまえ」が揺らぐなかで問われる「個人力」とは?
【澤円推し本】『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』

澤円(さわ まどか)

株式会社圓窓代表取締役。1969年生まれ、千葉県出身。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報共有系コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年、マイクロソフトテクノロジーセンター・センター長に就任。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみ授与される、ビル・ゲイツの名を冠した賞を受賞した。2020年8月に退社。現在は、年間300回近くのプレゼンをこなすスペシャリストとしても知られる。ボイスメディア「Voicy」で配信する「澤円の深夜の福音ラジオ」も人気。著書には、『外資系エリートのシンプルな伝え方』(KADOKAWA)、『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1 プレゼン術』(ダイヤモンド社)、伊藤羊一氏との共著『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)などがある。

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文責:松尾美里 (2021/01/20)

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