大嶋祥誉が語る「人生の転機を支えた一冊」
徹底的な自分軸を教えてくれた本

「いま振り返ると、あの本が人生の転機を支えてくれた」

「あのとき出合った本が自分の人生観を大きく変えたかもしれない」

あなたには、そんな一冊がありますか?

「人生の転機を支えた一冊」に関するインタビュー第5回目に登場していただくのは、センジュヒューマンデザインワークスの代表である大嶋祥誉さんです。エグゼクティブコーチ、人材戦略コンサルタント、作家、TM瞑想教師など、多彩な活躍をされています。

大嶋さんは、読書コミュニティflier book laboでもパーソナリティとして、自己の成長や成熟につながるコンテンツを届けてくださっています。そんな大嶋さんの「人生の転機を支えた本」は何だったのでしょうか?

人の成熟を支援することを仕事にしたい――。心の声に気づかされた一冊

人生の転機と聞いて思い浮かんだ一冊は、エーリッヒ・フロムの『愛するということ』です。衝撃的だったのは、愛することが問題解決などと同様に「技術」であるということでした。大学時代に一度読んでいましたが、マッキンゼーや他の人事系コンサルティングの組織で働くなかで、そもそも自分が「大事にしたいものは何か」という問いに向き合い、この本を読み返しました。実はそれまでどの組織にいても、どこか馴染めない自分がいたのです。

当然ビジネスの世界では、売上や収益を上げるというように、目に見えるバリューを出すことが求められます。そこで優先されるのは組織としての成長。それはそれでワクワクすることだったのですが、時として、組織の成長が人の成長に優先されることに、どこか違和感があったのも事実でした。

本来私が携わりたいのは、ビジネスの文脈における「成長」にこだわることなく、その組織にいるメンバー一人一人の人としての成長や成熟を支えていく仕事ではないか。そう思い至ったとき、偶然にもコーチングと出合い、それを学んで独立する道を選びました。

フロムは「愛する技術は鍛錬によって磨かれる」と語っています。愛するとは、能力ではなく鍛錬、つまり「行為」によって磨かれるということで、仕事はその鍛錬の場になりえると思いました。そして何より、愛は仕事を通して表現できると考えたのです。

フロムは愛とは与えることだとも述べています。この「与える」には次のような意味が込められています。「自分自身を、自分のいちばん大切なものを、自分の生命を、与えるのだ。これは別に、他人のために自分の生命を犠牲にするという意味ではない。そうではなくて、自分の中に息づいているものを与えるということである。自分の喜び、興味、理解、知識、ユーモア、悲しみなど、自分の中に息づいているもののあらゆる表現を与えるのだ」。

つまり、愛とは自分の中に息づいているものを与える行為という意味なのではないか。「愛する」とは自分らしさの表現ともいえるし、その行為そのものが、世界に自分を与えることになる。だから例えば、私がビジネス書を執筆しているのも、laboパーソナリティとして語っていることも、すべて愛の表現の一形態なのだととらえています。こんなふうに、愛の定義について考えさせてくれたのが、『愛するということ』でした。同時に、自分の内側から出てくるものを自由に伝えたいという思いとともに、独立というキャリアの転機を支えてくれた大事な一冊です。

愛するということ
愛するということ
エーリッヒ・フロム 鈴木晶(訳)
紀伊國屋書店
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愛するということ
愛するということ
著者
エーリッヒ・フロム 鈴木晶(訳)
出版社
紀伊國屋書店
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その行動は「愛」から? それとも「恐れ」から?

私はコーチングの際、クライアントの方々に「どんな行動も動機が大事」だと伝えています。そうした考えに至るきっかけをくれた本が『愛の選択』です。

この書籍が伝えている「すべての行動の選択は「恐れ」または「愛」からくる」が心に響きました。これは個人だけでなく組織も同様です。たとえば経営戦略を策定する際、その根っこに「自社が競合他社に負けて淘汰されてしまうのではないか」という恐れがあるのか。それとも「めざす世界観を広めることで社会をより良いものにしたい」という愛があるのか。同じ戦略の内容であっても、その違いによって、もたらされる結果が変わってくると思うのです。

いつも何かを選択するときには、自問します。「今この選択は『愛』からか、『恐れ』からか?」「そこに『愛』はあるのか?」そんな問いの大切さを教えてくれた本でした。

愛の選択
愛の選択
ドン・ミゲルルイス Ruiz,DonMiguel(原著) 高瀬千尋(訳)
コスモスライブラリー
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愛の選択
愛の選択
著者
ドン・ミゲルルイス Ruiz DonMiguel(原著) 高瀬千尋(訳)
出版社
コスモスライブラリー
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「意識の発達」をサポートするという私の使命を言語化してくれた『インテグラル理論』

自分や他者がどれだけ成長、成熟しているかは、「意識の発達」度合いによると思っています。それを再認識させてくれたのが、トランスパーソナル心理学の大家であるケン・ウィルバーの著書『インテグラル理論』でした。私は、人の成長や成熟を促すことをサポートしたいと思い、それに関わる仕事をしていました。ですが、そもそも「成長」や「成熟」とは、どういう状態になることだろうか。そんなふうに頭の中にあいまいに存在していた思考を、これが私の目指したい状態だと言語化してくれたのがこの書籍です。

本書の旧訳『万物の理論』は長らく絶版でしたが、より読みやすいビジネス書として復刊され、彼の思想がようやくビジネスの文脈でも広がってきました。「ティール組織」のベースとなった理論モデルとしても知られるようになりましたね。

「インテグラル(統合的)」とは、差異の中にある共通性や、多様性の中にある統一性を尊重することを意味します。こうした統合的なものの見方を獲得し、意識の発達につなげていく。本書は、それが自分の使命であり、行くべき道であると後押ししてくれました。

インテグラル理論
インテグラル理論
ケン・ウィルバー,加藤洋平(監訳),門林奨(訳)
日本能率協会マネジメントセンター
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インテグラル理論
インテグラル理論
著者
ケン・ウィルバー 加藤洋平(監訳) 門林奨(訳)
出版社
日本能率協会マネジメントセンター
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意識は一足飛びに発達するものではなく、段階を追って、螺旋のように発達していくものだと考えています。だから本書の学びをすぐに実践しなくては、と焦る必要はありません。まずは目の前のものに成長の機会と意義を見出すことから始めるとよいでしょう。ネガティブな出来事によって感情に波が生じても、その事実を冷静に受け止めたうえで、学びの機会としてとらえられるかどうか。「この体験から何を学べるか?」と、自分に問いかけてみることです。意識の進化の技術として「瞑想」を始めるのもおすすめです。

そして定期的に内省をするのもよいですね。いまの自分は過去の自分と比べて、成長できているだろうかと振り返ることで、次の段階へと歩みを進められます。インテグラル理論の学びを深めていき、一つでも行動できるものを探していく。そうすれば、いつか、インテグラル理論で表現されている究極的な意識の状態に近づいていくはずです。これを、「単一の意識と多様性という相反する価値が調和的に共存している」状態といいます。それは、また、他人の多様な価値観や存在を柔らかな心で大切にする繊細さと、自分という個を大切にしたうえで動じない強さといった、一見相反する価値を包含し、いずれも統合した状態に近づくことだとも思っています。


同様に、謙虚さと自己顕示という矛盾する二つの本性のバランスをとることが大事だと教えてくれたのが、『あなたの人生の意味』です。人間の美徳には、世俗的な成功をめざす「履歴書向きの美徳」と、葬儀でしのばれるような「追悼文向きの美徳」の二種類があります。いずれも大事だけれど、はたして後者を磨けているだろうか、と著者は静かに訴えかけてきます。

後者は一朝一夕で磨けるものではありません。世俗的な成功を目指したいという思いを手放せない場合には、気が済むまでそこにとどまるしかないと考えています。ですが、そうした自分を受容することで、執着を手放し、いつしか「追悼文向きの美徳」を培うステージに向かっていけるのではないかと思っています。

あなたの人生の意味 上
あなたの人生の意味 上
デイヴィッド・ブルックス,夏目大(訳)
早川書房
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あなたの人生の意味 上
あなたの人生の意味 上
著者
デイヴィッド・ブルックス 夏目大(訳)
出版社
早川書房
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クリティカルに読む「技術」の鍛錬の場だった、シカゴ大学大学院での学び

これまでの読書を振り返ったとき、深い読み方の鍛錬が活きていると気づきました。それは、シカゴ大学大学院人文科学学科で、「シカゴ・メソッド(シカゴ・スタイル)」として有名な学術論文の作法を徹底的に学んだことでした。シカゴ大学での講義はまさに知的格闘そのもの。自分の論を証明するには、そのテーマに関する過去の研究資料を読み込まないといけません。どんな主張があり、その前提や根拠が何なのかを調査したうえで、そのアンチテーゼとして自らの主張とその根拠をしっかり積み上げる必要があります。

そこでベースとなるのがクリティカルに読み込む技術です。これを学んでから、自分の主張を考えるときにも、その主張の前提や根拠が何なのかを深く考えるようになりました。同時に、SNSなどの情報にもクリティカルな視点で向き合い、その情報の前提や根拠について熟考して、自分とは異なる視点を得ようとするようになりました。

自分と異なる視点を得るには、「視点の多様性」に気づく必要があります。flier book laboはその絶好の場です。一冊の本に向き合い、それぞれの視点や気づきを共有し合い、「こんな読み方があるのか」と多様性にふれられるのですから。まさに一粒で二度も三度もおいしい場。今後参加者がいっそう増えていくにつれ、より多様で、より深い読み方を学べるし、読書体験が豊かになるのではないでしょうか。


編集後記

flier book laboでは、「進化する自分らしさ」という音声コンテンツを配信してくださっている大嶋さん。おすすめの書籍の紹介では、随所から「自分らしさとともに人間としての成熟を大事にしよう」というメッセージが伝わってきます。それは、大嶋さんが「愛の表現」として、想いをこめて選書し、その魅力を届けてくださっているからなのだと実感しました。

flier book laboでは、こうしたlaboパーソナリティの方々の本の読み解き方にふれられる場を今後もつくってまいります。コミュニティの詳細はこちらから。

flier book labo広報委員が更新中!


大嶋さんのご著書の要約・インタビュー記事もご覧くださいね!
「マッキンゼー流仕事術」を学ぶならこの3冊!
【大嶋祥誉の推し本】『マインドフルネスが最高の人材とチームをつくる』

大嶋祥誉(おおしま さちよ)

センジュヒューマンデザインワークス代表取締役。エグゼクティブコーチ、人材戦略コンサルタント。TM瞑想教師。上智大学卒業。米国デューク大学MBA取得。シカゴ大学大学院修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ワトソンワイアットなどの外資系コンサルティング会社や日系シンクタンクなどを経て独立。現在、経営者やビジネスリーダーに、エグゼクティブコーチング、ビジネススキル&リーダーシップ研修、チームコーチング、人材戦略コンサルティングなどを行う。また、瞑想や生産性を上げる効果的な休息法なども指導。著書に『マッキンゼー流 入社1年目問題解決の教科書』(SBクリエイティブ)、『マッキンゼーで学んだ感情コントロールの技術』(青春出版社)、『マッキンゼーで当たり前にやっている働き方デザイン』(日本能率協会マネジメントセンター) などがあり、累計部数は30万部を超える。

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文責:松尾美里 (2021/02/12)

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