岩佐文夫が語る「人生の転機を支えた一冊」
世の中にない本をつくって、人々をぎゃふんといわせたい

「いま振り返ると、あの本が人生の転機を支えてくれた」

「あのとき出合った本が自分の人生観を大きく変えたかもしれない」

あなたには、そんな一冊がありますか?

フライヤーでは、「人生の転機を支えた一冊」に関するインタビューを始めています。第6回目に登場していただくのは、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長を2017年4月まで務め、現在はフリーランスのプロデューサー・編集者として、また新しい音声メディア「VOOX」の編集長として活躍されている岩佐文夫さんです。最近では『シン・ニホン』『妄想する頭 思考する手』などの書籍のプロデュースも手掛けられました。

フライヤーの読書コミュニティflier book laboにてパーソナリティを務めている岩佐さん。ビジネス書編集者としての姿勢に影響を与えた本は何だったのでしょうか。

コンピュータの見方を180度転換させてくれた、ITフロンティアの「聖書」

人生の転機を支えた本というと選び出すのが難しいですが、ビジネス書編集者としての姿勢に決定的な影響を与えた本ならあります。それは1995年に出版された『ビーイング・デジタル : ビットの時代』です。たまたま書店で見た表紙があまりにもカッコよくて、そのときの光景を今でも覚えているほど。著者のニコラス・ネグロポンテは、MITメディアラボの創設者・上級所長であり、IT教の教祖として知られた方だと知りました。

デジタル化時代の本質を解き明かしていく本書との出合いは、僕が30歳のとき。日本生産性本部でビジネス書の編集をしていました。まだWindows95が出る前でしたが、当時「マルチメディア」といった言葉が躍っていた。しかし、僕はその流れについていけなかった。当時はコンピュータにまったく興味をもてなかったんです。人の営みに興味があるため、コンピュータはその対極のものと思っていました。

ところが、本書のこんな内容にふれて、考えがガラッと変わった。「犬は飼い主の感情を読み取るのに、コンピュータはいまだに人の感情を読み取らない」。そうか、いまのコンピュータには限界があるけれども、これからコンピュータが発展すれば、人との対話もできる可能性があるんじゃないか。コンピュータが人間を幸せにする可能性のあるものだと気づいたのです。それを機にパソコンを買い、プログラミングにすっかりハマってしまった。編集と並行して、社内の経理や売上管理などを一体化させたシステム構築に携わっていたほどです。

Being Digital
Being Digital
Negroponte,Nicholas
Knopf
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Being Digital
Being Digital
著者
Negroponte Nicholas
出版社
Knopf
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誰かのフォロワーになるのでなく、フォロワーができるような本を世に出したい

出版の世界では、あるテーマの本が売れると、二匹目のドジョウを狙って類書が次々に出てきます。ですが僕は、ビジネス書の編集者として、「次はこのコンセプトだ」というのを、いの一番に打ち出せるようになりたいと考えてきました。世の中にまだない本をつくって、人々をぎゃふんといわせたい。

八重洲ブックセンターに行くと、多種多様な本が立ち並んでいる。「まだここにないものは何か?」という引き算の発想では立ち行かなくなってしまう。ならば自分の肌で時代を感じて、自分の頭で考えて新たなものを生み出していこうと決めました。

僕は新しい著者を発掘し、その人がブレイクするチャンスをつくることが、編集者の醍醐味だととらえています。90年代半ばには「これからはイントラネットの時代がくる」と考え、そのテーマで書いていただけそうな著者を探していた。あるとき非常に魅力的な講演をされる方がいて、アポをもらって執筆を依頼しました。それが、現在、多摩大学大学院名誉教授の田坂広志さんです。そうして執筆していただいた『イントラネット経営』が田坂さんのデビュー作となりました。本書を知の巨人・立花隆さんがとりあげてくださったこともあり、田坂さんは引っ張りだことなり、その後さまざまな出版社からオファーが届いたようです。いまでは著書が数え切れないほどの著述家となられました。

誰かのフォロワーになるのではなく、フォロワーができるような本を出したい――。いま振り返ると、『ビーイング・デジタル』はこういった編集者としての姿勢に影響を与えているかもしれません。

さらにいえば、本が売れるだけでなく、本を通じてもっと人や社会にインパクトを与えられないか。そんな思いもあり2017年にフリーランスの道を選びました。最近だと、安宅和人さんの『シン・ニホン』のプロデュースでは、読者自らがシン・ニホンのビジョン実現に向けてオンライン読書会を主宰する「公式アンバサダー制度」の構築にも関わってきました。それも、『シン・ニホン』が売れるだけでなく、それを社会のムーブメントにしたいという思いがあったからです。

シン・ニホン
シン・ニホン
安宅和人
NewsPicksパブリッシング
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シン・ニホン
シン・ニホン
著者
安宅和人
出版社
NewsPicksパブリッシング
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「読書」と「行動」が一体化する喜びを教えてくれた日本論の名作

豊かな読書とは何かと考えたときに、実感を伴うかどうかは大事なことですよね。ある本を読んで「めちゃめちゃ刺さった」という経験は、「読書」と「行動」が一体化してはじめて得られるものだと思います。

その背景には、大学3年生のときに初めての海外旅行でインドを旅したときの経験があります。もともと人の考え方の違いに興味がありましたが、インドに行くと、みんな異次元の人に見える。日本人同士の違いなんてささやかなことだと思えるほどのギャップの連続だった。この経験が、いったいどういったものなのかを確かめて言語化したくなったんですよね。

そこから本を読みあさっていくなかで出合ったのが、『タテ社会の人間関係』でした。社会人類学者の中根千枝さんによる日本論で、半世紀近く読み継がれている不朽の名作です。「タテ」の関係と「ヨコ」の関係という概念が印象的で、文化が人の行動や意識にいかに大きな影響を与えるのかがよくわかりました。フィールドワークを行ってきた中根さんの言葉だからこそ、インドの小さな村で滞在していた僕自身の感覚と共鳴するものがあったのだと思います。

タテ社会の人間関係
タテ社会の人間関係
中根千枝
講談社
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タテ社会の人間関係
タテ社会の人間関係
著者
中根千枝
出版社
講談社
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著者発掘の基準は、「この人、面白い」という実感をもてるかどうか

僕にとって面白い人の共通項があるとすれば、「普通ならこうするよね」という予想からはずれた考え方や行動をする点かなと。どんな人にも、独自の強みと弱みがあります。だからこそ、その人の素晴らしい部分に焦点をあてて、他者に伝わるように言語化したいと思っています。大事なのは、自分にとって面白いという実感があるかどうか。それをどうしたら多くの人に伝えられるかを考え、その道筋が思い浮かんだら勝ちです。

面白い人と出会うセレンディピティの確率を上げるために、普段から「違和感」に敏感であろうとしています。人の経歴・実績など、一定のバイアスがかかった情報から面白い人を探すとうまくいかなかった経験があります。むしろ、ニュートラルな感覚で散策するなかで、偶然「これは面白い」という言動に出くわしたときに、それを掘り下げていくほうが、面白い人を発掘できる。何よりその面白さのリアリティが増すんです。

読書には「3つの対話」がある

僕は読書には「3つの対話」があると考えています。1つめは「著者との対話」。そこでは一人でじっくり著者の考えと向き合います。これが読書の基本です。

ですが、それで終わるのはもったいなくて、2つめにあるのが、読後に内省する「自分との対話」です。著者の考えを鵜吞みにせず、自分にとっていいなと思うところを取り込んでいけばいい。

そのうえで3つめにあるのが「他者との対話」です。同じ本を読んでも印象に残ったところは人それぞれ。一人一人異なる感想をぶつけ合えるのは素晴らしい読書体験だなと。そんな「他者との対話」を楽しめるのが、flier book laboです。本を起点に、「著者との対話」をした人同士で気づきを語り合っていけば、より深いコミュニティに育っていくと思いますね。


編集後記

flier book laboでは、「書籍の向こう側にある著者の魅力」という音声コンテンツを配信してくださっている岩佐さん。岩佐さんの実際の著者インタビューにおけるエピソードが臨場感をもって語られていて、その本の魅力が胸に迫ってきます。そんな岩佐さんがビジネス書編集者として大事にしてこられた姿勢、著者発掘の軌跡にふれたことで、私自身のなかの「面白い」という感覚に、もっと素直になろう、と力が湧いてくるのを感じました。

flier book laboでは、こうしたlaboパーソナリティの方々の本の読み解き方にふれ、対話を深められる場を今後もつくってまいります。


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岩佐文夫(いわさ ふみお)

プロデューサー/編集者。新しい音声メディア「VOOX」の編集長も兼任。ダイヤモンド社にてビジネス書編集者、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長などを歴任し2017年に独立。書籍『シン・ニホン』(安宅和人著)『妄想する頭 思考する手』(暦本純一著)などをプロデュース。英治出版フェローも務める。

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文責:松尾美里 (2021/03/12)

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