三谷宏治が語る「人生の転機を支えた一冊」
SFは「本質」を探るための最高の実験場

「いま振り返ると、あの本が人生の転機を支えてくれた」

「あのとき出合った本が自分の人生観を大きく変えたかもしれない」

あなたには、そんな一冊がありますか?

フライヤーでは、「人生の転機を支えた一冊」に関するインタビューを始めています。第7回目に登場していただくのは、KIT虎ノ門大学院の教授を務め、子ども・親・教員向けの教育活動に携わっている三谷宏治さんです。

フライヤーの読書コミュニティflier book laboにてパーソナリティを務め、「発想力」「決める力」「生きる力」をテーマにした本を多数手掛けられている三谷さん。ご著書『戦略読書[増補版]』で読書遍歴も紹介されているとおり、大の読書家でもあります。その思考・発想のベースとなったのはどんな作品だったのでしょうか。

SFこそが最もヒトの本質に迫るもの

社会人になってすぐ戦略コンサルタントの道に進み、それから教育の領域へ。その間いくつか難しい局面はありました。ただ、難局の際に何らかの本に出合って支えられたというより、それまでに読んだ数多の本によって培われた私の発想力や決める力が、そういった壁を乗り越える力になっていたのです。

そのベースというとSF(サイエンス・フィクション)が思い浮かびます。あらゆるジャンルのなかでSFこそが最もヒトの本質に迫れるものだからです。これまでの人生で、私に強い衝撃を与えたSFをいくつか紹介したいと思います。

まずは、小学生の頃に読んだSF『合成怪物の逆しゅう』(注1)です。科学者のジョンは関わったAI研究に疑問を持つのですが、首謀者たちに殺され、死んだ人間の脳をパーツとするコンピュータの一部にされてしまいます。肉体は滅びても、脳だけがマシンに組み込まれて意識をもち、生き続けるのです。ジョンは抵抗を試みますが、恋人のマーサも同じ目に。そんななか二人は、色々なパーツを合成して合成生物ゴセシケをつくり、反撃していきます。ついに首謀者たちを破滅に追い込みますが、二人とも脳だけの存在であることは変わりません。

最後に二人が決めたのは、コンピュータ自体を破壊することでした。人間の姿に戻れないならと死を選んだのです。アニメで見た『フランダースの犬』(注2)と同じくらい衝撃的な結末で、とても切なくなったのを覚えています。人間であるとはどういうことなのか、脳だけではダメなのか、自分だったらどうするのか。悲哀とともに、色々なことを考えさせられた作品でした。

(注1)原作は『The Cybernetic Brains』Raymond F. Jones (1962)。日本語版は半田倹一による児童向け抄訳。
(注2)原作は『A Dog of Flanders and Other stories』Ouida(1872)。日本では1975年に全52話が放映された。

子ども・親・教員向けの教育活動で全国を飛び回っている三谷さん。
戦略読書[増補版]
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三谷宏治
日経BP 日本経済新聞出版本部
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戦略読書[増補版]
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著者
三谷宏治
出版社
日経BP 日本経済新聞出版本部
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進化の本質を学んだ『地球幼年期の終わり』

20世紀を代表するSF作家の一人であるアーサー・C・クラークの『地球幼年期の終わり』(注3)も、私のベースになっている本です。ヒトの進化を扱った長編SFで、「現人類は、そこから生まれた新人類とどんな関係になるのか?」という問いを突きつけてきます。

あるとき、圧倒的な科学力・知力を誇る異星人オーバーロードが地球に来訪し、一瞬で人類をその管理下に置きます。それから50年間、ヒトは平和で豊かな時代を享受するのですが、この支配の目的は何だったのでしょう?

それはヒトから生まれる新人類の保護と、現人類の疎開でした。新人類への階梯を登りはじめた子どもたちは、もう親世代とは言葉も感情も共有できません。見える範囲、考えるスピード、思考の深さが違いすぎて、コミュニケーションが成り立たないのです。放っておけば、親は自分たちの子を理解できず、子に理解されないまま滅ぼされてしまう――。真の進化とはそうした壮絶な「断絶」なのだとわかりました。

(注3)原作は『Childhood's End』Arthur C. Clarke(1953)

宇宙人、機械知性、神――。自分とかけ離れた存在からこそ学べる究極の本質

人間の本質を知りたいなら、心理学や行動経済学など色々な学問から学べるでしょう。ただし、心理学の実験をするといっても、あくまで対象は現在生きている人間が地球上でやるわけです。その条件は一定範囲内に収まります。しかし、SF作家たちは、どんな条件でも設定できます。私たちの生きる時代や環境とはかけ離れた存在、宇宙人、機械知性、神を対象にした、銀河レベル、宇宙レベルを舞台に、あらゆるテーマを語れるのです。

たとえば『E.T.』『未知との遭遇』のような「ファーストコンタクト」ものでは、自分とは圧倒的に違う存在に遭遇したときのコミュニケーションがテーマになります。言語どころか、思考形態や社会システムが根本的に異なる者同士が、どうやったらコミュニケーションできるのでしょうか? 相手が異世界から来た者なら、挨拶が殴り合いかもしれないし抱擁かもしれない。コミュニケーションは、膨大な前提条件が共有できてはじめて成り立つ精妙なガラス細工にすぎないのです。

このようにSFとは、物事の本質を純粋につきつめ、その(作家なりの)答えを表現するのに格好の実験場なのです。

私は大学で物理学を専攻しましたが、自然科学と、ファーストキャリアとして選んだ戦略コンサルティングは、「物事にはすべて本質と理(ことわり)がある」ことを前提とし、それを調べ明らかにする点で、まったく同じです。「なんとなく」や「私の信念」などでは済みません。

日本でも話題になった中国SF『三体』(注4)は、天体力学の「三体問題」から来ていますが、宇宙に存在する3つの物体が互いに引き合うと、実に複雑怪奇で破滅的な運動をするのです。互いに引き合う重力は単純(注5)なので、2体なら答えは美しくかつ3つ(注6)しかありません。しかし、3体問題に一般解(注7)は存在しない。無理やりコンピュータでシミュレーションしても、初期値次第であっという間に答え(3体の軌道)はカオスに落ち込みます。いつなんどき、互いにぶつかったり、1つが宇宙の彼方に放り出されたりするかわかりません。それでも物理学の世界は、そんな多体問題の本質を見抜こうとしているのです。

社会やビジネスだって同じです。一種の多体問題にすぎません。複雑すぎてやっぱり一般解はないかもしれない。ですが、その企業のその状況下にだけ当てはまる特殊解なら見つかるかもしれません。もし見つからないなら、力づくでシミュレーションでもしようじゃないですか(笑)。

(注4)原作は『三体』劉慈欣(2008)。『三体Ⅱ:黒暗森林』(2008)、『三体Ⅲ:死神永生』(2019)の三部作累計発行部数はなんと2100万部。
(注5)ニュートン力学において2体の質量をmとM、2体間の距離をRとすれば、2体が引き合う力Fは、F=GMm/R2、となる。Gは重力定数。
(注6)楕円(円を含む)、放物線、双曲線のいずれか。太陽に対して惑星はすべて楕円軌道を取っている。2017年に発見されたオウムアムアは、双曲線軌道であったため、太陽系外から飛来した恒星間天体とわかった。
(注7)いくつかの安定的な特殊解は存在する。地球と月の間のラグランジュポイントなど。

ヒトは相手を恐れ、慈しむ存在である

最後に紹介するSFは『青い星まで飛んでいけ』(注8)です。人類の末裔(まつえい)を名乗り、自らアップデートを続けるAI宇宙船団エクスによる30万年の旅。その行きつく果てはどこなのか。SF作家 小川一水の(私が選ぶ)最高傑作です。たった数十ページの短編なのですが、「ヒトの2つ本質」が埋め込まれています。

既に滅びた人類がエクスに与えていたミッションは「新しい知性の発見と探究」でした。これがヒトの第1の本質です。

彼は宇宙を放浪し、毎回大変な苦労をする羽目になりました。しかしあるとき、エクスは幼いものの活発な知性を見つけ、数万年の間、遠くからただその進化を見つめ続けます。太陽の変調によって急激な寒冷化に見舞われ、最後の親子が吹雪の中に消えるまで。エクスは助けませんでした。その知性の尊厳を守ったのです。それこそが第2の本質の顕現でした。「ヒトは相手を恐れ、慈しむ存在」なのです。

良いSFには、本質的な問いと答えが含まれています。でも子どもの頃は、ただただ楽しくて読んでいました。中学時代には、「こんなにSFばかり読んでいて、大人になって何の役にも立たないんだろうなあ」と思ったことを覚えています。ですがいま振り返ってみると、それが“Connecting the dots(点と点をつなげる)”(注9)どころか、私の発想や思考の土台になっていました。

(注8)小川一水(2011)。代表作に『老ヴォールの惑星』『導きの星』『第六大陸』『天冥の標』(第40回日本SF大賞)など。
(注9)スティーブ・ジョブズが2005年、スタンフォード大学卒業式での祝賀スピーチで語ったことのひとつ。

読書コミュニティflier book laboも、異なる背景をもった仲間たちの考えや意見から、人間の本質や社会の多様性を学べる場です。音声コンテンツ(TALK)では、自分の話した内容に会員の方から感想や問いをもらえるのが新鮮でした。メンバーと語り合うオンライン読書会のLIVEでは、メンバーの参加感を高める工夫を凝らしながら、互いの気づきをさらに活発にシェアできる場になればいいなと思います。


編集後記

flier book laboでは、『ミタニ教授の独り言』という音声コンテンツ(TALK)を届けてくださっている三谷さん。自分なりの思考や発想がいかに大事なのかを教えてくださっています。そのベースを培ってきたSFにふれ、ぜひ読んでみたいと思う作品に出合うことができました。

このTALKは、labo会員が聴いて終わりではなく、パーソナリティの方々に問いや感想を伝えられ、コメント返しがあるなど、直接の交流を楽しむことができます。laboパーソナリティとの対話やlabo会員同士での「気づきのシェア」の機会をさらに広めていけたらと思っています。


三谷さんがゲストスピーカーになられたLIVEのインタビュー記事はこちら!

三谷宏治(みたに こうじ)

KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授

1964年大阪生まれ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業後、BCG、アクセンチュアで19年半、経営戦略コンサルタントとして活躍。1992年 INSEAD(インシアード)でMBA修了。2006年から教育分野に活動の舞台を移し、年間1万人以上に授業・講演。無類の本好きとして知られる。著書多数。『経営戦略全史』はビジネス書賞2冠。『ビジネスモデル全史』『新しい経営学』の他に、『お手伝い至上主義!』『戦略子育て』などの家庭教育書も。

早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学で客員教授、放課後NPOアフタースクール・認定NPO 3keysで理事を務める。永平寺ふるさと大使、3人娘の父。

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文責:松尾美里 (2021/03/25)

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