浅田すぐるが語る「人生の転機を支えた一冊」
「紙1枚」の意義に気づかせてくれた名著

「いま振り返ると、あの本が人生の転機を支えてくれた」

「あのとき出合った本が自分の人生観を大きく変えたかもしれない」

あなたには、そんな一冊がありますか?

「人生の転機を支えた一冊」に関するインタビュー第8回目に登場していただくのは、「1枚」ワークス株式会社の代表取締役である浅田すぐるさん。作家・社会人教育のプロフェッショナルとして活躍されています。

浅田さんは、読書コミュニティflier book laboでもパーソナリティとして、「大人の学び方の型=本質」を、音声と「紙1枚」で掘り下げる学習機会を提供してくださっています。そんな浅田さんの「人生の転機を支えた本」は何だったのでしょうか?

自分のコアとは何か? トヨタ内定の道をひらいてくれた「就活本」

人生の転機はいくつかありますが、まず思い浮かぶのは2004年の就職活動のときです。就活を始めたのは大学3年生の終わりかけの頃。業界研究もままならぬまま、しかも当時はまだ就職氷河期。そんななか唯一トヨタ自動車から内定をいただき、入社することになります。

この逆転ホームランを支えてくれたのが、就活生のバイブルとして有名な、故・杉村太郎さんの『絶対内定』です。100枚以上のワークシートを通してキャリアデザインを描くことで、自分のコアが何なのかをつきとめていくという内容です。当時は文字通り三日三晩、自己分析に明け暮れました。内省を究める「我究」の末に出てきた核の1つが、「中庸」でした。具体的なエピソードは省きますが、思い返すと「二つの矛盾するものを、さらに高い段階で統一し解決していく」ことをずっと大事にしていたなと。そこで浮かび上がってきたキャリアの選択肢が、経済発展と環境保全とを両立してきたトヨタでした。自分のコアとなる「中庸」を重ねられるような企業で働きたい。そんな思いを面接で真正面から語ったことが奏功したのか、内定をいただくことができました。『絶対内定』には本当に感謝していますし、その後、トヨタ独特の「1枚」仕事術が人一倍響いた背景には、「紙1枚」による自己分析を繰り返し、最終的な思考整理の結果を「1枚」のエントリーシートに結晶化したという原体験があったからです。

絶対内定2023 自己分析とキャリアデザインの描き方
絶対内定2023 自己分析とキャリアデザインの描き方
杉村太郎 藤本健司
ダイヤモンド社
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著者
杉村太郎 藤本健司
出版社
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目の前の仕事に意義を見出すきっかけをくれた、野中郁次郎さんの名著

次に訪れた転機は、トヨタでの仕事に慣れてきた2、3年目の頃です。大学時代は年に500冊以上読むほどの、いわば活字中毒でした。ドラッカーの著書群を通して「知識労働の時代」というものを理解し、自分自身も知識労働者としてのアイデンティティをもっていた。けれども、いざ働き始めると、打ち合わせに調整、根回し、資料作成ばかりの日々。果たしてこれで世のため人のために貢献できているのだろうかと悶々としていました。

そんなとき、野中郁次郎さんの著書を読み直そうとして手に取ったのが、『知識創造企業』でした。「知識とは、人と人との関係性の中で主体的に創り出していくもの」。再読してこのような20字に思考整理したことで、決定的な気づきを得ました。そうか、資料作成や会議は、色々な部署の人との関係性を織り込んで知識を創造していくプロセスなのかと。トヨタでは、決裁資料をA3やA4サイズの「紙1枚」にまとめる文化があるのですが、この「紙1枚」こそが、仕事のあらゆる文脈が凝縮された結晶=知識そのものである――。こう再定義することで、日々の仕事に意義を見出すことができましたし、これを極めてやろうと主体的に働けるようになりました。

野中先生のSECIモデルというと、組織レベルで活用するものという認識の人が大半だと思います。ですが、どんな本でも読み方次第で、個人の仕事観やキャリアに活かすことは十分可能です。この本に限らず、私は普段からそういう読書をしていますし、だからこそ「わかって満足」ではなく「使って満足」といったメッセージを自著でも発信しています。

知識創造企業
知識創造企業
野中郁次郎,竹内弘高,梅本勝博(訳)
東洋経済新報社
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知識創造企業
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著者
野中郁次郎 竹内弘高 梅本勝博(訳)
出版社
東洋経済新報社
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松下幸之助さんのポジティブな生き方に救われた

その後2009年、米国トヨタに赴任したときにも転機が訪れました。半年で体調を崩してしまい、帰国を余儀なくされたのです。そのとき読み返して元気をもらったのが、『道をひらく』などの、松下幸之助さんの作品です。幸之助さんはもともと病弱で、大変な幼少期を過ごしていました。ですが、幸之助さんは実にポジティブに物事をとらえる方でした。通勤途中に蒸気船から海に転落したときも、「これが水の冷たい冬だったら、到底助からなかったろう」と言い、むしろ自身の強運を喜んだそうです。それくらい前向きな方だったからこそ、経営上の難局を乗り越え、前へ進んでいけたのだと思います。

何より幸之助さんの語り口には元気づけられるんですよね。幸之助さんの作品を読むにつれ、私自身の状況に対しても、「別にクビになったわけではない」と思えてきて、再起しようと前を向くことができました。

時を経て、幸之助さんによって創設されたPHP研究所から、『-超訳より超実践- 「紙1枚! 」松下幸之助』という本を上梓することができました。コンセプトは、松下幸之助の思想を「紙1枚」書くことでインストールできるというもの。今もかなり思い入れがある一冊です。

道をひらく
道をひらく
松下幸之助
PHP研究所
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道をひらく
道をひらく
著者
松下幸之助
出版社
PHP研究所
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‐超訳より超実践‐「紙1枚! 」松下幸之助
‐超訳より超実践‐「紙1枚! 」松下幸之助
浅田すぐる
PHP研究所
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‐超訳より超実践‐「紙1枚! 」松下幸之助
‐超訳より超実践‐「紙1枚! 」松下幸之助
著者
浅田すぐる
出版社
PHP研究所
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「自己完結でなく他者貢献を」、生きる指針となってくれた一冊

2012年10月に独立しましたが、当初は稼げない時期が1年ほど続きました。MBA的な経営の知識もたくさんあったのにうまくいかない。貯金も切り崩すことになり、どん底のような日々でした。そのときに私の行動を変えるきっかけをくれたのが、小林正観さんの遺作、『淡々と生きる』でした。

小林正観さんは徹底的に「受け身」のスタンスの重要性を説いていました。「いただいたご縁を最大限受け取っていくようにすれば、人生はうまくいく」。これを私なりに「能動的受身」「積極的受動」といった言葉に思考整理していました。本当に恥ずかしい限りですが、当時は「独立したからには、自分のやりたいことを好き勝手やるぞ」という心境が全面に出てしまっていたのです。

たしかに、トヨタやグロービスを辞めてまで独立起業という決断をするには、こうした衝動も必要だったとは思います。ですが、見方を変えるとこれは「自分本位」「身勝手」「自己満足」優位の状態だったともいえます。サラリーマンのときには実践できていた「他者貢献」のスタンスを、独立当初の私はすっかり忘れてしまっていたのです。

『淡々と生きる』を読んだときに、そんな「こじらせた能動性」に陥っていた自分と向き合うことができました。当時は仕事も少なく、東京の清澄白河にある図書館にいることがほとんどでした。そこでこの本を読み、「トイレ掃除」について書かれた一節になぜか突き動かされ、いてもたってもいられなくて。すぐさま図書館のトイレを30分くらい掃除して、その間はずっと涙が止まりませんでした。

あのときの涙の意味は今でもよくわかりません。ただ、あの行為は正観さんのメッセージを感得するために必要な、ある種のイニシエーションだったのかなと振り返っています。少なくとも、あの「便器が転機」だったことはまちがいありません(笑)。ともかく、この経験によって、「働く=傍(はた)を楽(らく)にする」という「仕事の本質=他者貢献」を取り戻すことができました。

遺作のもつ独特のエネルギーもあったと思いますが、それ以降は不思議と状況が一変し、気づけば10年近く事業を拡大・継続できています。拙著でも繰り返し「他者」の話をするようにしていますが、これには小林正観さんから受けた影響を、勝手ながらペイフォワードしたいという思いがあります。

今回話してきたように、「読書のおかげで仕事や人生を好転できた」という体験が私にはいくつもあります。一方で、この15年ほど「ビジネス書や自己啓発書なんて読んでもムダ」といった言説を何度も見聞きし、そのたびに何ともいえない虚しさや悔しさ、憤りを感じています。間違いなく、本で人生は変わります。にもかかわらず、真摯に頑張っている人たちのやる気を削ごうとする風潮があるのは、残念なことだと思います。

だからこそ、flier book laboのようなコミュニティ・場・集団の存在は、極めて貴重です。こうした真っ当な環境に集う人たちと関われることは、私自身にとっても本当に有意義な成長機会となっています。足を引っ張る周囲にめげず、自らの可能性を信じて頑張る人がちゃんと報われ、飛躍していける。そのための学びや気づきの瞬間を、これからも数多く創っていければ嬉しいなと思っています。

淡々と生きる
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小林正観
風雲舎
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淡々と生きる
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著者
小林正観
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編集後記

浅田さんは2021年1月から、flier book laboで「紙1枚!仕事に活かす学び型」という音声コンテンツを配信してくださっています。そこでもまさに「他者貢献」の精神が溢れ出ています。「自己完結でなく他者貢献を」という人生の指針につながった本についてお聞きできたのは、貴重な機会でした。

flier book laboの新しい場「laboゼミ」でも、浅田さんは『「1枚×20字×3ポイント説明力」養成講座』の講師を務めてくださいます。説明というアウトプットでこそ、他者にギフトを届けたいという気持ちの有無がいっそう大事になるのではないか。今回のお話をうかがって、そんな気づきを得ました。


laboゼミの詳細はこちらから!
ゲストスピーカーになられたLIVEのインタビュー記事はこちら!
紙1枚!独学法
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浅田すぐる
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浅田すぐる
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驚異の「紙1枚!」プレゼン
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浅田すぐる

「1枚」ワークス(株)代表取締役。作家・社会人教育のプロフェッショナル。著書6冊・累計41万部超。デビュー作『トヨタで学んだ「紙1枚! 」にまとめる技術』は年間ランク4位を獲得(2015年)。 研修・講演等の受講者数10,000名以上。登壇実績はトヨタ・パナソニック、海外(中国)など多数。 名古屋市出身。トヨタ自動車(株)入社後、海外営業部門にてWebマーケティング等を担当、米国勤務などを経験。(株)グロービスへの転職を経て、独立。

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文責:松尾美里 (2021/05/19)

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